取手通信・医学情報社 山本 嗣信 (やまもと つぐのぶ)

医学情報社編集顧問
フリージャーナリスト

「元戦場カメラマン」 野神正明

2017年06月14日 08時13分46秒 | 未来予測研究会の掲示板
「元戦場カメラマン」と言っていた野神正明は、迷彩服を着ており同じ色合いの防止を目深に被っていた。
引き締まった口元の細いヒゲは精かんに映じたが、大きな目はむしろ穏やかな印象を利根輪太郎に与えていた。
彼は細身で長身であり大股にゆっくり歩いていた。
カンボジアで消息不明となった叔父が遺したカメラの一台を叔母から譲り受けた正明は、大学へは行かずに写真の専門学校で学んだ。
広告専門の写真家となったが、イラク戦争を契機に自らの意思で叔父のように戦場へ向かった。
正明が戦場に身を置いたのは僅か1年、戦闘や空爆さえなければ死ななくとも良かった多くの一般市民の死に衝撃を受けるとともに、その理不尽さに怒りを覚え戦場を去る決意をした。
写真で戦場の悲惨さを伝えることに、本当の意味があるのだろうか?
正明は自問自答した。
戦争とは対極にある<平和の尊さ>をむしろ写真で伝えるべきではないか?
そのように思い直したのである。

人は何かを契機にこれまでにないような、あらぬ方向へ向かうことがある。
正彦は酒が飲めない体質と思い込んでいて、ビールも飲まずに過ごしてきたのだ。
3人兄弟が正彦同様にアルコール類を受け着かなかった。
2人の妹も同様であった。
無論母も酒を飲まないが、48歳の時にクモ膜下出血で亡くなった父はワイン党であった。
イラクの戦場から戻って来た正彦は、再就職した職場の同僚に誘われ銀座のビアホールへ初めて行った時、勧められるままに黒ビールを飲んだ。
飲めないと思っていたアルコールが喉を通った時、とても不思議な想いがした。
<食わず嫌い>という表現があるが、正彦は<飲まず嫌い>であったのだ。
「野神君、飲めるじゃないか!」同僚の沖田喜雄はニヤリと笑った。
「そうですね。黒ビールは美味しい」野神は微笑んだ。
「明日の日曜日、松戸競輪場で競輪の日本選手権競輪があるんだ。いかないか?」沖田が競輪をやるとは知らなかった。
野神はたまに競馬をやるが、競輪は未経験であった。
「競輪は面白いぞ、競馬は俺はあまり好きじゃない」ビールを飲むピッチが速い沖田は、すでに3杯目のビールを口に運んでいた。
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