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利息を払え

 四年だ。四年たてば月がなくなる。夜、空を見上げれば、必ずそこにあった、あの地球の弟ともいうべき月だ。
 二十三億年前になされた契約である。地球のだれがそんな契約をしたのか、判るはずもない。だいたいが、そのころは人類はまだ影も形もない。
 しかし、契約は契約だ。だれがそんな契約書にサインしたのかだれも知らない。ただ、契約事項を四ヵ月後に実行されるだけ。
 選択肢はある。絶望的な選択肢ではあるが。月を手放したくなかったら、借りたモノを返せばいい。
                          
 いつごろから「声」が聞こえているのか判らない。ものごころついた時からだ。還暦をすぎて、今までの人生より、これからの人生のほうが少ない年齢になった。
 遠い記憶をたどってみれば、小学生のころ、夏休み、家族と海水浴に行った時、「声」が聞こえた。
「君を連絡人に指名する」確か、こんなことをいったと記憶する。なんのことだか判らなかった。波の音のまぎれたそら耳だと思った。
 二回目は大学生になったころだ。クラブの新入生歓迎コンパの席。なれない酒を飲まされ、意識を半分失いかけた時、「利息を払え」こういう声が聞こえた。私たちのグループ以外にも、何組ものグループがコンパをやっている。周囲は喧騒の渦の中。そんな時の、こんな声が聞こえてきても、気にも留めないのが普通だ。しかし、私は、なぜかそのことが気になって頭の片隅に残った。二十代のことだ、あれから四十年たった今も、そのことを覚えている。「利息を払え」

 日本国の首相が目の前にいる。きのう、首相の次席補佐官という男がとつぜんやって来た。
私は、大学卒業後、電機会社の購買を四十年やってきて、このたび退職した。子供は独立し、妻とふたりで小さな楽しみをみつけて日々を過ごしている。こんな男に一国の首相がなんの用だ。
「きのうクライトン大統領から電話がありました」
 首相はこう切り出した。アメリカの大統領?ますます縁のない話だ。
「アメリカの土星探査船が土星の衛星エンケラドス近傍の空間で不思議な電波を傍受しました。なにか意味があるような電波です。それを解読すると、二つの数字のかたまりと図形だと判りました」
 数字のかたまりは地球の緯度と経度をあらしている。一つは私の住所。もう一つは南太平洋の無人島。図形は酸素の元素記号。そういうことが判明した。
 アメリカはオスプレイをその無人島に飛ばし、海兵隊に観測にあたらした。無人島、酸素。これが何を意味するのは判らない。何が起こるのか。ともかく海兵隊を駐留させた。
 全滅。アメリカの海兵隊一個分隊十二人の兵士が全員死んだ。無人島である。敵はいない。致死性の病原体も発見されない。死因は窒息。全員酸素不足で窒息死。その島の酸素濃度は大幅に低下していた。
 私の住所は東京の杉並。杉並で、無人島で起こった事と同じことが起これば、大惨事である。
 拉致されるように、ここに連れて来られたというわけだ。
 実は、きのう三度めのメッセージが来た。
「私たちの力は確認できただろう。二十三億年分の利息を払え。払えないのなら質草として衛星を持っていく」
 昨夜、午後十一時ごろ、布団に入って、寝入る前に聞こえて来た。今度は静かな環境でのことだ。はっきりと判った。それは音ではない。私の頭の中に直接届いたのだ。
「利息は全地球の酸素の四パーセント。猶予は四年。利息が払えないのなら月を持っていく」

 地球にはもともと酸素はなかった。二十三億年まえシアノバクテリアが出現。光合成を行い、二酸化炭素を吸って酸素を出す。こうして地球に酸素が豊富に存在するようになった。
 地球上から酸素が四パーセント無くなれば、月がなくなれば、どうなるかをこれから人類の英知をかけて四年のあいだに研究する必要がある。

「ただで酸素をもらっていたと思っているのか」 

                      

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
お願いします (はる)
2017-10-29 20:08:40
お見舞いコメントありがとうございました。
利息を払え を朗読させて下さい。
よろしくお願いいたします。
 
 
 
はるさん (雫石鉄也)
2017-10-30 04:36:35
朗読OKです。
楽しみにしております。
 
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