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ボトルキープ

 灯りを消す。深夜一時。とうとう今日は一人の客もこなかった。
 マスターの鏑木は、裏口から店の外に出る。バー「海神」店名を記したランタンも消えている。あと、何回このランタンに灯を灯すことができるだろう。
 裏から表通りにでる。アーケードのある商店街。深夜だから並んでいるどの店もシャッターを閉じている。
 この商店街、例え昼間でもシャッターを開けている店は少ない。買い物客は少なく閑散としている。
 近畿地方内陸部の中都市S市。典型的な企業城下町であった。大手電機メーカーM電機の工場が昭和の初期からあり、私鉄H急の終着駅もある。そのS駅前のこの商店街もにぎわった時代もあった。鏑木の「海神」も夜ごとにぎわったものだ。その工場がA市に移転した。さらにはH急の二駅向こうに大型ショッピングモールができた。
 よくある話だ。鏑木も海神を閉じようと思っていた。店を閉じ、故郷の海辺の町で余生を過ごそうと思っていた。ところが、あの客が来てから、店を続ける決心をした。

「久しぶりだね。マスター」
「いらっしゃい」
「俺のボトルまだあるね」
「ロックでしたね」
 鏑木はカウンターの三木の前にウィスキーグラスを置いた。
 三木は一息にグラスを空けた。
「おかわりしましょうか」
「うん」
 三木はM電機の資材係長。工場とともにA市に引っ越したはずだ。
「よく俺のボトルを置いていてくれたな」
「お客さんのあずかり物ですからね」
「S市も変わったな」
「さみしい町になりました」
「この店が開いていて良かったよ」
「ありがとうございます」
 三木は二杯目を半分ほど飲んだ。氷の音がカランとした。
「客こないな」
「いつもです」
「経営しんどいな」
「そろそろ潮時かなと思っています」
「そうか、この店がなくなると、この町で一杯やれなくなるな」
「A市にはお戻りにならないのですか」
「戻らんよ。俺はもうM電機の社員じゃない」
「この町に戻ってくるのですね」
「うん。ここで死にたいな」
「そんなお歳ではないでしょう」
「おかわり。お、もうボトルは空か」
「一本キープしましょうか」
「店閉めるんじゃないのか」
「もう少しがんばりますよ」

 何本かキープしているボトルがある。鏑木はそのボトルが全部空になったら店をたたもうと思っている。もう少し先になりそうだ。三木のボトルはあれから減っていない。そのボトルが開けられることは、もう永遠にない。 明日は彼岸だ。鏑木はそのボトルを持って出かけるつもりだ。
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コメント
 
 
 
お願いです (もぐら)
2016-01-15 18:27:28
こちらの作品が海神のはじまりのお話でしょうか。
ショートショート劇場のカテゴリーをずーっと追いかけてきたのですが。

お願いです。
こちらの作品を朗読させていただきたいのです。
よろしくお願いいたします。
 
 
 
もぐらさん (雫石鉄也)
2016-01-15 18:57:46
そうですね。私自身、記憶があいまいですが、たぶん、これが「海神」シリーズの第1作目だと思います。
朗読OKです。
楽しみにしてます。
 
 
 
ご相談というか・・・ (もぐら)
2016-01-19 01:29:28
雫石さんにご相談というかお願いというか・・・

私が時々訪ねているブログがあります。
創作ブロガーの八少女(やおとめ)さんという方の「scribo ergo sun」というブログです。
短・中・長編といろいろ書かれています。

その作品の中に「バッカスからの招待状」というBarバッカスを舞台にした短編シリーズがあります。
バッカスからの招待状URLです。

http://yaotomeyu.blog.fc2.com/blog-category-33.html

私の中ではすっかり「西の海神 東のバッカス」です。
VSじゃありませんよ。
 
 
 
上に同じ (もぐら)
2016-01-19 01:30:29
前置きが長くなりましたが、八少女さんのブログで毎年「scriviamo!(一緒に書きましょう)」という競作企画があるそうです。
その企画に雫石さんの海神を私の朗読で参加させていただいてもいいでしょうか?
八少女さんには「雫石さんが許諾されれば大歓迎です」と言っていただきました。
ただしそうなると雫石さんのお名前とリンク先を明記してもらわないといけないので、必ずきちんと説明をして許諾してもらってくださいねと言われました。

企画「scriviamo!(一緒に書きましょう)」のURLです。

http://yaotomeyu.blog.fc2.com/blog-entry-1169.html
 
 
 
上に同じ (もぐら)
2016-01-19 01:33:34
参加作品には八少女さんが返掌編を書いて発表してくださるそうです。

お手数をおかけしてすみません。
ご一考いただければ幸いです。
すみません。
人の褌で相撲を取って。あ、いつもか。
どうぞよろしくお願いいたします。

何度もすみません。
コメント欄の字数制限があるんですね。
八少女さんのURLも書いてしまいましたが問題あれば消してくださいね。
お手数おかけしてすみません。ごめんなさい。
 
 
 
もぐらさん (雫石鉄也)
2016-01-19 09:58:14
八少女さんの企画への参加、もちろんOKです。
私の作品でよろしければ、もぐらさん朗読で参加してくださってもいいです。
わたしの名前とリンクもOKです。
ちらと八少女さんのブログをのぞきました。
バッカスのマスターは田中さんですか。海神の鏑木が、よろしくお伝えくださいと、いってました。
 
 
 
ありがとうございます (もぐら)
2016-01-19 16:10:08
許諾くださりありがとうございます。
こちらの作品で参加させていただきます。

・・・というか雫石さんと八少女さんが許諾してくださったらすぐに参加表明する気満々だったのがバレバレですね。(^^;)

ありがとうございます。
 
 
 
はじめまして (八少女 夕)
2016-01-29 01:35:39
雫石さん、こんばんは。

スイス在住の八少女 夕と申します。
もぐらさんにご紹介いただきこちらへ参りました。
「海神」のシリーズをはじめとして、心に響く大人の小説を読ませていただいています。

当方の企画「scriviamo! 2016」にもぐらさんが雫石さんのこの作品を朗読するという形でご参加いただきました。
とても素晴らしい作品でしたし、もぐらさんが私の作品を読んでくださるきっかけになったシリーズですので、ご縁を感じて、この作品にトリビュートするという形でお返しを書かせていただきました。

http://yaotomeyu.blog.fc2.com/blog-entry-1186.html

雫石さんのお名前と、こちらの作品へのリンクも明記させていただきましたので、ご連絡に参りました。大切な作品の使用許可をいただき、本当にありがとうございました。

これを機に、少しでもお近づきになれれば幸いです。

また、当方の田中へのお言伝、ありがとうございます。
彼からも「鏑木さんもお体に氣をつけてご活躍ください」とのことです。
 
 
 
八少女 夕さん (雫石鉄也)
2016-01-29 09:24:20
ようこそいらしてくださいました。
八少女さんと、お知り合いになれたきっかけを作ってくださった、もぐらさんに感謝します。
下手の横好きでショートショートなどを書いております。若いころは週に1本は書いてたのですが、いまは月に2本がせいいいっぱいです。
田中さんの伝言、鏑木に伝えておきます。
これから、貴作を読みに行きます。
私も、お近づきになれば幸いと思います。
では、今後ともよろしくお願いします。
 
 
 
はじめまして、こんばんは(^0^*)ノ (かじぺた)
2016-01-29 20:15:24
はじめまして、こんばんは(^v^*)
八少女 夕さんのイベントに
参加させていただいている者ですm(_ _)m

とても切ないお話ですね・・・・・
でも、心がほんのり温かくなるような
素敵なお話でもありました。
どうもありがとうございましたm(^v^*)m
 
 
 
かじぺたさん (雫石鉄也)
2016-01-29 21:25:46
はじめまして。ご訪問、ありがとうございます。
ショートショート以外も、いろいろ、取り散らかしておりますが、ようこそお越しくださいました。
今後ともよろしくお願いします。
 
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