ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

1分でgo!:記憶に残る入学式の式辞がやっとできたよ!

2014年04月05日 | 高等教育

 3月19日のブログで、記憶に残る卒業式の式辞についてお話しましたね。「3つのイエス」というお話でした。今回は、 一昨日の桜が満開の日に行われた鈴鹿医療科学大学の入学式の式辞についてです。果たして、新入生の記憶に残る式辞ができたのでしょうか?

 卒業式の式辞で使った「3つのイエス」を、またすぐに使うというのもどうかと思って、今度はちょっと違う方法を試してみることにしました。それは「1分でgo!」とも呼ばれている授業改善の方法です。座学の講義において、先生から学生への一方向の知識の伝達は、最も記憶に残りにくいと言われています。こんな時、何らかの形で先生と学生との間の双方向のインターラクションをとる工夫をすることが改善方法の一つですね。自分で手を上げて質問をすることのほとんどない日本の学生さんに対して、僕の授業では、クリッカーというツールを使って、クイズ問題を回答するような形をとって、学生とのインターラクションをはかっています。

 「1分でgo!」というのは、講義の途中で、短時間学生どうしのインターラクションをとっていただく方法ですね。学生たちに隣の学生と二人でペアを組んでいただき、卓上ベルの「チーン」という合図でもって、片方の学生がもう片方の学生に対して、課題に対して自分の意見を説明したり、授業のポイントを話したりします。1分経ったら、また「チーン」という音を鳴らして、今度は選手交代して説明します。

 僕は今までこの方法はやったことがなかったのですが、昨年、鈴鹿医療科学大学で教育改革・改善提案を募集したときに、事務の職員さんからこの「1分でgo!」を全講義で実施する提案がなされ、優秀提案に選ばれて表彰させていただいたのです。ところが、彼女が卓上ベルを全教室分発注しようとしたら、財務担当者からストップがかかったとのこと。たぶん財務担当者は、卓上ベルの意味がわからなかったんでしょうね。そんなこともあって、卓上ベルの意味を、大学の教職員の皆さんに知っていただこうという趣旨もあり、学長式辞で使ってみることにしました。

 

 ちなみにこの卓上ベルは、「1分でgo!」の全講義での実施を提案した事務職員さんが、100円ショップで買ってきたものです。100円のベルで十分です。

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平成26年度鈴鹿医療科学大学入学式式辞

 この度、鈴鹿医療科学大学に入学された学部637名の皆さん、そして大学院に入学された16名の皆さん、ほんとうにおめでとう。ご家族並びにご関係の皆様にも、心からお慶びを申し上げます。

 また、本日はご多用の中、本学入学式にご臨席の栄誉を賜りましたご来賓の皆様に、心から御礼申し上げます。

 本学は、平成三年に日本で最初に創立された4年制の医療系の大学であり、この分野では最も伝統と実績のある大学であります。その建学の精神は「科学技術の進歩を真に 人類の福祉と健康の向上に役立たせる」ということであり、この建学の精神のもと、順次各学部・学科を整備してまいりました。今年度は看護学部を開設するに至り、4学部9学科11コースで新入生を迎え入れることができ、名実ともに医療系の総合大学に発展しました。

 今、日本の経済は長い間のデフレ状態から脱却しつつありますが、国の成長戦略の柱の一つが、医療・福祉・健康分野でのイノベーションであります。三重県におきましても、国から「みえライフイノベーション総合特区」の認可を受け、産学官民連携のネットワークによって、さまざまなライフイノベーションの取り組みが推進されようとしています。この活動の拠点を、みえライフイノベーションプロモーションの頭文字をとって、MieLIPと呼んでいます。

 そして、鈴鹿医療科学大学はこのMieLIPの地域拠点大学に指定されており、いくつかのライフイノベーションのプロジェクトを進めています。その一つが、ロボットスーツで全国的に有名なサイバーダイン社との連携です。本学白子キャンパスでは昨年の9月より、サーバーダイン社の子会社である鈴鹿ロボケアセンターが営業を開始しており、特に足の不自由な方々に、ロボットスーツハルを用いたリハビリテーション治療を行っています。 まず、本日、本学大学院に入学された皆さんには、このようなわが国をあげてのライフイノベーションへの大きな期待の中で、今まで培った専門職としての知識と技能をさらに深化・発展させ、創造的な研究開発力を培っていただきたいと思います。そして、本学大学院生が、地域から海外に打って出ることのできるライフイノベーションに貢献することを、大いに期待しています。

 また、学士教育の面でも、医療福祉分野の技術の高度化に伴い、いっそう質の高い医療・福祉系人材の育成が求められています。

 本学は、そのような、社会の要請にこたえるべく、「知性と人間性を兼ね備えた医療・福祉スペシャリストの育成」を教育理念に掲げ、どこに出しても恥ずかしくない医療・福祉系人材を育成しようとしています。

 本学は教育の目標として、5つのことを掲げています。

1 高度な知識と技能を修得する

2 幅広い教養を身につける

3 思いやりの心を育む

4 高い倫理感を持つ

5 チーム医療に貢献する

の5つです。

 まず、この教育の理念と目標を達成するために、第一に皆さんにお願いしたいことは、大学で必死に学習するということです。

 皆さんはこれから、「医療・福祉のスペシャリスト」を目指します。つまり、その専門分野については誰にも負けない知識と技能を身につけるということです。

 医療・福祉分野の進歩は目覚ましく、どんどんと新しい診断・治療・ケアの方法が開発されています。それに伴って、各医療・福祉専門職に求められるレベルが高くなり、その結果、各種の医療・福祉関係の国家資格取得が次第に難しくなってきています。

 また、国の中央教育審議会は、日本の大学の学生の自学自習時間が世界で最も短いという調査結果にもとづき、大学に対して抜本的改革を求めました。過去の日本の大学のように、アルバイトやクラブ活動に専念しつつ、既定の年限で大学を卒業することは、困難な時代になりました。

 医療・福祉スペシャリストに求められる、誰にも負けない専門的知識と技能を身につけるためには、そして、しだいに難しくなりつつある国家資格を取得するためには、皆さんは本日から始まる大学生活において、必死に、かつ、計画的に学習することが大切です。

 皆さんにお願いしたい二つ目のことは、医療・福祉スペシャリストに求められる人間性や思いやりの心を育んでいただきたい、そしてそれを態度で示していただきたいということです。

 皆さんは「人間」ということについて、本質的なことをつきつめて考える必要があります。たとえば、「人が死ぬ」ということはどういうことなのだろうか?死期を告げられ、ショックを感じている人に、私どもはどう接すればいいのだろうか?あるいは、大切な人を失った家族が、深い悲しみから立ち直るために、どのような支援をすればいいのだろうか?また、「思いやりの心」が大切だと言っても、どうすれば、患者さんに思いが伝わるのだろうか?

 人間性や思いやりの心は、頭の中で考えているだけでは育めません。医療・福祉の現場での実習やボランティア活動を通して、そして、皆さんが接する患者さんや被介護者や社会的弱者に対して、実際に態度で示すことによって、はじめて育まれるものであります。皆さんには、大学のカリキュラムに組み込まれた医療・福祉現場の実習以外に、積極的にボランティア活動に参加することを期待します。

 皆さんにお願いしたい三つ目のことは、チーム医療に貢献するための技能や態度を身につけていただきたいということです。医療・福祉分野の高度化に伴い、患者さんや被介護者に最善の医療・福祉サービスを提供するためには、一人の専門職だけでは不可能であり、さまざまな医療・福祉専門職が連携して、チームを組んで対応することが求められています。チーム医療を効果的に進めるためには、コミュニケーション能力や対人関係のスキルを身につけることが大切です。

 コミュニケーションの第一歩は、初めて出会った人に対して挨拶をすることから始まります。本学ではこの主旨にもとづき「あいさつ運動」を継続して行っています。先ずは、キャンパス内で明るく「あいさつ」を交わし合いましょう。

 それでは、式辞を1分間ほど中断して、お互いに挨拶を交わす練習をいたします。


(この間、学生さんに隣どおしでペアを組んでいただき、卓上ベルの「チーン」という合図でもって、まずお互いに「おはようございます」の挨拶をし、右の人から左の人へ自己紹介をし、30秒でまた「チーン」を鳴らして選手交代をしていただいて、左の人から右の人へ自己紹介をしていただきました。)

 

それでは式辞を再開いたします。

 さて、本学では、教育の理念と目標を達成するために、この4月より「医療人底力教育」という新しいカリキュラムを開始いたします。この医療人底力教育では、1年間、すべての学科の学生さんが、学科混成のクラスでもって、この白子キャンパスでいっしょに学びます。混成クラスで学習する目的は、まさに教育目標に掲げられているチーム医療に貢献できる人材を育成するためです。

 たとえば、医療人底力教育では、教育目標にある「高い倫理観」を育んでいただくために、いのちの倫理について、集中的な講義が組まれています。また、医療人底力実践というカリキュラムでは、小グループに分かれて、チーム医療に必要な、さまざまなスキルを実践的に身につけていただきます。

 まず、皆さんには、自分がどのような医療・福祉スペシャリストになるのか、明確な目標を設定していただきたい。そして、その目標を達成するために、自分自身の1年間、1か月、1週間の学習計画をたて、実践をし、振り返り、そして、常に改善をしていただきたい。つまりPDCAサイクルを回していただきたいということです。PDCAとは、計画つまりPLANのP,実行つまりDOのD、振り返りつまりCHECKのC,改善つまりACTのAの頭文字をとった言葉です。

 鈴鹿医療科学大学は、そのような、日々自分自身を高めようと努力をする学生さんに、教員・職員が一丸となって、一所懸命支援をさせていただきます。

 皆さんの本学における生活が、やりがいのある素晴らしいものとなり、そして、皆さんがりっぱに地域や社会が求める医療・福祉スペシャリストに育っていただくことを期待して、式辞といたします。

 

平成26年4月2日

鈴鹿医療科学大学

学長 豊田長康

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 ちょっと長すぎましたかね。長い式辞を読んでいただいたブログの読者の皆さん、ほんとうにお疲れ様。

 式辞の途中で「1分でgo!」をやるなんて、こんな型破りの式辞を実行したのは、たぶん僕が初めてでしょうね。

 でも、果たして「1分でgo!」の効果はあったのでしょうか?

 入学式から2日が経った今日の夕方、教科書を買いに集まってきた新入生たちに声をかけ、どれだけ僕を認知しているか、そしてどれだけ式辞を覚えているか、15人くらいに聞いてみました。

 僕「こんちは」 

 学生「こんちは」

 僕「僕は誰だか知ってる?」

 学生「えーと、すみません、わかりません。」

 僕「それじゃあ、入学式の時に学長さんが話したこと何か覚えてる?」

 学生「たくさんのことを話されけど、挨拶のことだけ覚えています。」

 これが、学生からの典型的な答えでした。15人ほど聞いてみて、僕を認知できたのは一人もいませんでした。しかし、学長の式辞で何か覚えているかという質問には、全員が「挨拶」と答えました。挨拶の他に何か覚えていることがあるか、と聞きましたが、誰もいっさい覚えていませんでした。昨年の入学式の後に学生をつかまえて聞いた時は、学長の式辞は全く覚えていなかったので、「挨拶」だけでも覚えているだけ、今年は少し進歩しましたね。これが、「1分でgo!」の効果なんですね。ただ、昨年の場合はお一人だけ、両親の勧めで高校の時から僕のブログを読んでいた薬学部の女性の学生さんだけが、内容を覚えておられました。

 さて、15人ほどにインタビューして帰ろうと思った時に、「学長先生」と言って僕を呼び止めた女性の学生さんがいました。今回僕を認知できたたった一人の学生さんです。

 学生「私の父は富山県立大学の教授をしているのですが、先生のことをとても尊敬しているんです。今回の入学式は父も一緒に来ていて、ほんとうは先生とお話しがしてみたかったんです。」

 僕「えー!。それはとっても光栄ですね。今度、お父さんがこちらへお越しになったら、ぜひ遠慮なく会いに来てくださいよ。ところで、僕はブログを書いているんですよ。」

 学生「父は先生のブログを読んでいます。父からこの大学に行くように勧められたんです。」

 昨年も、ご両親が僕のブログを読んでおられた学生さんに出会ったわけですが、今年も、こんな思いがけない出会いがもう一度あるとは!!

 僕のブログを読んでいただいているお父さんに勧められて、この大学に入学していただけるなんて、ほんとうにうれしい限りです。でも、とっても責任を感じますね。この大学に入れば、きっといい教育をしてもらえるだろうと思われてお子さんに入学をお勧めになられたわけですから、その大きなご期待を絶対に裏切らないようにしないといけませんからね。

 

 

 


 



 

 

 

 

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