北京から来た露々

2017年02月27日 19時43分58秒 | 未来予測研究会の掲示板
「信じる者は救われる」
それは、どのようなことなのか?
利根輪太郎は、神仏を信じていない。
だから、神頼みのような気持ちには到底なれない。
それでも、典子からもらった神田明神のお守りを、言われるままに身に着けていることは矛盾とも言えた。
「私は、信じているからどの神社でも祈ることができるの。信じればきっと、救われると思うの」
20歳になった典子は、成人式を迎えた日、一人で神田明神へ行く。
「輪さんのことも祈ってきたの」
その日、輪太郎は千葉競輪行っていて、帰りに典子が住む中野区中央のアパートへ寄ったのだ。
「食事に行こう」と典子を誘い、新宿のビル3階の焼肉店へ行く。
その店で典子から神田明神のお守りをもらったのだ。
実はその店で、池袋のスナックで出会った中国人の露々(ろうろう)が働いていたのだ。
「センセイ、めずらしいね」と輪太郎の手を握ったが、背後に立つ典子に気付いて手を離した。
中国人の露々が韓国衣装を身に着けていることに、不思議な感じがした。
露々に導かれ窓際の席に二人は座った。
露々は典子を意識して、硬い表情になっていた。
典子の表情も硬くなっていた。
「どのような、関係なの」と典子の目が言っていた。
「彼女は北京から来た露々。俺は彼女の日本語教師のようなものなんだ」
それは事実であった。
彼女が歌うカラオケの声を聞いて、その美声に惚れ込んだ。
席に戻ってきた露々が「私の日本語、どうですか?センセイ、私に、日本語教えてください。いいですか?」と言うので、「ああ、いいよ」と応じたのだ。
その翌日、輪太郎は露々にどのような日本語を教えるべきかを考え、東京八重洲の大きな本屋へ行ってきたのだ。
そして、関連の本を3冊も買ってみたのだ。
日本語は、主にカラオケ店でビールなどを飲みながら教えたのだ。
そして、帰りには1万円札を露々に渡した。
日中友好のためと輪太郎は考え、男女の関係になることを避けた。
「センセイ、わたくし、魅力ないですか?」と露々が問う。
「露々は、とてもいい人だよ。だから、誠実に居たいんだ」輪太郎は男女の友情を貫く覚悟であった。
それは輪太郎に大学時を思い出させた。
現代文学研究会では、文化祭の時には毎年、ペア―を組み二人で研究発表をしていた。
「利根は良い相手と組めて、羨ましいよ」とメンバーの大木克男に言われた。
ペア―を組む戸田里恵は、美しい容貌をしていたのだ。
だが、輪太郎はその時期、ドイツ文学科の田中峰子に惚れ込んでいたが、心を打ちあけずにいたのだ。
戸田里恵の色白の美貌に比べると田中峰子は色黒で10人並みの顔立ちであったのだ。
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