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破獄


 吉村昭 新潮社

 羽佐間清太郎。犯罪者である。傷害致死で無期懲役。犯罪者ではあるが、この男天才である。なんの天才か。脱獄の天才。どんな厳重な刑務所も、いつでもどこでも任意の時に脱獄できる。生涯で四度刑務所を脱獄する。
 一日に100キロ以上走る体力。手錠をねじ切り、土中深く刺さった土管をかかえて引き抜く腕力。壁をヤモリのように登り天井を伝って脱出する身軽さ。頭が通る隙間があれば身体全体が抜けられる柔軟性。どのようなモノからでも工具や合鍵を作る器用さ。一目見ただけで刑務所の建物の配置構造を見抜く観察眼と記憶力。どのタイミングで脱走すればいいか判断する戦略性。看守の心理を見ぬき、看守の弱点をつく人間操縦術。まさに脱獄をするためだけに生まれてきたような男である。
「規則を守れ」看守がいう。「いやだ」「なんとしても規則を守れ」「そんなことをいうと、あんたが担当のとき脱獄するぞ。あんたは職務怠慢で処罰されるぞ。それでいいのか」で、佐久間はほんとにその看守が担当のときに脱獄する。
 それまでの反省をふまえ、厳重極まりない警備をしても、佐久間は思いもかけぬ方法で脱獄する。 
 こんな化けもんみたいな脱獄王と、なんとしても脱獄を阻止したい刑務所側との知恵くらべ。佐久間を厳重に閉じ込め、特製の鍵穴のない特大手錠と足錠をはめる。常時手錠は後ろ。だから食事の時は犬みたい床の食器に直接口をつけて食べる。こういう「北風」派の刑務所長。また、手錠なし。独房にも入れず作業もさせる。運動も自由にさせる。こういう「太陽」派の刑務所長も。どっちが佐久間に有効か。
 脱獄王佐久間VS刑務所とうバトルもさることながら、刑務所という特異な観点から見た戦前、戦中、そして進駐軍治世下の日本が描かれる。特に食料の確保。食糧難である。食べるものがない。刑務所は囚人が最優先。看守たちは食べなくとも、囚人たちの食料はなんとしても確保しなくてはならない。
 食料事情を中心に戦中の日本の様子が紹介されているが、日本はミッドウェイ海戦敗北から、テニヤン島をアメリカに奪われ、B29による空襲がはじまるようになってからは、国としては完全に死に体。情勢挽回不可能。無条件降伏が遅すぎた。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (悠々遊)
2017-06-29 10:31:12
小説は読んでませんが、最近テレビドラマ化されたのを途中から見ました。
脱獄にかける執念が凄まじい。
執念こそが人間を一流にするのでしょうか。
何の一流かは置いとくとして。
 
 
 
悠々遊さん (雫石鉄也)
2017-06-29 13:40:47
テレビドラマになってたのは知りませんが、
この本は面白かったです。
脱獄の話も面白いですが、戦中、戦後の社会情勢が、刑務所という視点から記述してるのが興味ふかかったです。
 
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