FPと文学・エッセイ 〜是れ日々なり〜

ライフプラン、資産設計のほか、文学・社会・芸術・文化など気まぐれに日々、FPがつづるエッセイ。

ゴルゴ13シリーズの最高傑作 ~ おぞましき血の謎「芹沢家殺人事件」  

2010-09-19 16:34:33 | 芸能・映画・文化・スポーツ

コミックはあまり読まないほうですが、今でも読み続けているものがあります。

一つは「島耕作」。
「島耕作」シリーズは、「課長」時代が傑作で、サラリーマンとしての自分と重ね合わせて、仕事のやり方や上司との付き合い、女性の扱い方(?)などを、これを教科書として楽しみながら学んだものです。ただ、島耕作が出世していくにつれ(今では日本を代表する大会社の社長)、だんだん自分との距離が広がりすぎて、ちょっと現実感がなくなっていき、少し興味が薄れてきているのも事実です。

もう一つは「ゴルゴ13」。
「ゴルゴ13」といえば、こちらも若い時代の一人の殺し屋から今では国際舞台で政治を動かすほどの超一流スナイパー(狙撃者)へと出世(?)し、かなりかけ離れた存在となっています。しかし、ゴルゴが超大物に出世すればするほど、このシリーズ作品は逆に現実感が優ってきて、イマージネーションが高まり、読むほうの創造力を刺激してくれます。

最近、「ゴルゴ13」の通算100巻メモリアル号(My First Big 小学館)としてこれまでの傑作(主に1970代~1980年代の作品)が一冊となって出たので、読んでみました。数ある傑作の中で、多くのファンが傑作とするものに「芹沢家殺人事件」があります。私も、これは超傑作だと思います。1975年の作品ですが、最初に読んで以来、時々あのおぞましい光景が脳裏から蘇ってきます。

この作品は、作者(といっても、原作者のさいとう・たかを氏以外に、分業制でシナリオ専門のライターがいるそうですから、本当は誰の原作かはわかりません)が特別に思い入れた、一世一代のシナリオだと思います。ゴルゴが誰なのか、誰がゴルゴなのかを、渾身の筆で作者が描いたのが伝わってきます。ゴルゴの正体の謎を扱った作品はいくつかありますが、作者(さいとう氏?)は、シリーズの途中で、ゴルゴを今後永く作品で生かしておくためには、いったんケリをつけるために、ここでゴルゴの正体を明かしておく必要があったのかもしれません。もっとも、「芹沢家殺人事件」はゴルゴ13の本当の正体を極限まで突きつめておきながら、最終的には明かしていません。

「芹沢家殺人事件」― 。昭和20年代に起きた一家5人惨殺事件、家族殺害の犯人と思われる5歳の少年・芹沢五郎(ゴルゴ?)が成人した後、ただひとり生き残った姉を、自分の正体を知る最後の証人ゆえ抹殺する・・・(読んでいない人のために殺人の方法は書きません)。その時から芹沢五郎はゴルゴ13になるべく十字架を背負う宿命となる。まるで、実際に起こった凄惨な殺人事件のような現実感をもって迫ってくる作品です。

この作品の頃から、ゴルゴは実際の政治・経済の国際舞台で現実世界と交錯し、現存するスナイパーとして国家や軍の依頼により政府要人や組織大物らを狙撃していきます。表舞台に見えない闇舞台で現実に存在し、裏の世界より歴史を変えていきます。

「芹沢家殺人事件」は、横溝正史の小説にあるような殺人ミステリーと、一族の歴史に秘められた謎、おぞましき血の連鎖、ゴルゴ13という超人が誕生するまでの種明かしを絡めた傑作です。あのゴルゴ独特の風貌と醸し出す雰囲気は小説という言語世界では表現しきれませんし、ましてゴルゴという超存在を実写で演じきれる俳優が存在しないということで映画化も難しいものです(実際、高倉健や千葉真一とか、何人かの俳優が挑んでいますが、どこまで迫りきれたでしょう)。

ゴルゴ13が死ぬ時は、生みの親さいとう・たかを氏が亡くなる時だと思いますが、ゴルゴの死は、さいとう氏の死よりも世界中で大きく報道されることでしょう。現実世界を超越したテロリストの死として。

(村上龍のテレビ番組「カンブリア宮殿」に出演した時、さいとう氏は「すでにゴルゴの最終幕は頭の中にでき上っている」と語っていました。)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿