鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

本別町の鳥類

2016-12-07 16:56:21 | 鳥・一般

Photo by Chishima, J.
タンチョウの親子 2013年5月 北海道中川郡本別町)


(2016年11月6日本別町にて開催の郷土学習「本別の野鳥を知ろう」(講師:千嶋夏子)での配布資料を一部改変)


 文頭から唐突だが鳥って何だろう?ボクが子どもの頃はテストで「羽毛を持つ恒温動物」と書けばマルが貰えた。何とも簡単でわかりやすい定義だ。しかし、世界各地で恐竜学が発展するにつれ羽毛を持った「羽毛恐竜」の存在が知られ、一部の恐竜は恒温性だった可能性も指摘されている。現在の学説では鳥類は恐竜の現生系統、すなわち生き残りと考えられている。恐竜は6500万年前に絶滅していなかったのだ!最近の教育現場では鳥類をどのように教えているのだろう?(ご存知の方がいたら是非教えて下さい)


トロオドン類(竜盤類獣脚類)の全身骨格(レプリカ)



 大型恐竜から鳥に至るまでには数多くの種が化石も残さずに絶滅していっただろうが、現生の鳥類は約1万種前後とされる。20年くらい前は8000~9000種といわれていたが、この20年で冒険家が世界の僻地から新種を採集しまくったワケではない。DNAの研究が進んだ結果、同じ種と考えられていたものの中に実は種レベルで異なるものが複数含まれていることがわかった積み重ねによる部分が大きい(もちろん、完全に新しく記載された種もある)。形からは見分けが付きづらい、隠蔽種というヤツだ。たとえば、世界のアホウドリの仲間は1990年代前半まで13種とするのが一般的だったが、遺伝子解析が進んだ結果、現在は24種とされている。いまのところ同じ種とされている伊豆諸島と尖閣諸島のアホウドリも別種とするのが妥当という研究者もいる。


アホウドリの若鳥
2014年6月 北海道十勝郡浦幌町



 日本ではこれまでに少なくとも633種の鳥が記録されている。この中には絶滅したオガサワラマシコや世界でも沖縄島北部にしかいないヤンバルクイナ、2回だけ迷って来た記録のあるヒメノガンなども含まれるから、広く定期的に見られるのは300種くらいだ。北海道では不確実なものを含めると480種以上が記録されている。北海道の鳥類相の特徴の一つに、本州以南の国内にはいない種・亜種(別種とするほどではないが明らかに羽色や大きさが異なるもの)の分布することがある。庭や公園で親しみ深いハシブトガラも本州以南には生息しない。ほかにエゾライチョウ、シマフクロウ、ヤマゲラなどは国内では北海道にのみ分布し、アカゲラ、エナガ、カケスといった身近な鳥たちも亜種が異なる。これらは国内では北海道にしかいない一方、大陸には広く分布するものが多い。北海道という大地が辿って来た歴史がその理由で、水深の深い津軽海峡は15万年前に成立してから陸続きにならなかったが、大陸とは水深の浅い宗谷海峡や間宮海峡を通じて1万年くらい前まで何度も繋がり、動物たちがやって来たのだ。ヒグマ、ナキウサギなど日本では北海道にしかいない哺乳類が多いのも同じ理由による。哺乳類・鳥類にとっての分布境界線となっている津軽海峡は、そのことに気付いた英国のナチュラリストの名にちなんで「ブラキストン線」と呼ばれる。北海道の鳥相のほかの特徴として、キバシリ、ゴジュウカラ、アオジなど本州以南では山地に生息するものが平地にも普通に分布しており(垂直分布の下降)、スズメ、カワラヒワといった本州以南の平地の種と一緒に暮らしている、いわば圧縮された鳥類相を示すことがある。繁殖期に本州以南から来道したバードウオッチャーは種や個体数の多さに驚く。一方、冬はごく少数の留鳥や冬鳥をのぞくと極端に少ない。雪や氷に閉ざされ、環境が厳しいためだ。夏鳥が多いことも北海道の特徴といえる。


エゾライチョウ
2014年4月 北海道十勝郡浦幌町



キバシリ(亜種キタキバシリ
2012年2月 北海道帯広市



カケス(亜種ミヤマカケス
2015年10月 北海道中川郡池田町



 さて、前置きが長くなったが本別町では2016年10月末現在、43科138種の鳥類が確認されている。十勝で記録ある鳥は約350種なので、その4割ほどだ。種類が多いのは主に海鳥や水鳥であることを考えると、内陸の町としては比較的多いといえるのではないだろうか。その理由の一つには比企知子さんがご自身の観察記録を1997年、ひがし大雪博物館研究報告に論文としてまとめられていることにある。地理的な条件も影響しているだろう。ボクは秋になると池田町まきばの家展望台で渡り鳥の調査を行っているが、本別方向から飛んで来る水鳥や猛禽類が多い。おそらくオホーツク海側から太平洋側へ抜ける最短ルートの一つとして利別川沿いを利用するのだと考えている。そのほかに本別町の鳥類相の特筆すべき点を挙げるなら、
①本別沢からウコタキヌプリにかけての町東側の山地は阿寒山地や白糠丘陵とも繋がりを持ち、オシドリやエゾライチョウ、クマタカ、クマゲラなど自然度が高い森林に生息する種が多い。また、針広混交林、針葉樹林が広く分布するため本来は亜高山帯に分布するルリビタキ、コマドリ、ウソなどが繁殖期にも比較的低標高で見られる。
②一方で平野部や丘陵にはミズナラ、シナノキ、イタヤカエデなどの広葉樹林が広がり、海霧の影響を受けない夏の気候のためかイカル、ヤマガラ、アオバズクなど十勝では数の少ない南方系の夏鳥が生息する。かつてはアカショウビンも渡来していた。
③海から50km前後離れた内陸部ながら利別川やその周辺の湿地、(行政区的には足寄町だが)仙美里ダムなど水辺環境もあり、先に述べたようにオホーツク海側への渡りルート上にあると考えられることから水鳥も多い。近年では十勝川やその支流沿いに内陸側へ分布も広げているタンチョウも繁殖している。
④市街地付近でオジロワシが繁殖する。
などといったところだろうか。とはいえ、未解明の部分やこれからの記録が期待される鳥も多く、本別町の山野は北海道の鳥類学におけるフロンティアだ。さらに視野を広げれば十勝平野とオホーツク海側の中間に位置するため、足寄、陸別、池田なども含め鳥類相がどのように変化してゆくのか大いに興味深い。市街地から農耕地、森林までどんな環境でも見られ、双眼鏡さえあれば観察できる(ルーペや顕微鏡を必要としない)のが鳥の魅力。外歩きが苦手なら冬に庭に餌台を設置して、ヌクい室内からホットコーヒー片手に見るのも悪くない。キガシラシトド、ゴマフスズメなど冬の北海道では餌台に迷鳥が飛来するコトが多い。ぜひ多くの方に観察して、記録を残してほしい。それがアカショウビンやシマアオジなど減りゆく鳥たち、ひいては地球環境を守る第一歩になるはずだ。本日は直接お話できず申し訳ありませんでしたが、近いうちにフィールドで一緒に鳥を見られる日を楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします!


オシドリ(オス)
2013年5月 北海道中川郡池田町



オジロワシ(成鳥)
2012年1月 北海道十勝川中流域



千嶋淳:1976年群馬県生まれ。幼少より鳥に親しみ、「4年間北海道の鳥を見に行く」つもりだった帯広畜産大学入学もいまや22年前。海なし県に生まれ育ったのになぜか仕事の大部分は海鳥・海獣に関するもの。道東鳥類研究所主宰。NPO法人日本野鳥の会十勝支部、日本鳥学会等会員。著書に「北海道の動物たち 人と野生の距離」、「北海道の海鳥1~4」、「十勝 湿地のいきもの図鑑」等。


(2016年10月31日   千嶋 淳)

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