ショートショート『真夜中の怨み節』

2012年09月18日 | ショートショート



「あの・・・覚えているかしら、あたしのこと」
真夜中に電話が鳴ると、つい近親者の不幸かと慌てて電話に出てしまう。
すると、聞こえてきたのは、ゾッとするような、か細い女の声。背筋に冷たいものが走った。
聞きおぼえ?う~む、どの女だ?
「忘れてしまったのね、あたしのことなんか」
声に合わせて、キーボードを打つパチパチという音。多少、PCのキーより軽いような。
で、ジ、ジジーという印字する音が。
ある!この音に聞き覚えが確かにある!一気に数十年前の記憶がよみがえる。
「ま、まさか君は・・・」
ボクの声をさえぎる。
「やっと思い出したんだ。そうよね、あたしのことなんか、とっくに忘れちゃったよね」
そんなふうに言われても。
「で?あたしを捨てて、何人と一緒に暮らしたの?正直に教えて」
何人って・・・
「えっと・・・五人?いや、六人かな?いや七人だ」
電話の向こうからため息。
「なんて人なの。次から次へと。さんざん利用して新しいのに乗りかえて。この人非人!」
「そういう時代なんだよ。そうじゃないと時代おくれなんだよ。通用しないんだよ」
「ウウウウウ」
電話の向こうからキーを連打する声がする。
「ウウウウウウウウウウウ」
さらに続く。ボクは気の毒になってアドバイスする。
「たくさん打つときは、コピペしたほうが能率的だよ。そういうの、マウス使うほうが楽なんだよなぁ」
電話の向こうからパチパチパチパチと罵り声が続く。
「とにかく明日早いから。成仏してよね。おやすみ!」
ガチャリ。
霊感が強いってのは困ったものだ。
人の霊ならまだしも、昔使っていたワープロの霊から電話がかかってくるのも困りものだな。
しかし、ワープロの気持ちになればわかる気がしないでもない。
まだ十分使えるのにパソコンの普及とともにお払い箱になって。そりゃ怨みたくもなるだろうな。
同情しつつ眠りについた。
それがまずかったんだろうか?いや~霊感が強いってのはホント困ったものだ。
夜な夜な電話が鳴るようになっちまった。
LDプレイヤー、プリントゴッコ、8ミリビデオ、VHD、98NOTE・・・



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6 コメント

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お気の毒に (haru)
2012-09-18 06:33:05
覚えています。windows95の発売とともに、ワープロが消えていった時代。
あの時は、PCへと自分の頭も切り替えが必要でした。
充分まだまだ使えるワープロでしたが、PCにはかなわない。
結局私もワープロを捨てた。。。
時の流れで忘れ去られたものは、こんなふうに怒っているのでしょね。

でも、霊感がなくて良かった。夜な夜なそれじゃ身が持たないです。
罪つくり (雫石鉄也)
2012-09-18 13:37:19
私も、ずいぶん罪つくりをしました。
PC-8801 ワープロ文豪、ソニーのベータ、マツダのローラリーエンジン車。これらがいっぺんに化けて出たらどうしましょう。
haruさんへ (矢菱虎犇)
2012-09-19 02:56:57
ワープロ末期の便利さって、凄かったと思います。
持ち運べて、すぐに打てるし、プリントアウトできるし。
あの便利さは、今のパソコン以上ですよねぇ。
いろんなものが時代とともに時代おくれになっていく・・・
こんな感慨を持ってるってこと自体、
年なんだなあ~。
雫石鉄也さんへ (矢菱虎犇)
2012-09-19 03:07:25
さすが雫石さん。
なかなかこだわりのある名品を愛でてこられましたねぇ。
世の中、次々と新しい技術によって更新されて過去の名品が消えていきますけど、その時代にこだわりをもって作られた作品が本体にしろソフトにしろ顧みられなくなっちゃうのは寂しいです。
ちなみに、ボクは親指シフト専用キーボードで文字入力していますが、これももう風前の灯って様相です。
懐かしい (りんさん)
2012-09-19 17:47:00
ワープロか…懐かしいですね。
とか言って、実は今でも家にあるんですよ。
キャノンのワープロ。
いつか捨てようと思いながら何年?
「捨てないで」って言われちゃうかも^^
りんさんへ (矢菱虎犇)
2012-09-20 01:51:39
パソコンのプリンタにしても、携帯電話にしても、最近はランニングコストで利益をあげているような製品も少なくないから、何台買い換えたかすら忘れちまいますよね。
ワープロってパソコンと違うコンセプトがあったから、なかなかパソコンに乗り換えるタイミングが難しかったなあ。

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