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ゴルフバッグ

2012年11月21日 | ショートショート



死体を発見してしまった。
月曜日の朝の出勤中。川沿いの市道を運転していたら、河原に倒れている女性を見つけてしまったのだ。
道路脇に車を寄せると、小雨の落ちる車外へと出た。
自分ひとりでは不安なので、行き交う車を呼び止めようとしたが、忙しい時間帯、誰も止まってくれない。
とにかく確かめてみよう。
河原へと下る、草の濡れた小道を恐る恐る降りて行く。
緊張のあまり耳鳴りがする。
わたしと似た背格好の女。露出した腿全体が紫色に変色している。まちがいない。死体だ。
もう!まったく!
そうだ、これは昨日からの続きなんだ。
昨日の朝。いつもの日曜と変わりなく夫はゴルフに出掛けて行った。
会社の接待だの、つきあいのコンペだの、毎週のように出掛けていく。
勝手に目覚ましを鳴らして、自分で身支度をととのえて行き先も告げずに出ていく。
最も身近に存在するのに、最も遠い他人。
いつからこんなになっちゃったんだろう。
夫はいつものように夜遅く帰宅した。
遅い夕食。
オヤ?
夫はいつもよりビールをたくさん飲み、饒舌に今日の惨敗ぶりを語った。
こんな夫は久しぶりだ。
休みの日のコンペは少し控えよう。ゴルフを練習してみたら?なんてわたしを誘う。
そういえば、若いころ、夫はわたしにゴルフの手ほどきをしてくれた。
グリップはこう、フォームはこう。
結局ものにならず、数回の打ちっぱなしで夫は匙を投げたっけ。コースにも一度も出ないまま。
その晩、夫は私を抱いた。
まとわりつくような違和感に苛まれて目を覚ました。
そっとベッドを抜け出し、ガレージに降りる。
夫自慢のゴルフバッグが奥に立てかけてある。数セットを納められるタイプの大きなバッグだ。
バッグのジッパーをそっと開く。指先が震え、耳鳴りがした。
バッグには、夫の死体が入っていた。
じゃあ、帰ってきたのは誰?
死体の夫が本物だとしたら、バッグを抱えて戻った夫は一体・・・?
わたしはわたしを呪った。
ゴルフだって、夫だって、わたしは何も理解しようとしていなかった。わたし自身でさえ。
河原に横たわる死体の裏返し、表を向ける。
やっぱり。
砂に汚れた死に顔は、紛うことなくわたしの顔だった。
死体を元に戻すと、わたしは車に戻ってそのまま職場に向かう。
バックミラーに映るわたしの顔が微笑む。
今度こそ、ちゃんとゴルフを覚えよう。
今度こそ、わたしが本当になりたかったはずのわたしになろう。

 

 
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ジャンル:
小説
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4 コメント

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怖い! (りんさん)
2012-11-22 19:23:40
ゴルフバッグの死体が夫で、河原の死体が妻?
結局ふたりとも死んでるんですよね。
すごくシュールな展開で、ドキドキしました。
いい夫婦の日にピッタリな…お話じゃなかったですね(笑)
りんさんへ (矢菱虎犇)
2012-11-23 01:19:23
これを書いたのは確かお盆ごろ・・・
なんかお互いに脱皮していくお話だったような気がします(爆!)
いい夫婦の日かあ。まあわが家は365日いい夫婦の日だもんなあ。←また言ってる。
殺してもいい夫婦の日 (ヴァッキーノ)
2012-11-24 12:09:25
自分の死体を自分で見た瞬間
自分の行き場所を失うことはあっても、
自分をもう一度取り戻そうとポジティブになる
ってことは、あんまりありませんよね。
そういう意味で、この作品は、意表を突かれました。
展開がいいですよね。
画像とまったく無関係で(笑)
また、「マルホランド・ドライブ」が見たくなりました。
ヴァッキーノさんへ (矢菱虎犇)
2012-11-25 04:21:43
ボクはゴルフをやりかけた時期があるんですけど、練習中にギックリ腰をやってしまって断念しました。
あのまま続けていたらちょっとちがう自分になれたかも・・・そんなわけで、なぜかゴルフと脱皮が自分の中で結びついてしまうような。
ちなみに、画像はずっとゴルフボールの絵を準備してほったらかしてたんですけど、なんかこっちのほうがギャップがあって面白いかなって・・・

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