蕃神 義雄 部族民通信ブログ

部族民の精霊信仰、異界交流など独自の世界観は今も人の心奥に潜んでいます。彼等の心情と感性で今世界を批判したい。

猿でも構造、悲しき熱帯を読む 3 

2017年05月18日 | 小説
図の解説は文中
(表題これまでの投稿は5月8日、18日)


悲しき熱帯、全文497頁。レヴィストロースは1954年10月12日に起稿して翌年3月5日に校了した。同年中に叢書「人間の大地」の第2巻として出版された。後のインタビューでレヴィストロースは「中休みを勘案し、実質4ヶ月で書き上げた」と述べている。日本語訳は文化人類学者川田順三が完訳を河出から出版している。川田は訳には14年かけたと語っている。
出版までに至る事情には同叢書の選者であり第一巻(チュレ族最後の王)を著述したジャンマロリ(JeanMalaurie=歴史民族学、2017年5月にて存命97歳)が、コレージュドフランスの教授選に破れ気落ちしたレヴィストロースに「アンガジュマン」して再起を狙えと励ました本人の言が伝わる。(なお“気落ち”は投稿子ハガミの想像)
レヴィストロースはアンガジュマンを「未開と誤解される非文明人の生き様」の紹介と解釈した。生き様と世界観を紹介することで、彼らは決して「野蛮」ではなく「キリスト・デカルト的」西欧とは異なるものの倫理、論理、信仰に立脚した自然生活を享受していると啓蒙する。こうした市民の理解が北極、アマゾンの乱開発の防止につながるとの使命感が背景にある(猿でも分かる構造主義第一回目ご高覧を乞う)
一般化の故に「悲しき熱帯」はリセ高学年生徒でも読破できる文章のレベルだと語る御仁がいる。これほど投稿子を励ました解説は他になかったけれど、のちのち裏切られた気落ち感がひどく重篤だった。さらに悲惨は愛着のスタンダード辞書、一冊がばらけるまで酷使された。
2015年12月にアマゾンで購入、1年をかけてドクハした。読破とドクハは月とスッポンの差をさらに凌ぐが、私なりのドクハに至るまでにはA学院(東京駿河台)での哲学講座PierreGodo師の鞭撻を得た幸運にかかる処が大である。師からはこの作品で展開されている文章の癖、神学哲学での含蓄、用語法、ギリシャローマ神話につながる修辞などを教授された。モンテーニュと異なりイロニ(皮肉、批判、反語)は一切無いとのこと。解釈に行き詰まったら文字通り、すなわちRobert辞典での第一義(神学での解釈)で理解せよとも教わった。私的には難しい箇所にぶつかったらレヴィストロースを思い浮かべる。堅物、きまじめ、へりくつ三昧の尊顔から「意義通りに解釈せよ」が聞こえた。
一言で言えば彼の地の知識層が好む捻りと故事、言い換えと原典復帰が散りばまれる伝統に沿った、上質なフランス語論文である。
概要を早く理解したい方は川田の完訳を薦める。
この訳はレヴィストロース以上にレヴィストロースであるとも語られる。しかし2点の欠陥を持つ。
その1:ハードバック全2巻は長い。訳注を各所に附記している分の長さと思われる。その分、翻訳として完璧に近づくが、Recit(フランス文章の形態、私を主語として著者自身が知ることを述べる)の軽さは(あまり)伝わらない。
2:やはり翻訳である。日仏の文法用語法の差は、訳者の能力を超えて大きい。フランス語をある程度知る方には原典に挑戦することを勧めます。ちなみに投稿子は仏語を学生時期に4年習ったのみ、こんにちわは「サヴァ」と知る程度の仏語アマチュアです。

本文の内容は「熱帯」と「非熱帯」の記述が錯綜する。非熱帯にはフランス国内事情、学部生だった頃の思い出、フランス脱出(l’Armistice=第二次大戦での仏独休戦協定、1940年6月22日)までの経緯、ブラジル領事がビザを発給しなかった場面、アメリカビザを取得し出航できたまでとその船上の状景など。出版年は戦後10年、フランス人には対戦の記憶が生々しい筈で、非熱帯の内容には述懐が湧く内容と思われる。本投稿では「熱帯」に焦点を当てます。そして熱帯とは彼にとり、ブラジル・マトグロッソに限ると断定します。

文頭に同地の位置とレヴィストロースがフィールド調査した部族名の地図を載せました。
CADUVEO(カデュヴェオ)族がマトグロッソ南部に居住します。この地はパラグアイとの国境に近く、当時(1930年代)は未開発でレヴィストロースも民族調査に出たのですが、21世紀の世界地図と重ねると、今や都市が並び周辺は牧場、農場化していると思われる。
BOROROボロロ族が住んでいた地はそれよりも北、Cuiaba(クアアバ)の近郊。この都市は今も地図に載る。背後を高原が迫り、高原を越えてからマトグロッソが拡がる。さらなる北にNAMBIKWARAナンビクバラ族、そしてTUBIKAWAHIBチュビカバヒブ族が徘徊していた(当時は)全く知られていなかった奥地。
カデュヴェオからチュビカバヒブに至る順に、それら部族の社会構成が単純化し、規模は縮小してゆく。これは基盤とする土地の生産性によるもので、カデュヴェオ族はもともと「未開」などとは規定できない社会基盤、統治制度を確立していた。
そうした土地には入植者が早く入り込んだので、前記の順に「西洋化」の色合いが濃から淡へと変わっている。
本投稿ではレヴィストロースが最も調査、記述に力を入れたカデュヴェオおよびボロロを取り上げる。
カデュヴェオは投稿子の知る限り他の、アフリカ南米でどの部族も取り入れてない生活形態、半年の定住と半年の遊牧という特殊生活を実践している。原語のNomadeを遊牧と訳したが、牧すなわちウシヒツジを帯同しての移動ではない。人が狩猟具、生活什器一式を背負って移動するのである。人としたが、男は移動の途上で獲物や敵に遭うかも知れないので弓を持ち矢を背負い、追跡の用意で身軽な出で立ち。荷物を背負うのは女の痩せ背である。故にハンモックなどのかさばる用具は所有していない。停泊地に休むときは裸身を地べたに横たえ寝るという「原始生活」を実践している。そして彼らの生活環境、世界観、倫理は構造主義が語るDualite =二重性、そのものである。

猿でも構造、悲しき熱帯を読む3の了(5月18日、次回予定5月22日)
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