寅の子文庫の、とらのこ日記

本が読みたいけど本が読めない備忘録

岩波新書530【あの人は帰ってこなかった】を読む

2005年08月22日 23時55分57秒 | 15年戦争
岩波新書530 【あの人は帰ってこなかった/菊地敬一・大牟羅良編/1964年第1刷】を読みました。

本書は先の戦争で尊いご家族を亡くされた、ご遺族たちの生の声を集めています。
第一部では【勲章の裏に刻む】と題し、9人の戦争未亡人たちの談話を聞き書きとしてまとめられています(通称、『北どおり』 と呼ばれた岩手県和賀郡横川目村のある部落では、わずか93戸の中から125名の出征兵が出て32名が戦死、11名の戦争未亡人が生まれた)。この未亡人たち、一人一人の命の叫びは、同じように戦争で夫をまた家族を失った全てのご遺族、とりわけ、未亡人と言う特異な形に当てはめて見たとき、全国に何十万と辛い生活苦の中で更には古い家族制度に縛られつつ、多くを語らず埋没して行った未亡人たちを代表する声として、切実にわたしたちへ語りかけています。次に続くわたしたちはさらに子供たちへと語り継ぎ、日本人の家族の有り方と社会生活の規範、営みまで含めて、もう一度考えてみる必要のあることを問い掛けています。 第二部は【叫ばずに来た二十年】として9名の戦争未亡人の聞き書きの他にも、共通すると思われる戦争体験の思い、心の叫びを取り上げて17話を掲載しています。その中から1話を紹介してみます。


【路傍にある墓石】

和賀町の部落から部落へ通ずる道端に、道路に面して戦死者の墓石が一つ建っています。これは一人息子の千三(25才、ニューギニヤで戦死)のため、その母・高橋セキさん(本書刊行1964年当時71才・一人暮らし)が建てたもの。セキさんは【戦争体験を語る会】で道端に墓石を建てたわけをつぎのように語っています。『ベコ(牛)や犬の死んだようにしたくねェと思って、ながい間すこしずつためたお金で墓作ってやったンス。オレ死ねば、戦死した千三を思い出してくれる人もなく、忘れられてしまうべ、と思って、人通りの多い道端に建てたノス。その道通った人たち、墓石みて、戦死した息子、千三を思い出してけるベェ。知らねェ人でも、戦死者の墓だと思えば、戦争を思い出すベナス。そして、お念仏となえてくれる人もあるかもしれねェと思ってナス、~中略~ 墓へ行くつもりでなくとも、墓のそば通れば、なんとしても足よどまるナス。誰だか知らねェども、草花コなど上げてくれてあるのみると、わが子さ、お菓子もらった時よりありがたく思うもんだナス。』 
セキさんは千三が2才の時、夫に病死されるとともに婚家を出され、実家の藁葺き小屋に母子ひとつ身を寄せ合い、セキさんの日雇いで千三を育て上げたそうですが千三22才の時、昭和17年に召集令状を受け出征、昭和20年4月に戦死、後に遺骨が届けられました。
『息子の遺骨来たとき、おまえ、こんな姿になって来たかって、箱さかぶりついたス。箱の中さ、小指ぐらいの骨ッコがたったひとつ入ってたったンス。ほんとうに息子だべか?そうだんべか?と思って、その骨ッコなめてみたったンス・・・』 こう語ってくれたセキさんもやがては死んでゆき、セキさんが建てた墓石だけ残るでしょうが、その墓石も、何時までセキさんの祈りを伝えてくれるのだろうか、と結んでありました。

戦後60年、こうした話はまだ全国のあちらこちらにあると思います。私の母も昭和20年7月16日夜半の沼津空襲で家を焼失し、足元を焼夷弾のかけらがシュルシュルと音を立て燃えさかる中、狩野川の堤防を目指して走り逃げたそうです。年を経て世代が移れば、こうした話も次第に忘れられてしまうことでしょう。しかし今、もう消えかかっている貴重な戦争体験の数々をわたしたちはどんな小さなことでも確りと受け止めて、さらに子供たちに語り継ぎ、決して埋れさせてはならない・・・戦後60年を迎えた暑い夏の終りに1冊の埃をかむった本が胸に刻まれました。
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