ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

ほんとうに心配な地方国立大学の将来(その3)

2012年04月16日 | 高等教育

 さて、前々回の私のブログに対して、ツイッター上で何人かの皆さんから意見をいただきました。どのご意見ももっともなご意見だと思います。今日はそれをもとにして、私の説明不足を補いたいと思います。

@kf……さん:138億円をとりにいく意味。いや、とらねばならぬ意味。「ほんとうに心配な地方国立大学(三重大も含めて)の将来」

 私のブログの主旨をご理解いただいたというふうに受け取らせていただきました。次は@pr……さんと@to……さんのやり取りです。

@pr……さん:研究の中核を引っ張るべき世代の時間が大学改革、外部資金獲得の対応に追われて枯渇。優秀な人材のもてる時間は有限。でも研究に使われず。

@to……さん:研究開発に占める大学の役割は今や大きくない。若年人口は先生方の学生時代の半分。優秀な若手研究者の卵も半分。大学にばかり人材配置してはダメだ。 

@pr……さん:大学外に人材が還流すべし、には同意です。自分の論点は、大学の生き残り方策のために大学の人材と研究(教育も)時間が枯渇するのは本末転倒、という点です

@to……さん:「一律削減の愚」なのですね。

@pr……さん:現場の熱意アイデアは重要でも所帯の小さい大学は体力が持たないでしょうね。大学ごとに法人化した問題点と思います。

 今の国立大学の現状は@pr……さんのおっしゃる通り。大学の生き残りのための大学改革が、逆に人材と研究(教育)時間を枯渇させてしまったのは、本末転倒ですね。法人化の目的は、大学に自律性を与えることにより、教育や研究等の国際競争力を高めることであったはず。しかし、運営費交付金の削減等と組み合わされていたために、せっかくの法人化による自律性付与の効果が相殺され、地方国立大学では、さらにマイナスになってしまったと思われます。

 @to……さん「一律削減の愚」、 @pr……さん「現場の熱意アイデアは重要でも所帯の小さい大学は体力が持たないでしょうね。大学ごとに法人化した問題点と思います。」についても同感。運営費交付金が一律削減されていけば、余力の小さい国立大学は、より大きなダメージを受けて、研究機能の低下が論文数の減少として表面化します。

 ただ、残念ながら、一律削減が中止される可能性は極めて低く、引き続き基盤的な運営費交付金は削減され続けると思います。それに対応するために、各大学は、教員数を削減せざるをえません。その結果、研究者が少なくなるとともに、残された教員の教育負担や雑用が増える訳ですから、さらに研究時間が減少します。

 「国立大学改革推進補助金」138億円は、従来の競争的な運営費交付金とは、かなり性格が違うように感じます。従来の競争的運営費交付金では、原則として予算はすべて、選ばれた大学に配分されます。しかし、今回の補助金は、どうも、そういう形の“ばらまき”はなされず、趣旨にかなう構造改革提案がなければ、138億円がまったく配分されないこともありえるようです。

 @pr……さんがおっしゃっているように、優秀な研究者の研究時間を確実に確保できるような大学改革が必要だと思います。今回の138億円では、それが可能となる構造改革を提案する必要があると思います。

 ただし、@to……さんがおっしゃる「研究開発に占める大学の役割は今や大きくない。若年人口は先生方の学生時代の半分。優秀な若手研究者の卵も半分。大学にばかり人材配置してはダメだ。」というご意見は、もっともな論理ではあるのですが、私は必ずしも賛成ではありません。その理由の一つは、日本の人口当たりの学術論文数は、先進国に比べてかなり少なく、19位の台湾の3分の2しかないからです。現在の日本の人口が1億2千万として、それが将来8千万人に減少したとしても、今の論文数を維持しなければ、台湾と同じになりません。英米欧の先進国やシンガポールなどの国は、日本のはるかかなたを走っています。

 日本は資源が少ない国であり、海外からエネルギーや食糧を購入しようとすれば、イノベーションを売るしかありません。しかも、海外との相対的なイノベーションの力関係で売り買いの能力が決まりますから、イノベーションの絶対数ではなく、イノベーションの国際シェアが問題になります。注目度の高い論文の一定割合からイノベーションが生まれると仮定すると、学術論文数においても、人口あたりの国際シェアを維持する必要があると考えます。

 そのためには、日本の優秀な若手研究者が半分になるということであれば、アメリカやシンガポールのように、海外の優秀な若手研究者を集めることを考える必要があります。また、日本では海外に比べて女性研究者が極めて少ないので、優秀な女性研究者を育てることも、優秀な若手研究者を確保する一つの方策ですね。

@na……さん:138億円を取りに行く/使うために若手が動員され研究時間がなくなるんじゃないか。「改革疲れ」って知らんのか?

 今までの国立大学の状況は@na……さんのおっしゃるとおり「改革疲れ」の状態ですね。(研究者数×研究時間)が減ってしまって、論文数が減ってしまいました。今回の138億円の補助金を取りにいく場合は、優秀な若手教員の研究時間を増やすような構造改革を提案していただく必要がありますね。

@nu……さん:三重大の元学長さん、「研究の数値目標」とか口走っている時点で、研究が何かをよくわかっていない方、と思ってしまいますね。

 「研究の数値目標」は、日本では今までほとんど言われなかったので、違和感を覚えられる方や、誤解される方も多いと思います。小泉元首相が、日本のノーベル賞学者を50人にする、という数値目標を公言されましたが、それに対して、ノーベル賞学者が一斉に反論しました。ノーベル賞は取ろうと思ってもとれるものではありませんからね。私も、ノーベル賞を取ることを数値目標にするのは適切ではないと考えます。

 研究に限らず、数値目標は、それが絶対視されて目的化されると、いろんな副作用が出ることが多いですね。あくまで、数値目標は目的を達成するための手段です。

 また、目的の達成度を測定するための数多くの指標の中で、最も妥当な指標をkey performance indicator (KPI)と言いますね。通常は適切なKPIを選んでモニターしますが、完璧なものはなく、限界を承知の上で使う必要があります。

 そのような限界があるにも関わらず、適切なKPIを用いた数値目標は、適切な使い方をすれば、目的の達成のために有用です。 

 @nu……さんのおっしゃるように、私も研究に数値目標はなじみにくいと思うのですが、最近のように財政が苦しい状況では、研究費をステークホルダー(納税者)から出していただくためには、研究成果を何らかの数値で示す必要性がますます大きくなっています。

 私が、政府に対して研究の数値目標を設定するべきと主張している唯一の理由は、研究費を出していただく最大のステークホルダーである国民(納税者)の理解を得るためです。この財政が厳しい現状では、数値目標を設定していただかないと、どんどんと研究費が削減されてしまいます。

 ただし、数値目標がノルマ的に研究者を鞭打つ手段として使われるようでは、逆効果ですね。質の高い論文を増やすために、優秀な研究者を増やし、十分な研究時間を与え、必要な研究補助者と良き研究環境を与え、論文の量産を求めない、というような主旨で数値目標を使うべきです。

@nm……さん:仕事でかかわっていますが、こちらからすると事業の方向性が見えにくく、だんだん疑心暗鬼になってきているという現状があります。

 @nm……さん、お疲れ様ですね。各大学から提案をもっていっても、政府の担当者に認めてもらえず、大学の現場ではどうしたらよいのか困惑が広がっているようです。

 やはり、本当の意味で抜本的な構造改革案をもっていかないと、認めていただけないように感じます。大学間の連合・連携の案をもっていく場合、おそらく管理運営や事務業務の効率化のためのアンブレラ方式だけではなくて、教育・研究組織の実質的な連合・連携案を持っていかないと、とりあっていただけないのではないでしょうか?

 たとえば、地方国立大学でも、世界で通用する優秀な研究者がおられるはずなので、地域の複数の大学で連合・連携して特色ある世界的研究教育拠点を造って、各大学が戦略的に役割を分担するとか、あるいは世界と戦える地域イノベーション連合拠点を造るとか、あるいは国際的な連合ダブル・ディグリー制度を作るとか・・・。この際、このような連合拠点のガバナンスは、各大学の教授会ではなく、連合体のヘッドクオーターが戦略的に行い、世界中から優秀な教員を集める。こんな案ではだめなんでしょうかね?

 すでにどこかの大学が提案していて、差し戻されているかもしれませんね。その場合はごめんなさい。

 もっと、魅力ある案を考えるために、大学幹部だけではなく、広くアイデアを求めるというのもいいかも。

@Mi……さん:そういうコンペとかを大学が学内や学外に対して聞いて下さると面白いですね。

(本ブログは豊田個人の勝手な想であり、豊田の所属する機関の見解ではない。)

 

 

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1 コメント

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論文とイノベーション (Y)
2012-06-03 17:05:03
質の高い(?)論文とイノベーションは本当に因果関係があるのですか?
近年のイノベーションといえる技術や産業が論文から生まれたとは思えないのですが…

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