今日の天っちゃん

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東横劇場公演(S43年4月)

2006年08月11日 | 舞台公演
(「演劇界」より引用)

まめ新聞・かべ新聞(S43年4月号)

黒蜥蜴、品川に出現す
妖しい美と冷たい愛嬌をこぼれんばかりにふりまく丸山黒蜥蜴がいよいよ登場

昼の部は『若きハイデルベルヒ』、夜は『黒蜥蜴』。これが四月の東横劇場の布陣です。名づけて名作路線……。片や中山仁とニュースターの戸部夕子、対するは丸山明宏と天知茂というのですから、松竹の演劇も変わったものです。

その名作路線の上演記念パーティーが三月十一日の夜、品川の光輪閣で開かれました。『ハイデルベルヒ』の潤色を担当した石原慎太郎センセイは、選挙用の後援会で咽喉を痛めたとかで姿を見せませんでしたが、『黒蜥蜴』の作者の三島由紀夫氏、演出の松浦竹夫氏をはじめ、出演者一同が舞台衣装を着けてのサービスに、会場は一種異様な空気に包まれました。というのも、黒蜥蜴は人も知る女賊。その女賊に扮した丸山明宏の真紅の唇が、シャンデリアの光を受けて、一際鮮やかだったからです。冷たく輝くダイヤの首かざり、豊満な?肉体を黒のイブニングドレスに包んだ丸山黒蜥蜴は、まさにこの夜のメインスター。大映の江波杏子さんから黄色いバラの花束を贈られて微笑む姿に、本物の女性の間から嘆声まじりの溜息が出ました。
「まあ、きれいねえ……」
そしてそのままの姿で自作の『黒蜥蜴』のテーマソングを披露してお色直しと、めまぐるしい変身。なんでも、この夜に四回も服を取りかえたとかで、これまた本物のトカゲ顔負けの脱皮のしかた。まさにニセモノ全盛の世です。

挨拶に立った永山松竹演劇担当重役は、「松竹は従来歌舞伎や新派等の、どちらかといえばやや現代と離れた芝居を上演してきましたが、これを機に、守る芝居から攻める芝居へと方向転換したい」とその抱負を語れば、続いて立った三島氏は「『黒蜥蜴』は歌舞伎です。ですから女形で見せるのが当然で、その意味では攻める芝居よりも、守るものは守ってほしい。最後の女形が登場し、最後の色男たる天知茂君が出演し、最後のロマンチストである私が書いた『黒蜥蜴』をよろしく……」と、早速氏一流のパラドックスを見せました。

それにしても今どき大々に上演記念パーティーをやる神経はどうかとも思いますが、それを承知の上でこういう催しをするところに、三島氏の三島氏たる所以があるのでしょう。水商売といわれる興行界でも、この東横の商売は、一種のばくち的な面白さがあります。丁と出るか半と出るか、まずはお手並みを拝見しましょう。[終]

*パーティー時の写真有り。舞台衣装といっても、天っちゃんは松吉爺やスタイルではない(やはり三島御大公認の色男だからして)
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