雫石鉄也の
とつぜんブログ
深夜プラス1
ギャビン・ライアル 菊池光訳 早川書房
敬愛する故内藤陳さんが、新宿ゴールデン街でやっておられたお店「深夜プラス1」一度、行きたいと思っているうちに陳さんは亡くなり、小生も年取って、最近は東に下ることもなく行く機会を失ってしまった。
陳さんのお店の店名は、本書から取ったというわけ。かの稀代の冒険小説読みの内藤陳さんがほれこんだのが本書だ。
田中光二の冒険小説を「道中記」という人がいるが、本書などは典型的な「道中記」タイプの冒険小説である。A地点からB地点に移動する必要あり。タイムリミットが定められている。もちろん、気楽なやじきた道中ではない。さまざまな妨害がはいり、何度となく絶体絶命の危機におちいる。はたしてB地点に無事到着するか?
A地点はフランスのブルターニュ。B地点はリヒテンシュタイン。ワケありの大富豪の実業家マガンハルトを所定の時間までにリヒテンシュタインに届けなければならない。マガンハルトは無実の罪で警察に追われ、暗殺者にも追われている。
この仕事を請け負ったのが元レジスタンスのルイス・ケイン。荷物はマガンハルトとその秘書ヘレン・ジャーマン。ボディガードに雇ったのは、アル中でヨーロッパ№3の拳銃使いハーヴェイ・ロヴェル。この4人がフランスからスイスを抜けてリヒテンシュタインまでを駆け抜ける。襲いかかるは、ヨーロッパ№1と№2の拳銃使い。
乗る車はシトロエンDSとロールスロイス・ファントムⅡ。愛用の銃はケインはモーゼル軍用拳銃。ロヴェルはS&WM36。
彼らの仕事にちゃちゃを入れてくる産業スパイの元締めフェイ将軍。将軍は古典的な銃のコレクター。自慢のコレクションを、銃のプロたるローヴェルに感想を聞いた。見事な細工が施された美術品として一級品の銃を見て、ローヴェルは「銃は人殺しの道具だ。こんな細工が銃の発達を遅らせた」と、まあ、プロたるものウンチクが散りばめられている。
まさに冒険小説の名作中の名作である。さあ、きみもモーゼルを持ってシトロエンDSに乗ろうぞ。リヒテンシュタインでは内藤陳さんが待っている。陳さん、顔の前で指を振りながら「チッチッ。遅いんだよ」そう、この本を読むのが遅すぎた。
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