乳がんとなった理恵子 1)

2017年03月24日 22時10分47秒 | 創作欄
大島和也は、鈴木恵理子の治療する病院に同行した。
「大丈夫よ。来なくても」恵理子は微笑んだ。
和也はむしろ、その微笑みに不吉なものを感じ取っていた。
二人は奇しくも、趣味の競輪が同じで、出逢いの危惧に運命的なのを感じていたのだ。
競輪ファンは大半が中高年男性である。
30代と想われ女性の存在は、競輪場では好奇の対象となった。
多くの男たちは願望とは別に、女に何時までも近づかずにいた。
相手は美人過ぎるし、気位も高そうだし、声をかけて拒絶されたら屈辱である。
恥をかくことを承知で大島和也は声をかけた。
「次のレース、勝負できそうだね」
如何にも傲慢そうに映じた女は、和也の言葉を無視すると想われた。
だが、「そうかしら?」と女は目に警戒心を宿していたが、幾らか心を開いたのである。
「当たっている?」
「さっぱり、朝から負けてばかり」
「俺も同じ」
「競輪、難しい」
「たしかに」
和也は、自分の存在を誇示したくなる。
「俺、希望の星、目指しているんだ」
「希望の星?!」相手の女性は目を丸くした。
これからが、ハッタリであった。
「俺、大島和也、君は?」
「わたし?鈴木恵理子よ」
「どこから、来たの?」
「取手市内」
「俺も取手市内」
競輪の帰りに和也は、恵理子を駅前の寿司屋に誘った。
その寿司屋で、恵理子は自分が乳がんであることを明かしたのだ。
「乳がん?!」
「そうなの」恵理子は日本酒を飲みながら涙ぐむ。
寿司屋の店主は、恵理子の母親の元彼氏であった。
恵理子の父親は45歳の時に、肝臓がんで亡くなっている。
恵理子の母親は、夫のゴルフ仲間であった寿司屋の店主と深い関係になったのだ。
そのことに、恵理子は何時までも拘りを持っていたが、和也に誘われ因縁の店い顔を出した。
「えりちゃん、来てくてたんだね」店主の根本志郎がオシボリを出す。
恵理子の表情は硬いままだった。
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