取手通信・ツール・ド茨城の実現へ 利根輪太郎

医学情報社編集顧問
フリージャーナリスト

いま日本の医学界でノーベル賞に一番近い研究者

2016年04月13日 01時37分37秒 | 医科・歯科・介護
坂口 阪大教授、「免疫学の常識覆す」軌跡語る
ガードナー国際賞受賞の免疫学の第一人者、「定年記念講演会」


m3.com 2016年4月11日 

橋本佳子(m3.com編集長)

 この3月まで大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授を務めていた坂口志文氏の定年記念講演会が3月23日、「制御性T細胞研究の35年:発見から応用まで~新たな出発に向けて~」というテーマで、同大で開催された。坂口氏は免疫研究の第一人者で、独自の研究を重ね、免疫学の常識を覆した「制御性T細胞」の発見で知られる。2015年にはその業績が評価され、カナダのガードナ―国際賞を受賞。日本人でノーベル医学・生理学賞に最も近いとされる一人だ。
 「最初は、『退官記念講演会』をやるように言われた。まだ研究を続けるつもりなので、(退官と受け止められると)大学院生などが来なくなる。営業妨害だ、と言って、『定年記念講演会』にしてもらった」と笑いを誘いながら、講演を始めた。
 1976年に京都大学医学部医学科を卒業した坂口氏は、すぐに大学院に入り、研究の道に進んだ。制御性T細胞の研究歴は実に35年に及ぶ。制御性T細胞は、その名が示す通り、過剰な免疫反応を抑える細胞。
 制御性T細胞は今、免疫が関わるさまざまな疾患の発症や治療との関連が明らかになり、免疫関係でも最も注目を集めている研究分野。日本人に多い成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)の治療薬として2012年に上市されたがんに対する初の抗体医薬、抗CCR4モノクローナル抗体(モガムリズマブ)は、制御性T細胞を選択的に「減らして」、抗がん免疫を活性化する作用を持つ。一方で、免疫拒絶反応が問題になる臓器移植では、シプロスポリンなどの免疫抑制剤の代わりに、制御性T細胞を「増やして」、免疫を抑える研究も進んでいる。
 数十年前の免疫学の教科書をひもとくと、獲得免疫は、樹状細胞の抗原提示により、ヘルパーT細胞が活性化、B細胞での抗体産生に至る仕組みとして解説されている。この定説に対し、新たに制御性T細胞という“プレーヤー”の存在を提示し、免疫反応の調節機能の解明したのが坂口氏だ。
 もっとも、坂口氏は1985年頃には、制御性T細胞の概念を確立していたものの、それが受け入れられるまでには時間がかかった。制御性T細胞がメジャーな存在になるのは、2000年代初頭から。それを象徴するスライドとして坂口氏が提示したのが、関連論文数の推移だ。「2000年ころまでは、制御性T細胞に関する論文がほとんどなかった。2000年以降に少しずつ出始め、2003年にFoxp3という転写因子が見付かり、その後、ウナギ登りに論文が出るようになった」(坂口氏)。ヒトでの応用が進み、最近では制御性T細胞に関する論文は年間約3000本にも上る。
 講演の最後に「なにごとにも時間がかかる」と記したスライドを提示した坂口氏。時代に左右されず、論理的に考え抜き、それを証明する研究を積み重ねることこそが科学の根幹――。それを端的に示す定年記念講演会だった。
■京大大学院に入学も1年半でやめる
 1時間30分近くにわたった定年記念講演会は、制御性T細胞の研究史そのものだ。仮説を立て、in vitro、マウスでのin vivoの研究を繰り返し、制御性T細胞の機能の一端が明らかになると、次なる仮説を立て、それを証明する繰り返し、そしてヒトに応用する――。坂口氏は、実験データを根拠として示し、知見が一定程度蓄積された段階で、制御性T細胞の機能を整理した概念図を織り交ぜながら、35年の研究史を分かりやすく講演した。
 坂口氏が制御性T細胞研究の道に入ったきっかけは、自己免疫疾患だ。さまざまな自己免疫疾患があるが、その特徴は、「オーバーラッピング」。例えば、ランゲルハンス島に異常がある1型糖尿病の患者は、甲状腺、胃、あるいは副腎に対する自己免疫疾患も持つことがある。「自己免疫疾患は、一つ一つの臓器に特異的な原因があるのではなく、免疫系というシステムの病気ではないかと昔から言われていたが、その実態が分からなかった」(坂口氏)。
 免疫分野では、1960年代初めに、胸腺除去により、免疫不全が起き、卵巣だけでなく、他の部位にも自己免疫反応が起きることが分かっていた。そのメカニズムに関心を持った坂口氏は、1976年の京大卒業後、同大大学院に入学するが、約1年半で中退し、米国のスローンケタリング記念センターで免疫学を学んだ高橋利忠氏が籍を置く、愛知県がんセンター研究所の研究生になった。
 その後、京大にいったん戻り、博士号を取得後、1983年9月に渡米。ジョンズホプキンス大学、スタンフォード大学、スクリプス研究所に在籍。1992年10月の帰国後も、科学技術振興機構「さきがけ21研究」研究員、東京都老人総合研究所、京大を経て、2007年秋から阪大免疫学フロンティア研究センターと、日米で研究拠点を転々としながらも、制御性T細胞の研究を一貫して続けた。

※制御性T細胞の機能を図式しながら、研究の歴史を語った(提供:坂口氏)

■「自己」と「非自己」は曖昧
 坂口氏は既に1985年の時点で、制御性T細胞という言葉は使っていなかったが、マウスを用いた研究に基づく制御性T細胞の存在を示す論文をまとめていた。
 坂口氏は、制御性T細胞の機能について、「自己」と「非自己」は、截然(せつぜん)と区別できるわけではなく、曖昧であるとユニークな表現で説明。免疫は、ウイルスや細菌などの「非自己」を攻撃するが、時に「自己」を攻撃する。その結果、生じるのが自己免疫疾患だ。「これは概念的に非常に面白いこと」(坂口氏)。この辺りの免疫を調整するのが、制御性T細胞であり、同細胞の機能を下げれば、免疫は活性化し、がん細胞に対する免疫反応も高まる。一方で、機能を高めれば、免疫が抑制、普通であれば起き得る拒絶反応も抑え、移植臓器が生着する。
 CD25、FoxP3、CCR4、CTLA-4、IL-2といった、細胞表面分子、遺伝子、情報伝達物質などが、制御性T細胞の発現に関係することを明らかにしつつ、同細胞の機能を証明する研究を進めた。
■免疫チェックポイント薬として実用化
 最初はマウスを用いて、in vivoでの研究を行っていた。そこで証明された制御性T細胞の機能は、「ヒトの病態とよく合う」と坂口氏。例えば、サルコイドーシスでは、アクティブな制御性T細胞が高発現しており、免疫抑制が起きる。ATLLは、制御性T細胞ががん化して生じる疾患であり、抗CCR4抗体により、治療が可能になる。がん免疫療法として続々と開発が進む、抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬も、T細胞の制御に着目した医薬品だ。
■「新たな出発」、イマチニブに注目
 ただし、坂口氏は「抗体療法は、お金もかかる」と医療経済を視野に入れる必要性を指摘する。抗CCR4抗体などは高分子で薬価が高いものが多い。より低分子の医薬品の開発につながる研究を、坂口氏は視野に入れる。それが「新たな出発」であり、候補の一つとして慢性骨髄性白血病の分子標的薬、イマチニブを挙げる。イマチニブの投与患者は、投薬を止めると再発する患者群と再発しない患者群に分かれることが、これまでの研究で分かっているという。
 その一方で、腎移植や骨髄移植の後に、制御性T細胞の活性を高め、免疫を抑える研究も、国内外で進む。抗原特異的な制御性T細胞を用いたヒトの病気の治療法を進める将来展望を坂口氏は描く。
■「若い時に受けた影響は大」
 坂口氏の講演の前半で、写真入りで「若い時に受けた影響は大きい」として挙げた3人の名前がある。大学院の途中から在籍した愛知県がんセンター研究所の西塚泰章氏、坂倉照好氏、高橋利忠氏だ。
 恩人として、大阪大学免疫フロンティア研究センター主任研究者で、阪大名誉教授の岸本忠三氏の名前も挙げた(『人生二度の「しゃあないな」で進路変更』を参照)。「岸本先生に、東京都老人総合研究所時代、制御性T細胞がまだあまり注目を浴びていない頃、私は関節リウマチのモデルマウスの研究をしていた。大型の研究費を付けてもらった時の審査員が、岸本先生。今では許されないことだが、研究費を制御性T細胞の研究に流用して、この辺りから何とか認められるようになった」。
 NIH(米国立衛生研究所)の免疫研究の権威、イーサン・シェバックとともに、2004年にがん免疫療法の権威として知られるウイリアム・コーリーを記念した「コーリー賞」を受賞した。そのシェバックのポスドクの女性研究者がスエーデンに帰国、彼女の最初の弟子が坂口氏の下で研究したエピソードなども紹介。
 これまで一緒に働いたポスドク、大学院生、研究スタッフの名前を挙げ、「この場を借りて、感謝を申し上げる」と謝辞を述べ、最後に坂口氏が掲げたのが、「なにごとにも時間がかかる」というスライド。約3年前に、出身高校から講演を依頼され、若い世代にメッセージを贈った。「今の時代、グーグルをちょっといじれば、いろいろな知識が手に入る。しかし、何かをやろうと思ったら、時間がかかるものである。それをじっと我慢してやり続けると、思わぬところから、自分の力だけでなく、人の力もあり、時代の力もあり、面白いことが展開してくるだろう」。

※「定年記念講演会」は3月23日、午後4時から1時間30分近くにわたった。
※ 阪大免疫学フロンティア研究センターの研究員らが多数参加。

坂口 志文(さかぐち しもん)
 1976年3月京都大学医学部医学科卒業、4月同大大学院医学研究科入学、1977年10月愛知県癌センター研究所実験病理部門研究生、1980年4月京大医学部免疫研究施設および附属病院輸血部医員、1983年9月Johns Hopkins大学客員研究員、Stanford大学客員研究員、Scripps研究所免疫学部助教授を経て、1992年10月「さきがけ21研究」研究員、1995年4月東京都老人総合研究所免疫病理部門部門長、1999年2月京大再生医科学研究所生体機能調節学分野教授、2007年10月同大再生医科学研究所所長、2011年4月大阪大学免疫学フロンティア研究センター実験免疫学分野教授、2013年7月阪大特別教授。2016年4月同センター特任教授、阪大名誉教授。
 2004年Cancer Research Institute’s 2004 William B. Coley Award、2005年武田医学賞、2009年紫綬褒章、2012年日本学士院賞、米国National Academy of Sciences外国人会員、2015年Maharshi Sushruta Award、Gairdner International Award、トムソン・ロイター引用栄誉賞など、制御性T細胞の研究により、内外で多数の受賞。Science (Reviewing Editor)などの学術誌の編集にも従事。
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