ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

高等教育のグランドデザイン私案(その1:いったいどのGDPを選べばいいの?)

2014年09月02日 | 高等教育

 8月22日東京丸の内の「さんさんらぼ」というところで、大学マネジメント研究会と政策分析ネットワーク(伊藤元重先生たちが中心)の共催で、第10回大学政策フォーラムが開催され、そこで、講演をさせていただきました。僕に与えられた演題は

「高等教育のグランドデザインの構築~これからの高等教育の在り方を提言する~」

基調講演2 ~研究を巡るグローバル競争の視点から~

というものでした。 国大協報告はいったん中断して、今日から数回に分けで、その講演の報告をさせていただこうと思います。今までは、データの分析ばかりしていたのですが、この講演では、そのデータにもとづいて、かなり、思い切った高等教育のグランドデザインの私案を描いてみました。政策となると必ず利害関係者が生じるので、物議をかもすかもしれないのですが、あくまでブレーンストーミングというご理解でお願いをいたします。

 前回のブログから、ずいぶんと空いてしまいましたが、実は、今までのデータを経済学の先生に相談をしたところ、まずは、GDPは名目値ではなく実質値で分析するべきとのアドバイスを受け、今までの分析をすべてやり直していたのです。それに、arisawaさんからは、GDPについてはかなり以前からのデータの分析が必要とのコメントをいただいていましたしね。

 また、前回のブログへのコメントで、arisawaさんからは、たいへん的確な2つのご指摘をいただき感謝いたします。 

 一つは、経済学の先生のご指摘と同じく、名目値ではなく実質値で分析するべきというコメントですね。僕は経済学はしろうとなので、論文数分析の拠り所にしていた科学技術指標において、共通通貨による研究費の国際比較がOECD購買力平価名目値でなされていたので、そういうものかなと思って、わざわざ名目値を使っていました。また、購買力平価名目値は、各国の物価指数の違いが購買力平価で調整されてUS$の価格で示されていると考えられたので、もし、その値をUS$のデフレータで割って実質値が求まるものであれば、経済成長率の相関関係については、名目値を使おうが実質値を使おうが、同様の結果が出るのではないかと思っていたからです。

 もう一つのarisawaさんからのご指摘は、前回のブログでご紹介したOECDのデータで、「Youth neither employed nor in education or training, 15-19 year-olds (%):15-19歳年齢層において、就職もしておらず、教育や訓練を受けていない若者(未就職無教育訓練者)」のデータについてです。OECDの表には各国の20-24歳のデータも挙げられているのですが、日本だけ15-19歳とまったく同じ数値が載っているというものです。

 実はこのことについては、ブログを書いたあとで、僕自身も気が付いたのですが、ブログ上で訂正をする前にarisawaさんからもご指摘をいただきました。そこまでお調べになって、OECDデータの不備にお気づきになるとは、arisawaさんはすごいお方だと思います。

 今後、時間を見つけて、前回のブログのこの部分は訂正をさせていただこうと思います。arisawaさんのご指摘のように、国際的なデータを分析する時には、細心の注意する必要がありますね。特に日本のデータは、高等教育と後期中等教育の合計が100%であるというデータや、研究費や研究者数のデータにしろ、どうも信用できない部分が多いような気がしています。それが、日本政府に責任があるのか、OECD側にあるのか、よくわかりませんけどね。

 そんなことで、過去のブログの論文数とGDPに関する相関分析の結果について、一部異なった結果が出る可能性があり、今後修正をさせていただく可能性があることをお断りしておきます。ただし、基本的な論旨は変わりません。

 草案段階でブログ上で公開をさせていただくと、このようなご指摘をいただけることは、あらためてありがたいことだと思います。正式の報告書に書いてしまうと、もう修正ができませんからね。

 

 なお、GDPについてOECDStatExracts、IMFのWorld Economic Outlook(WEO)、World Bank(世界銀行) Open Data の3つの公開データを調べていくうちに、僕のしろうと経済学の知識では説明ができない点が出てきたので、下に書いておきます。どなたかアドバイスをいただけると幸いです。

 まず、OECDStatExractsと世界銀行には、一人当りGDP購買力平価名目値と、一人当たりGDP購買力平価実質値が両方ともUS$表示で載っています。IMFのWEOには、一人当たりGDP購買力平価名目値は載っていますが、実質値は載っていません。購買力平価ではない一人当たりGDPについては、OECDと世界銀行には名目値、実質値両方がUS$表示で載っていますが、IMFには名目値はUS$表示で載っていますが、実質値は各国通貨で載っています。

 OECD主要19か国においてIMFの一人当たりGDP名目値(購買力平価ではない)をデフレータで実質値に直すと、arisawaさんのご指摘の通り、2005年~2011年にかけての6年平均成長率については、日本の順位は11位から3位に跳ね上がって上昇しました。これは、OECDのデータを使っても、また、世界銀行のデータを使っても同様の傾向が認められ、日本の順位はすべて3位に上昇しました。

 ただ、OECDと世界銀行では、もともと一人当たりGDP実質値が掲載されているので、念のためにそれを用いて2005年~2011年のGDP成長率を計算してみたのです。すると、日本の順位は13位となり、順位が上がる現象は見られませんでした。そこで、2005年~2011のGDP成長率について、名目値をデフレータによって求めた実質値で計算した場合と、もともと掲載されている実質値で成長率を計算した場合の相関を調べてみました。

 

 ご覧のように、両者の相関は良くありません。世界銀行のGDPを用いても同様の結果でした。

 教科書には、「GDP実質値=GDP名目値/デフレータ×100」と書かれており、このような実質値の求め方は間違っていないと思われるのですが、両者でこれだけ成長率に差が出ると、論文数とGDPの相関分析をする時に、ずいぶんと結果が変わってくる可能性があります。いったい、どちらの実質値を選択すればいいのでしょうか?


 次に、物価の変動および為替の変動の両方の影響を少なくしようと思えば、購買力平価によるGDPを分析に用いるのがより適切であると考えられます。それで僕の分析でも購買力平価を用いてきました。ただし、購買力平価にも名目値と実質値があります。

 GDP購買力平価名目値(US$)の実質値への直し方は、各国通貨とUS$の間の物価変動と為替による差については、すでに購買力平価ということで調整がなされているので、US$のデフレータだけを用いて割ればよいと考えられます。

 OECDと世界銀行の一人当たりGDP購買力平価名目値をデフレータで割って求めた実質値と、もともと掲載されている実質値とで、2005~2011年にかけての6年平均成長率を求めて相関を検討すると、先にお話をした購買力平価ではないGDPの場合と同様に、あまり良い相関ではありませんでした。デフレータ処理をしない名目値との相関も同様に良くありません。

 ところが不思議なことに気が付きました。IMFの一人当たりGDP購買力平価名目値と、OECDおよび世界銀行の一人当たりGDP購買力平価実質値とで、2005~2011にかけての6年平均成長率を計算し、両者の相関をとってみると、良好な相関が得られたのです。また、IMF名目値をUS$デフレータで割って求めた実質値による値とも良く相関をします。(US$のデフレータだけで名目値から実質値へ換算した場合、名目値と実質値のGDP成長率の相関係数はr=1となり、相関分析上は等価となります。)

 IMFは一人当たりGDP購買力平価実質値を掲載していないので、それと比べるわけにはいきませんが、IMFの一人当たりGDP購買力平価名目値は、OECDおよび世界銀行の一人当たりGDP購買力平価実質値と、多少の誤差はあるにしても、GDP成長率の相関分析上はほぼ同等に扱えるデータであると考えられます。

 今後の論文数との相関分析においては、OECDに掲載されている一人当たりGDP購買力平価実質値、および、台湾を分析に含める場合には、IMF一人当たり購買力平価名目値をデフレータで換算した実質値を用いることにします。(OECDおよび世界銀行には残念ながら台湾のGDPは掲載されていないのです。)

 このようなことで、論文数とGDPとの相関分析をすべてやり直し、やっとのことで8月22日の講演間に合わせました。そんなことで、ブログの更新も延び延びになってしまいました。

 前置きがずいぶんと長くなりましたが、これから高等教育のグランドデザイン」の講演のご報告を始めさせていただくことにします。僕の悪い癖なのですが、20分の講演時間でしたが、60枚もスライドを作ってしまいました。お許しを得て10分間講演を延長させていただきました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 まずは、日本の学術研究国際競争力を示す今までの僕のブログでご紹介したデータのオンパレードです。講演時間が短いので最初の部分は、ざっと流していく感じです。

 

 相対インパクトは各分野論文の被引用数の平均値で、世界平均が1となっています。米国はずっと1位だったのですが、最近は徐々に低下し、オランダ、ドイツ、イギリスに追い抜かれました。他のヨーロッパ諸国も急速に被引用数を伸ばしていますね。日本は最近、世界平均の1を超えたところですが、アジアの新興国に猛追されていますね。

 

 

 

 

 多少時間をとってしまうのですが、はやり、整数カウント法と分数カウント法の違い、そして、高注目度論文について説明しておかないといけないと思い、少しばかり時間をとりました。。この後のデータで、その分析が出てくるからです。

 この小括の「右肩上がりの国際競争力が低下している」という部分は意味が通じませんね。「右肩上がりの海外諸国に比べて、国際競争力が低下している。」とすべきところを、間違ったままにしてしまいました。なにせ、ほとんど徹夜状態の状況で、講演当日のぎりぎりの時間までスライド作りをしていたので。

 

 

 

 ここで、やはり時間はとってしまうのですが、FTE研究者数について説明。たいへん重要な概念ですからね。このような基本的なことを説明していくと、どんどんと講演時間が経過していきます。

 

 

 

 研究者の定義は国によりまちまち。特に日本の定義には「医局員」という非公式のポスト(?)を研究者に入れるなど、違和感を感じざるをえません。

 研究者の国際比較は困難であるものの、下のグラフのように大学研究従事者数(FTE)と論文数は統計学的に有意に正の相関をします。

 

 FTE教員数の増加率はと論文数増加率とは1対1で非常に強い相関を示します。これも、今までのブログでお示ししたデータですね。

 

 研究費の国際比較も困難なのですが、日本のGDP当りの公的研究開発資金は主要国で最低であり、かつ、この10年間増加していません。そして、下のグラフにお示しするように、大学への研究開発資金と論文数は正の相関をします。

 

 また、大学への公的開発資金の増加率についても、論文数、および大学研究従事者数の増加率と1対1で正の相関をします。

 

 

 

 日本においては、大学が80%の論文を産生していますが、研究開発費は、公的研究機関が半分を占めています。下の図に示すように、政府機関への研究開発費と大学への研究開発費の比率が大きい国ほど、GDP当り論文数は少なくなる傾向にあります。

 

第10回大学政策フォーラム

 今日は、このくらいで置いておいておきます。それほど間をおかずに、次のブログを書いていきます。次は、今までと異なるGDPのデータでもって、論文数などとの相関を検討し直したデータの説明ですね。

 

 

 

 

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