強くなりたい

　煙草を吸うときは外で吸います。ぽかぽかお日様を背に受けて、不健康な煙草を吸います。

　春の草花が芽吹き始めました。お母さん、貴方の好きな春の草花ですよ。ナズナの花はもう開いています。ホトケノザの花はまだもう少し開くまでにかかりそうです。蟻が歩いています。家の中に侵入してきて困ると言っていましたね。

　灰皿替わりに使っている缶の中の水は、ニコチンとタールで茶色に着色しています。これを歩いている蟻にかけたら死んじゃうでしょうね。私が飲んだら、私が死んじゃうでしょうね。

　蟻より私を殺したいです。貴方を死なせた私を殺したいです。でも、死ねません。貴方から命のバトンを受け取りましたから。このバトンを簡単に捨てられません。貴方が全身全霊で渡してくれたバトンですから。貴方が慈しみ愛し育ててくれた「私」を、そう簡単には捨てられません。

　誰にも縋らずに生きていけるように、強くなりたいです。誰にも迷惑をかけずに生きていけるように、強く強くなりたいです。「私」を大切に思い、強い心で守っていけるように強く強くなりたいです。

　こんな私でも愛してくれましたね。今もきっと愛してくれているのでしょうね。現し世の姿がなくなった今でも、子供が「愛されている」と確信できるほどに愛して愛して抱きしめて慈しんでくれましたね。

　お母さん、貴方が私の世界の中心でした。こんなことを言う私ですが、貴方のいなくなった貴方の見えなくなった世界でも生きていきます。

　見ていてください。
　強くなります。
　愛してくれた貴方の名にかけて。