ネット小説 十津川 健也

某国のイージ○や、戦国自衛○をめざしたいものですね・・・
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殺意と復讐の房総 9~10

2008-09-04 20:47:25 | ◇殺意と復讐の房総◇(完結)
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9.
伊波は、今までに分かった事を千葉県警の原田警部に報告した。また、一緒にいる木原洋子に電話を代わってもらい、滝沢成範の事を訊いた。彼女は、久保康子を殺した犯人逮捕に協力する為、富津に残っているという。

洋子は、久保康子と滝沢成範の関係をあっさりと証言してくれたが、そのあと
「それが、ダメなんです」と、返してきた。

「なんでダメなんですか?」
伊波が訊いた。

「彼にはアリバイがあるんですよ」
洋子が言うと、伊波は眼を大きくして

「それ、本当ですか?」

「ええ。私と康子が房総にいた時、滝沢さんは、日暮里駅に居たんです」

「それは間違いないんですね?」

「間違いありません。滝沢さんは、私たちが『くりはま丸』に乗っていた時に電話を掛けて来たんです。日暮里駅に居るって。それに電話に京浜東北線の電車が来るという、駅のアナウンスが流れていました」
と、洋子が答えてから

「それに、保田の海岸で松浦という私立探偵が殺された時も、彼は目白からメールを送って来たんです。目白駅のホームで撮った画像まで送って来ました」

「それは本当ですか?」
伊波は再び、訊いた。

「ええ。間違いありません。だから、滝沢さんには康子も松浦という私立探偵も殺せないんです」
洋子は答えた。

「滝沢成範にはアリバイがあったんですか?」
大塚は、電話を終えた伊波に訊いた。

「そうなんだよ。木原洋子の証言によると、久保康子が殺された時は日暮里にいて、松浦弘保が殺された時は目白にいたそうだ」
伊波は、大塚にそう答えたが、失望した訳ではなかった。
逆に、アリバイが完璧な事が不自然で、疑問が深まって行った。

久保康子が殺害された時、滝沢は日暮里駅から木原洋子に電話をしている。また、松浦弘保が殺害された時間帯にも、滝沢は目白駅から木原洋子に写メールを送っている。いかにもアリバイが完璧だという事をアピールしているみたいだ。

「私はどうも、二人が殺害された時間帯に木原洋子に、滝沢が電話をしたり、写メを送ったりしているのが、引っ掛かります」
大塚は、疑問を述べた。

「ツカさんもか?実は、私も気になっていてね。だが、木原洋子は、滝沢と電話で会話している時、京浜東北線の電車が来るというアナウンスが流れていたと言っている」

「木原洋子に、滝沢が電話を掛けたのが、彼女たちが『くりはま丸』に乗船していた時ですね?」

「そうだよ。滝沢が木原洋子に電話を掛けたのが午後1時半になる前だと言っていた。そして、彼女たちが『くりはま丸』から降りて、ロープウェイに乗って鋸山に行って、久保康子が殺されたのが、午後の3時だ」

「その間、1時間半ありますが、日暮里から鋸山のある鋸南町まで行けますか?」

「滝沢が日暮里に居たのが13時半前後。山の手線で東京駅まで14分。山の手線のホームから京葉線のホームまで7、8分かかるんだ。東京から列車で行っても、一番早い特急『ビューさざなみ』でも浜金谷まで1時間34分かかる。浜金谷から鋸山ロープウェイ乗り場まで歩いて10分。ロープウェイに乗って、頂上まで5分はかかるだろう」

「車ではどうでしょう?松浦弘保は車で鋸山まで行ってましたから、一緒に乗っていた可能性があります」

「車では余計に時間が掛かるね。日暮里を出て、上野から首都高に乗っても渋滞するから都内を抜けるだけでも1時間はかかる」

「やはり無理ですか」
大塚は、肩をすくめた。

「だが、私は滝沢以外に犯人はいないと思っている。アリバイも作られたものだろう」
伊波は、決めつける様に言った。

夜になって、伊波は念の為、坂本と紀子を滝沢が店長をしている歌舞伎町のホストクラブへ向かわせた。

店に着くと、既に店長の滝沢は出勤していた。
身長170センチぐらいで髪は長く、目付きが鋭い。今、女性たちに人気のあるタレントのTに似ている。

坂本が警察手帳を見せると、滝沢が先に
「久保康子の事で聞きに来たんですね?」
と、聞いて来た。

「それもありますが、あなたは以前、細谷政治さんが店長だった『キャッツ』上尾店に勤務していましたね?」
坂本が訊いた。

「ええ、勤めていましたよ」
滝沢は、あっさりと答えてから、
「それと、彼女が殺された事と、どういう関係があるんですか?」

「あなたは、そこに勤務している時、同じ部署の江利さんと知り合い、交際していましたね?殺された細谷店長の奥さんです」
今度は、紀子が訊いた。

「そこまで調べたんですか」
滝沢は苦笑して、頭をかいた。

「その時、細谷店長も江利さんを気に入っていた。つまり、三角関係になってしまった。その後、細谷店長は客にセクハラをしたという理由で、あなたを解雇した。そして、江利さんが愛想を尽かして、あなたから離れたのをいい事に、彼女と交際を始めた。そうですね?」

「俺はセクハラなんてしていない。細谷がでっち上げたんだよ。江利を俺から奪う為に」
滝沢は否定してから、

「それと、やっちゃんが殺された事とどう関係があるんだ?」
と、ムッとした顔で訊いた。

「その事で、細谷に復讐したんではないのですか?久保康子を利用して」
坂本が訊くと、滝沢は苦笑して、

「どのようにですか?」

「3年前に細谷店長が、江利さんと結婚したのを知ったあなたは、キャバクラで知り合った久保康子を利用して、細谷店長のマンションに電話をさせた。彼が浮気をしていると思わせる為にね。それで細谷店長が奥さんを殺す動機も出来る。そして、4月18日の朝、江利さんを殺害して、細谷店長の犯行に見せかけた」

「ちょっと待って下さいよ」
滝沢は、坂本の言葉を遮り、

「つまり、口封じの為に俺がやっちゃんを殺したと言いたんでしょう?」
と、先回りして訊いた。

「違うんですか?」
紀子が訊いた。

滝沢は微笑して、
「俺に出来る訳がないじゃありませんか。私にはアリバイがある」
滝沢は、自信を持って言った。

「勿論、証人もいますよ」

「証人と言うと木原洋子ですか?」
坂本が訊くと、滝沢は再び微笑して、

「知っているじゃありませんか。もう、そこまで調べたんですね」

「松浦弘保はご存知ですか?久保康子が殺害された後、同じ南房総で殺された私立探偵です」
と、紀子は訊いた。

「松浦弘保ですか?」

「そうです。ご存知ありませんか?」

「知らないね。店に来た事もありません。第一、私立探偵に調査を依頼する事なんて、ないですからね」

「失礼ですが、10月20日の午前0時から1時間の間、どこにいました?」
と、坂本が訊く。

「それって、その松浦という私立探偵が殺害された時間ですか?」

「そうです」

「目白にいましたよ。目白に友人がいるので会いに行ったら、あいにく不在でした」
と、滝沢は答えてから、

「夜の12時40分頃、山手線の内回りの電車に乗って自宅まで帰りましたよ」

「証人はいないんですか?」

「いませんよ。ですが、目白駅のホームで写メを撮って貰ったんですよ。ホームにいた女性に頼んだんです」
滝沢は答えた。

「その写メを見せて貰えますか?」
紀子が言って、滝沢はポケットから携帯を取り出し、彼女に見せた。

紀子は携帯の写メを確認した。
携帯には、滝沢の言う通り、目白駅のホームに立っている彼の画像が保存されていた。

日付も、事件のあった日の12時40分になっていた。

「どうです、アリバイは完璧でしょう?」
滝沢はニヤリと笑って、言った。

「俺には、この様にハッキリとしたアリバイがある。俺が、松浦という私立探偵を殺せないのは子供にだってわかる」
滝沢は自信を持って、威張って見せた。

坂本と紀子は警視庁に戻り、伊波に報告した。

「すると、滝沢成範のアリバイは完璧なんだな?」
伊波は、二人に訊いた。

「はい。私も携帯の画像を確認しましたが、間違いなく目白駅で撮られたものでした」
と、紀子は答えた。

「それで、大威張りでアリバイを主張していました」
続いて、坂本が言った。

それでも、大塚は、
「私は、滝沢以外に犯人はいないと思うのですが・・・」
と、滝沢犯人説を曲げなかった。

「私もツカさんと同じなんだがね・・・」
伊波は、腕を組んだ。

「でも、アリバイが」
と、紀子は言う。

「その画像は、間違いなく目白駅で撮ったものなのか?」
大塚が念を押して訊いた。

「間違いありません。日付も合っています」
と、紀子はハッキリ答えた。

「私は明日、房総へ行って木原洋子に会ってみよう。彼女に会えば何か解るかもしれない」
と、伊波は言った。

**********

10.

翌日、伊波は坂本と一緒に東京駅の京葉線のホームへと向かった。房総にいる木原洋子に会う為である。
京葉線の地下ホームまでは長い。伊波も7.8分かかるのは以前から知っていたが、京葉線のホームは初めてだったので、それ以上に長く感じられた。
京葉線の地下ホームは、東京国際フォーラム寄りにあるのだ。

伊波は、19日に康子たちが乗ったのと同じ、特急「さざなみ7号」に乗ってみる事にした。
旧国鉄色の特急「さざなみ7号」は、既に入線していた。

「まだ、旧国鉄のデザインの特急が走っていたんだね」
伊波が、特急「さざなみ」に眼を向けて、言った。

「183系という車両ですよ。外房線の『わかしお』も同じ車両で、こちらも同じ旧国鉄からのデザインのままです」
と、坂本が詳しく説明した。

「ずいぶん、詳しいね」
伊波が、感心した様に言った。

「ええ、高校の時、鉄道ファンだったもので、結構詳しいんです」
坂本は少し自慢気に言った。

特急「さざなみ7号」は、定刻の10時30分に東京駅を発車し、しばらく地下を走行してから地上に出る。
君津からは各駅停車になるので、速度も遅くなった。

「特急が途中から普通列車になるなんて、珍しいね」
窓の景色を見ながら、伊波が言った。

「通常の『さざなみ』は、君津から各駅停車になりますが、新型の『ビューさざなみ』は各駅停車はしません」
坂本が説明した。

「なるほどね」
伊波は肯く。

列車が佐貫町を過ぎると、白い観音様が見えてきた。東京湾観音である。
更に列車が進むと、対岸の三浦半島が見える。今日は、晴れているのでハッキリ見える。
それに、同じ東京湾でも、こっちは青く、綺麗な海である。

「警部、もし、久保康子を殺害した犯人が滝沢なら、ただ単に口封じだけが動機じゃないと思うんです」
坂本が言った。

「他にも動機があると言うのか?」
伊波が、海の景色を見つめたまま言った。

「細谷江利を殺害する時、久保康子を利用したのが3年前です。口封じの為に殺害したのなら、何故、直ぐにしなかったんでしょう?事件のあった日から3年も生かしているんです」

「確かに君の言う通りだ。普通なら、事件の後、直ぐに消してしまう筈だ。いつ証言されるか分らないからね」

「それで、私の考えなんですが、滝沢は久保康子を利用する為に生かしておいたと思うんです。それが逆に利用される立場に回ってしまったんではないでしょうか?」

「つまり、ゆすられていたと・・・」

「ええ、私の推測ですが・・・」
と、坂本は答えた。

「そうか。久保康子の部屋に高価な洋服や家具があったが、あれは、彼女が滝沢を脅して買わせていたのか」
伊波は、眼を大きくした。

「滝沢が犯人なら、そういう事になります」
と、坂本は言った。

「さざなみ7号」は、定刻の12時10分に浜金谷に着いた。

伊波と坂本は、列車を降りた。
列車に眼をやると、最後尾の車両のヘッドマークは「さざなみ」から普通に表示が変わっていた。

改札口を出ると、木原洋子と千葉県警の原田警部、関口刑事が迎えに来てくれていた。
木原洋子は、長身で細面の気が強そうな女性に見えるが、ホステスを職業にしている様には見えなかった。

伊波は、原田警部と関口刑事に今まで調べた事を報告した。

「それでは、滝沢成範にはアリバイがあったんですね?」
原田が、伊波に訊いた。

「そうなんです。私の部下が彼に会って確かめました」
伊波は続けた
「滝沢成範は、自信を持ってアリバイを主張したと言っていました」

「滝沢さんが目白にいたのが証明されたのですか?」
洋子が訊いた。

「そうなんです。滝沢が目白駅のホームで写されている携帯の画像を見せられたと、報告して来ました」

「それって、この写メでしょう?」
洋子は携帯を取り出し、滝沢から送られて来た写メールを伊波に見せた。

伊波がその写メを見ると、間違いなく目白駅のホームに立っている滝沢が写っていた。
背後には、Mデパートの女性ファッションの看板が立っている。

「この写メは、原田さんにも見せました」
洋子は、伊波に言った。

「この携帯の画像が目白にいた事を証明している限り、滝沢成範のアリバイは崩せません」
原田が険しい表情で言っても、伊波はじっと画像を見ていた。

「では、滝沢はシロと言うことですね」
関口も、残念そうに呟いた。

「これから食事にしませんか。お昼はまだでしょう?」
原田は、伊波と坂本に尋ねた。

原田は、保田海水浴場の近くにある食堂に案内してくれた。保田漁協直営の食事処で、近くには、保田出身の浮世絵師である菱川師宣の記念館がある。

原田が、ここのイカかき揚丼がお勧めだということで、全員それを注文した。
原田警部は、住まいが木更津なので、休日は時々、ここに食べに来る事があるという。

「私は、滝沢成範以外に犯人はいないと思うのです」
伊波は、自分の意見を述べた。

「ですが、滝沢にはアリバイがありますよ」
と、原田は言った。

「実は、私も康子を殺したのは滝沢さん以外には考えられないんです」
洋子も、伊波と同じ意見を言った。

「それは何故です?」
伊波は訊いた。

「実は、康子は私に、その日あった嫌な事や楽しかった出来事を毎日話しているのに、滝沢さんとの事は、何故か私に隠すんです」

「滝沢の事を聞くと、康子さんは、あなたに何かを隠すような感じだったんですね?」

「ええ。フェリーに乗っている時も、滝沢さんの話をしたら、すぐに話題を変えてしまったんです」

「他に、康子さんの事で変わった事はありませんでしたか?どんな小さな事でも結構です」

「はい」
と洋子は返事してから、

「私が気になっていた事なんですが、康子は金回りが良くなったんです。それも、滝沢さんと知り合ってから」

「やはり、そうでしたか」
伊波は言った。

滝沢は、久保康子に貢いでいたのだ。

「康子が店に入った頃は地味なワンピースや安いスーツを着ていたけれど、滝沢さんが店に来るようになってから、服も高価なスーツや派手な服を着るようになり、店以外でも派手な格好をするようになったんです」

「なるほどね」
伊波は、久保康子の部屋のタンスの中にあった高価なワンピースやスーツを思い浮かべた。

「警部、やはり久保康子は滝沢を強請っていたようですね」
横から、坂本が言った。

「原田さん、滝沢成範のアリバイをもう一度洗い直す必要があります」
伊波は、原田に言った。

「やはり、滝沢以外には考えられないですか?」

「ええ。私は、そう思っています」
と、伊波は答えた。

イカかき揚げ丼が運ばれて来たので、伊波たちは食べる事にした。
イカと玉ネギをたっぷり使ったかき揚げ丼であった。

食べ終えると、伊波の携帯が鳴った。
相手は、岩崎だった。

「警部、久保康子なんですが、去年と今年に痴漢に遭っています」
岩崎は、報告した。

「なんだって! それで、久保康子はその際、どうしたんだ?」
伊波は訊いた。

「2件とも、その場で犯人を取り押さえて、警察に突き出していますが、犯人とされる二人は、それぞれ容疑を否認していました」

「その二人の男の事を至急調べてくれ。滝沢成範と、どこかで繋がっていないかについてもだ」
と、伊波は頼んでから、

「それと、日暮里駅を調べてくれ」
伊波は電話を終えると、洋子に眼を向けた。

「康子さんは痴漢に遭った事とか、ありましたか?」

「ええ、ありました。私と一緒に電車に乗っている時、二、三回遭ってます」
洋子は答えた。

「その時、康子さんは、その痴漢を取り押さえたんですか?」
伊波が訊くと、洋子は手を横に振って、

「いいえ、康子はそんな面倒な事しませんよ。痴漢を取り押さえて警察沙汰にすると、いろいろと面倒だからと言って、せいぜい痴漢の足を蹴って、やり返すぐらい」

「それは、本当ですか?」
伊波が眼を大きくして訊くと、洋子も驚いた表情で、

「え!まさか康子が痴漢を取り押さえたりとかしてたんですか?」
と、訊いた。

「ええ、二人取り押さえてるんです」

「ちょっと信じられないです。面倒くさがりの康子が、痴漢を取り押さえるなんて・・・」
洋子は呟いた。

「恐らく、滝沢に頼まれてやったんじゃないでしょうか?」
坂本が間に入って、言った。

「多分、そうだろう。滝沢が久保康子を口封じのために直ぐ殺さなかったのは、色々利用するに生かしておいたんだろう。金を与えて」
伊波は言った。

「それが反って、逆に利用され、強請られるようになったんですね」

「なるほど、それが久保康子を殺害する動機となった訳だ」
原田は言った。

店を出て、伊波たちは原田の案内で、久保康子の殺害現場である鋸山に向かった。

伊波は、洋子と康子が乗ったロープウェイに乗ってみる事にした。
その間、関口警部が山頂の駐車場に車を廻した。

伊波たちは500円で切符を買って、ロープウェーに乗った。
ロープウェーが動き出す。山麓駅から約4分で山頂駅に着く。

伊波は、外の景色に眼を向けた。
金谷港が見えて、東京湾フェリーが港を離れて出港して行くが見える。
視線を右に移すと、住宅街と低い山に挟まれた内房線の線路が見え、青い東京湾を隔てて、横浜、川崎などの街並みも見える。

「いい眺めですね。東京の近くに、こんな素晴らしい所があるなんて知らなかった」
伊波は、感心して言った。

彼は福島県の出身で、房総の方には一度も来た事がないので、この辺にはあまり詳しくなかった。

「冬になれば、もっと綺麗に見えますよ」
と、原田は教えてくれた。

山頂駅に着くと、久保康子が殺害されたトイレに向かった。

「ここが、久保康子が殺害された現場です。洗面所で手を洗っている時、後ろからナイフで刺されたようです」
と、原田は説明してくれた。

「目撃者は、いなかったんですか?」
伊波は訊いた。

「その日は平日だったので、ここに来る人は少なかったようです。誰も、トイレから逃走する犯人を目撃していませんでした」
と、原田は言った。

次に、山頂展望台へ向かった。ここから見る景色も、いい眺めである。

伊波は、金谷とは反対方向の保田に眼を向けた。
陸地からちょっと離れて、小さな島が見える。浮島である。

「私は、ここで松浦という私立探偵が私たちを尾行している事に気付いたんです」
と、洋子は言った。

すると、松浦は『くりはま丸』を降りた後、ロープウェー乗り場まで尾行して、そこから自分のBMWで頂上に先回りしたんですね?」
と、伊波は訊いた。

「多分そうでしょうね。それに、その車には滝沢も一緒に乗っていたと思います」
原田は答えた。

「松浦は、東京駅からあなた方を尾行していたんですよ」
伊波は、洋子に眼を向けて言った。

「それでは、『さざなみ7号にも乗って尾行していた訳?」

「その間、松浦はあなた方の様子を滝沢に知らせていたんだと思います。滝沢は、松浦の車で金谷まで向かっていたのでしょう」

「ですが、滝沢さんはあの時、日暮里駅にいたんじゃないですか?」

「それは、作られたアリバイですよ。作られたアリバイは必ず崩れます」
伊波は、洋子に言った。

「伊波さん、松浦弘保が殺された時の滝沢のアリバイも作られたものなんですね?」
原田は訊いた。

「そうです」

「でも、この画像に変なところはないです。背景も目白って描かれた看板も写っているし・・・」
洋子は、じっと画像を見ながら言って、その表情が変わったが、
「やっぱり、変わったところはないと思う・・・」

「この画像が目白のに居る事を証明している限り、滝沢のアリバイは崩せませんね」
と、原田が言った。

「でも、滝沢以外に犯人は考えられません。この画像だって、どこかにトリックがある筈なんです」
伊波は、困惑した表情で言った。

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