日本の心

激動する時代の日本人に多大な影響を及ぼした人物の思索をたどる。

大川周明 「日本的言行」 第一 日本的言行 一 太宰春台と本居宣長

2016-10-15 21:54:43 | 大川周明

                 大川周明 --ウィキペディア    

大川周明 「日本的言行」

第一 日本的言行 

一 太宰春台と本居宣長

 「日本には、元来道ということ無之候。近き頃神道を説く者、いかめしく我国の道とて高妙なるやうに申候へども皆後世に言ひ出したる虚談妄説にて候。日本に道ということ無き証拠、仁義礼智孝悌の字に和訓なく候。凡そ元来有る事には必ず和訓有之候。

 和訓なきは元来日本に此事無き故にて候。礼儀と言ふことなかりし故に、神代より人皇四十代のころまでは、親子兄弟叔姪夫婦になり給ひ候。その間に異国に通路して、中華の聖人の道此国に行われて、天下の万事中華を学び候。それよりこの国の人礼儀を知り、人倫の道を覚悟して禽獣の行いをなさず、今の世の賎しき輩までも、礼儀に反く者を見て畜類の如く思ひ候は、聖人の教えの及べるにて候、日本の今の世を見るに中華の昔に及ばずといへども、天かは全く聖人の道にて治まり候と存じ候。

 日本はまた殊に小さき道ちて政を助くること能わず、畢竟諸子百家も仏道も神道も、堯舜の道を戴かざれば世に立つこと能わず候」


 この驚くべき言葉は、太宰春台の著はせる『弁道書』の一説であります。異邦崇拝は今日の日本に於いても甚だしくある。しかもキリストを崇拝し、マルクスを崇拝し、レーニンを崇拝し、ガンディーを崇拝する当今の日本人と雖ども、おそらく太宰春台が徹底して堯舜を崇拝するには及ぶべくもないと思はれます。一人春台のみならず、徳川時代の儒者は若干の例外を除けば、概ね春台と五十歩百歩の支那崇拝者であったのであります。


 是くの如き時に当たり、加茂真淵、本居宣長、平田篤胤等の国学者が、一代の中華心酔に宣戦して、日本思想の簡明日本精神の確立に心を砕けることは、吾等をして雄風を今日に仰ががしめるものであります。わけても異邦崇拝の心を深く国民の魂に巣くひつつある今の世に、日本主義を奉じて屹立するほどの者は、常に感激の泉を此等先賢の精神に汲むむことを忘れてはなりませぬ。

 本居宣長は、当時の支那の経史詩文を学びつつ、却って皇国のことに無知なるを指摘して下の如く言って居ります。――『儒者に皇国の事を問ふに知らずと言ひて恥とせず、漢国の事を問ふに知らずと言ふをばいたく恥と思ひて、知らぬことも知り顔に言ひ紛らわす。そは万を漢めかさんとする余り其身を漢人めかして、皇国をばよその国の如くもてなさんとするなるべし。されどなほ漢人にあらで御国人なるに、儒者とあらん者の己が国の事知らであるべき業かは。ただし皇国の人に向かひては、さあらんも漢人めきてよかんめれど、もし漢国人の問ひたらんに、われはそなたの国の事は能く知れども吾国の事は知らずとは、さすがに得云ひたらじをや。もしさ云ひたらんには、己が国の事をだに得知らぬ儒者の、いかで人の国の事をば知るときとて、手を拍ちていたく笑ひつべし。』 

 この警告は移して直ちに今日の欧米心酔者に加へらるべきものであります。徳川時代に学問といへば漢学ことなりし如く、今日に於いては横文字のみが真理の庫を開く鍵なるかの如く考へる者が居る。欧米の事とさえ言へば巴里の横町の小料理屋の話までが、誇るべき知識とされて居る。而して神武紀元何年なるかを知らなくとも、些かの恥ともされて居ない。

 西洋の社会史は研究されるけれども、日本社会史の研究は少数専門家の手に委ねて顧みようともしない。社会の進化乃至改造を論ずる者も、西洋の社会と日本の社会との異同をさへ明らかにせんとせず、直ちに西欧学者の唱ふる原理を日本に適用せんとする。マルクスの思想を真理なりとして、これを立証するために引用したるものは総て西洋の歴史であります。

 試みに『マルクスの原則に基づいて日本史を説明せよ』と設問すれば、日本お歴史は之を知らずと答へて平然たる為態であります。外交上の議論に於いても、例へば米国の邦人移民排斥を論ずるに当たり、ひたすら同胞の米国に於ける行動の非を挙げて、米国の立法のやむを得ざるを弁護する学者が少なくありませぬ。まことに『皇国をばよその国の如くもてなさんとする者』であります。

 吾等は断固として此の主客顛倒を改めねばなりませぬ。而して総じて日本的に思ひ且つ行はねばならぬと存じます。


 

              

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