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一か月おくれのホワイトクリスマス

「有罪」
「最終決定ですか」
「そうだ」
 基地は月面上空35000メートル上空。地球の孫衛星ということになる。常に地球と反対側に常駐する。そのため地球からこの基地は見えない。
「ただちに『処置』にかかる。『処置』がすみしだい、この基地は撤収。われわれは次の任地におもむく」
 会議室には12人の男がいる。ひとりだけ11人と対面している男。この基地の司令官だ。議長を務めている。その司令官から一番遠い席の男が発言した。
「なぜ有罪なんですか」
「あのまま連中を生かせておくと、あの星の全生命の大絶滅を引き起こす」
「『指導』すればいいのではありませんか」
「昔、『指導』したこともあった。ムダだったのは君も判っているだろう」
「なんとかなりませんか」
 遠い席の男はくいさがった。
「君は『監視員』としては、連中に感情移入が過ぎる」
「申しわけありません。私が接していたのは主に幼生でしたので」
「ともかく結論をくつがえすことはできない。本国政府の意向には逆らえない」
 司令官はそういうと、かたわらから箱を出した。赤いリボンがかかった箱だ。
「さっき、これが届いた。倉庫に120箱ある」
「それが例の試作品ですか」
「そうだ、いままでのやり方では建造物が壊れたり、他の生命も絶滅のおそれがある。しかも連中を生き残らせている」
「では、それは『B』ですか」
「そうだ。連中だけを一人残らず『処置』することができる」
「どういう形で散布するのですか」
「白い粉となって地上に散布する」
 司令官が席のボタンを押した。ロボットが10個ずつパレットに乗せた箱を持ってきた。
「君は東の弧状列島の担当だったな。そこのパレットが君のぶんだ」
「司令。例年通りのことを行ってはダメですか」
「許可しない。荷物が積めないだろう」
「判りました」
 11人の男たちは赤い服を着て基地を出発した。

「おかあさん。去年はサンタさん来なかったね」
「そうねサンタさんも地震にあったのかな」
 1995年1月24日午前5時46分。神戸。日本列島は冬型の気圧配置で、いちだんと冷え込んでいる。冬の冴えた空気を通して空の高いところまで見える。強い風ではないが六甲おろしが寒い。一週間前、神戸は大きな災厄に襲われた。
「寒いよ」
「早く目が覚めたのね」
「この時間になると、またゆれるかと思うと怖くって」最近は車が通っただけでも目を覚ます。
 公園に張られたテントから、母と子が早朝の空を見上げている。
「あ、サンタさんだ」
「もう1月よ。サンタさんなんか来ないわ」
「でも、空に赤い服着た人がソリに乗って飛んでいたよ」
「サンタさんには地震のない街を下さいってお願いしようね」
 白いものがチラチラしてきた。神戸にはあまり雪は降らない。これだけ寒いとさすがに神戸にも雪が降るのだろう。
 白いパウダー状の雪が降り続いた。地面が白くなった。壊れた街を白一色に染めた。
「1ヶ月遅れのホワイトクリスマスね」
「ぼく雪だるま作ろう」

 その年に流行ったインフルエンザは新型だった。感染率100パーセント。致死率100パーセント。地球上から人類だけがいなくなった。
 その1ヶ月遅れのホワイトクリスマスは、人々が最後に見たホワイトクリスマスだった。
 
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
感想 (アブダビ)
2016-12-08 01:23:07
最初の三行の会話で、てっきり現代ものと思うたんですね。あっさり否定され、フック!
そこから段々とネタが小出しに解ってくるのは雫石さんのいつもの手口。
だから笑いで収まると…思うと、そうはさせない。全然にハッピーでない。ヒネクレ親父め!
一瞬、引っかけられて毒づく。
感想)
「白い粉」は911テロ直後に、日商岩井本社(正面が新首相官邸、今はNTTなんとか)の敷地で箱に入ったのが発見された現場にいました。
無警戒に箱を開けたガードマンに、白い粉を見て「炭そ菌でね?」と声を掛けて、大騒ぎにしてしまいました。
なわけで、粉と雪がマリンスノーみたいな光景と細菌兵器とかぶり、美しくもおぞまし!

でも、「復活の日」の印象で思うのですが、感染力・致死率が極大で、潜伏期間が極短のインフルエンザウイルスなら、
社会が荒廃して殺し会うような醜悪な光景にならずに、バタバタといくでしょ?
サンタの事も皮肉でなく宇宙人の鎮魂なのかも。
 
 
 
アブダビさん (雫石鉄也)
2016-12-08 09:10:46
神戸は地震もありましたが、新型インフルエンザ騒動というのもありました。
http://blog.goo.ne.jp/totuzen703/e/aac2009894e03c80591a04dc53ffac94
そのことを思い出しました。
 
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