小松一郎の人生転落

2017年07月12日 15時43分21秒 | 未来予測研究会の掲示板
人生の皮肉な結末とも言えた。
小松一郎は、大手企業から、52歳で子会社へ追いやられたことを契機に、それまで、一度も足を向けることがなかった平和競艇場へ土日に引き摺り込まれるに通うになった。
子会社の7階建てビル窓から競艇場が見えていた。
初めは昼休みに1レスだけ見に行く。
試しに年齢の投票券5-2を買ったら、1000円が8万5200円にもなったのだ。
部長の立場の小松に社員の吉田幸雄が「麻雀どうです?」と遠慮勝ちに誘う。
「麻雀か、久しぶりにやってみるか」懐が急に豊かになった小松な応じた。
その夜の麻雀はツキに見放され、4回もラストになり、3万4000円を放出した。
金曜日の夜で、小松は伊勢崎町で飲んで金沢八景の自宅には帰らず、和風旅館に泊った。
頭は競艇のことで一杯となり、なかなか眠れない。
旅館を午前9時に出て、朝食も取らず、平和島へ京急急行で向かう。
駅前から送迎バスには小松のように濃紺のスーツ姿の男は一人も乗っていない。
小松は退廃的な気分となり、ライトブルーのネクタイを外し、ワイシャツのボタンも外す。
小松は5-2を3000円づつ買い続ける。
ほとんどのレースが、内枠で決まる。
小松は重い足取りで金沢八景の自宅へ帰る。
「あなた、連絡もせず、外泊ですか!」妻の由香子は皮肉な笑みを浮かべる。
小松は目をつり上げ無言のまま、妻の顔を平手打ちする。
「何があったか分かりませんが、私に暴力ですか!」気が強い由香子は湯呑茶碗を夫の胸に叩きつける。
娘の里美が「何なの?」と居間の襖を開けた。
長男と次男はサーフィンへ行き不在であった。
母親思いの息子二人が自宅に居たら、騒動になっていたかもしれない。
息子たちは、父親に暴力を揮ったことはないが、「今度、母さんに暴力を揮ったら、ただじゃ置かないよ!」と父親を威嚇するように忠告していた。
小松は狂ったように競艇や麻雀にのめり込んで行く。
2年余でサラ金4社の借金が、350万円を超えていた。
小松は故郷の佐渡に住む父親に懇願しに行く。
自己嫌悪に陥った小松は、「連絡船からこのまま海に身を投げたら楽になるだろう」と船の最後方の欄干に身をもたれていた。
「どうしたんだ?」息子の憔悴した表情に父親の健作が驚く。
小松は嘘で繕う。
「実は、社員の一人が取引で不正を行い、部長の俺が責任を問われているんだ。このままだ俺も一緒にクビになる」
脇で聞いていた母親の朝子は「お金で解決できの?」と身を乗り出す。
「そうだね」当に渡りに船であった。
「お前のために貯めていた郵便貯金が800万円あるよ。それで足りるの?」
「そうだね」小松は心で母親に手を合せていた。
「それに、父さんが孫たちのために貯めていた。1000万円の郵便貯金も持って行きな」
小松は一人息子であり、娘の優子は看護師であったが2年前に新潟の内科医に嫁いでいた。
小松は天に昇る思いがしたが、さらなる転落が待ち受けていたのである。
次男の伸二が鎌倉の海で自殺したのは3年後のことであった。
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