時間よ、止~まれ

2013年04月09日 | ショートショート



田舎道を軽トラで走ってK町に着いた。買い出しはいつもK町で済ませている。

道路を行き来しているはずの車が走行車線で止まっている。様子が変だ。
車の間をぬいながら止まった車の中を覗くと、どの車にも人が乗ったまま動かない。
何やってんだ、こいつら。
いつもの店の駐車場に車を止め、店内へ。
店の前に数人が歩いている。
いや、歩く姿勢のままで停止している!まるで一時停止ボタンを押したみたいに。
店内も同じ。
店内はしんと静まり返り、カートを押す客もレジ打ちの娘も、みんな動作の途中で静止している。
時間が停止した世界に、ボクひとり取り残されてしまったんだ!
ど、どうしよう・・・。
店内を見渡しているうちに、今なら好き放題持って行けるなあ、なんて魔がさしてしまった。
どうする?バレるなんてことあるだろうか?
数分間の葛藤ののち、ボクが商品棚の品に手をかけた瞬間。
店員の腕が、ほんのかすかにピクリ。
・・・
動いたよな?今。
店員をじっと観察した。すると、店員の後ろの客がまばたきをひとつ。
ボクは鳥肌が立った。
こいつらみんな、時間停止したフリをしている!
特殊効果で処理できなかった頃のSF映画の、時間停止場面と同じだ。時間停止の演技。
しかし、なんのために?
・・・まさしく今、映画の撮影の現場に入り込んでしまったのか?
いやいや、それならとっくにカット!の声がかかっているはず。
・・・これはもしかして町あげての、『だるまさんがこ~ろんだ』なのでは?
いや、それならボクはとっくにオニにつかまっている。
・・・そのうち、みんなが一斉にハッピバースデイのハミングをはじめて、ボクの誕生日を祝福・・・。
いや、今日はボクの誕生日じゃないし。
商品に手をかけた姿勢のまま、ボクは考え続けた。
すると、ふと別のアイディアがよぎった。
『ボクもまた、この姿勢のまま、みんなと同じように止まってしまうのはどうだろう?』
そしてボクはホントに、そのまま動くことをやめた。
しばらくすると、血相を変えた女が店に飛び込んできた。ボク以上にマヌケな感じで。
一瞬、彼女に声をかけようかとも思った。
だが、他の誰も彼女に声をかけずに止まっているのには理由がありそうだ。
時間が止まってない連中のほうが増えて優勢になった頃に合流するのが得策だろう。
そう思って声をかけるのはやめた。なんだ、この安心感は。
そしてそのとき、なんとなく理由がわかってきた。



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ジャンル:
小説
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