「処置、完了。そちらから確認できますか?」
ナノマシンを操る真田からの通信を待つまでもなかった。
巨大モニターには、患者患部のCTスキャン映像がリアルタイムで映し出されていたからだ。
「モチロンだよ。聞こえないかね?称賛の声が」
ヘッドフォンから聞こえてくるのは、プロジェクトリーダーの駒井博士の声、そしてそれをかき消さんばかりの、NASAコントロールセンターさながらのお祭り騒ぎ。
ありがとう、ありがとう!
真田の操るナノマシンが身をクネらせて称賛に応える・・・。
近未来。
SF映画『ミクロの決死圏』は現実のものとなった。
ミニミニ光線を浴びてマシンごと縮小、患者体内へ侵入して、通常のオペでは難しい手術を成功させたのだ。
ただし、リアル世界では映画そのままとはいかない。
映画同様に、医療チームが特殊潜航艇で体内を駆け巡ることはできないのだ。
ミクロの世界では分子間力の影響が支配的となり水の粘性が何万倍にも増すため、潜航艇は微動だにしない。
血管を流れる血液はゲリラ豪雨の濁流のごとし。水路として移動に用いるのは自殺行為である。
かくして、リアル世界のナノマシンは人間体内で生き抜くのに最も適した形状となった。
そう。ギョウチュウである。
ギュウチュウ型一人乗りナノマシンを操る真田によって今、大手術は成し遂げられたのだ。
「皆さん、ご静粛に。ボクから重大発表がありま~す」
真田の声にモニタールームが静まる。
「実はボク、今日成功したらある女性に告白しようと心に決めてたんです。その女性とは、ミユキさん、アナタです!」
スタッフのひとり、ミユキに全員の視線が一斉に集まる。ミユキが青ざめる。
明らかに、明らかに迷惑顔だ。
「ミユキさん、ずっと好きでした。お願いします!!」
モニター画面にはアップで映し出されたギョウチュウの顔。んなのに告白されても・・・
「ゴメンナサイ!」
間髪入れずミユキがお断りする。
気まずい空気に包まれるモニタールーム。先ほどまでのお祭り騒ぎが嘘のようだ。
駒井博士が咳払いをひとつ。
「真田くん、これから患者に虫下しを投与する。消化器官へ移動して、脱出態勢に入り・・・」
「や~だよ」
真田の開き直った声。
「こんな恥かかされて、のこのこ出て行けっかよ。どーせオレなんてギョウチュウ野郎さ」
消化器官とは反対方向に這っていくギョウチュウ真田。
モニターを見つめる駒井博士が吐き捨てるように言う。
「ちっちぇ~ヤツだなあ」
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当時の映画も凄いなって思って見た記憶がよみがえりました。
それにしても、ギョウチュウ真田。
ホントに小っちゃいよね。
「ゆるキャラ」朗読させてもらいました。
いつも、いつもありがとです。(._.)ペコリ
ギョウチュウ型マシンも笑えるけど、虫下しで出てくるっていうのも笑える。
ギョウチュウそのものじゃん^^
楽しませて頂きました。
朗読したくて、たまらなくなりました。(笑)
またまた虎犇さんの名作を朗読させてもらいました。
ありがとです。
すっかりブログ全般から遠のいてしまった矢菱です。
いつも気にかけてくださって、本当にありがとうございます。
どうすっかなあ、秘宝館・・・。
小説虎の穴最優秀受賞、おめでとうございます!
知った翌日、本屋さんに寄って、しっかり読ませていただきましたヨ。選評までしっかり読んで納得、納得。
なんかわがことのように晴れがましい気持ちになりました。
最近、とんとブログから離れているボクですが、舞い戻ってきたときにはどうぞよろしくです。
と言いつつ、ここ最近、すっかりお話づくりやらブログやらから遠のいてしまっています。
いったん書かなくなると、みごとにお話を考えることから遠のいてしまうものですねえ。
よっぱさんにカメラのこと教わって、ずいぶん写真が楽しくなりました。よっぱさんのアドバイスはボクの撮影バイブルっす。