
中学校から家に帰る途中、いつものように丹平は惚田博士の研究所に立ち寄った。
そして、いつものように冷蔵庫を勝手に開けて爽健美茶をゴクゴクゴク・・・
すると研究室から惚田博士の声がした。
「完成じゃ!完成じゃよ〜!!」
研究室では博士が小躍りして喜んでいる。
「完成ですか?ついに?」
博士がうなずく。禿げあがった巨頭、浮き上がった血管に無精髭・・・まるで『妖怪ぬらりひょん』だ。そばに寄ると、生乾きの洗濯物に納豆をかけたような刺激臭がする。55歳結婚歴なし・・・生涯を惚れ薬の開発に捧げてきた理由もわかる気がした。
「間違いない。これこそホレールじゃ。名付けて『ホレール3』!!」
博士がそう呼ぶのには悲しい過去があった。
惚田博士は若くして『ホレール1』を開発した。『ホレール1』は確かに惚れ薬だった。だが、それを服用した男は、自分の顔を鏡に映し、うっとり見つめ続けた。『ホレール1』は自分に惚れる薬だったのだ。
不屈の惚田博士はその数年後に『ホレール2』を開発した。今度は成功だった。この薬を飲んだ男はモテモテになることが実証された。しかし、完成したその日に強盗に盗まれてしまった。しかも強盗はすぐに逮捕され刑務所に送られた。強盗は刑務所から出てくることはなかった。囚人仲間の男たちから愛され、刑務官から愛され、刑務所長から愛され、刑期は伸ばされ男たちから愛され続けた。
無差別に愛されることの弊害を鑑みて、惚田博士はついに『ホレール3』を発明したのである。「自分に惚れる薬」でもなく、「惚れられる薬」でもなく、「惚れる薬」を開発したのである。
「ホレール3は、惚れてしまう薬じゃ。アバタもエクボ、相手の欠点もすべてを受け入れて愛することができる薬じゃ。どうじゃ、丹平君、ホレール3を意中の彼女に飲ませてみては?実験台になってくれんかの?」
「で、でも薬を飲んだ彼女が別の男でなくボクに惚れる保証はあるんですか?」
「ふふん、薬を飲んで最初に会った相手が意中の異性になる薬だと言えば?」
博士がニヤリと笑った。
「は、博士!ぜひボクに試させてください!」
翌日・・・
あこがれの淳子を近所の喫茶店に呼び出した丹平は、コーヒーを飲ませた。もちろん、ホレール3を入れて・・・。
5分・・・10分・・・なかなか効果が現れない。
「丹平ちゃん、あとでおじいちゃんの研究室で会お!」
・・・淳子はいったん家に帰ってしまった。まあ、いい。その頃には薬が効いているだろう。
丹平が研究室に行くと、案の定、頬を紅潮させた淳子が待っていた。
「丹平ちゃん、私のこと・・・どう思ってる?」
潤んだ瞳で見つめる淳子・・・丹平の胸に熱い思いがこみあげる。
「淳子ちゃん!大好きだよ!」
淳子のやわらかい体を抱きしめる。首筋にそっと唇を這わせる。
「あ・・・丹平ちゃん・・・」
清楚で甘い女の子の香りに酔ってしまいそうだ・・・
「丹平君、どう、薬の効果は?」
え?・・・
「薬を飲んで初めて会った相手に惚れちゃうじゃろ?」
ええ?・・・
「わしじゃよ〜わし!爽健美茶にホレール3を入れて丹平君を実験台にした博士じゃよ〜」
淳子の肩を押して顔を見る・・・淳子ちゃんじゃない!・・・ぬらりひょん・・・
「そろそろ薬が切れてきたようじゃな〜」
甘い香りは、生乾きの洗濯物に納豆をかけたような異臭へと変わっていく・・・
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矢菱さんのいつもの博士とその助手ネタにしては、博士をクローズアップしているなあって(笑)
>弊害を鑑みて
このへんの公務員的な表現がゾクゾクしちゃいました。
カフカは、半官半民の職業に就いていて、
そのおかげで、文章が官僚的な硬さがあって、
それがより不条理さを増す結果になったと思うんですけど、
矢菱さんは、その時々でいろいろな表現ができるので、読んでいてかっぱえびせんです。
矢菱さんが長編を書いたら、どんなものが出来上がるのか、読んでみたいなあって、最近思っているんです。
博士の描写・・・やっぱり伏線としては、風貌と体臭は押さえておきたいところで・・・
昔、大好きだったタイムボカンのオマージュを入れて惚れ薬ネタをやってみました。明日は、続編ですよ〜
ヴァッキーノさん、秘宝館のお話の中でどれがよかったですか?豊永さんからメールで「矢菱さんのおすすめはどれですか?」って尋ねられたんです。・・・それで、ブログ右端の「もくじ」なんてのをシルバーウィークを利用して作ってみたんですけど・・・いや〜気持ちいいくらいに、バカいわでは放送できなさそうなエロネタばっかりで・・・
今まで読んでいただいた中で印象に残っているのがあったら教えてください。(自分なりに選んだのは黒太字にしていま〜す)
ひとつでもふたつでも・・・題がわからなくてもいいですんで・・・
よろしくお願いしま〜す!
後の甘い香りからの急激な方向転換・・・・・・
小説を読むにあたって僕は絶対にどんな内容でも、
頭の中で文章から映像を作り出すんですが、
その甘い香りと加齢臭をも勝る臭いのギャップで
物凄く鮮明でした。
矢菱さんは読ませますねー
僕は今回、美少女が不細工中年親爺にモーフィングするのを視覚的に細かく描くんじゃなくて、臭いに特化してみたんです。
映像的なところは、妖怪ぬらりひょんと淳子ちゃんのイラストでイメージ的に補完して・・・
そういうところに気づく中学生・・・
hiro1468さん、末恐ろしいですぞ!
あ、ヴァッキーノさんへのコメントに書いていますが、もしよかったらコメントの中で過去作でラジオ向きで、覚えているのあったら教えてください。
お願いしま〜す。
ラジオでやるなら、映像化不可能な作品がいいですよね。
で、声に出して読んで気持ちいいってのも
ラジオ向きかもしれません。
そういう意味で
「ことわざハードボイルド」
は、ラジオ的で、いい作品だとボクは思います。
まだまだあるんです。
でも、ボクが選ぶのは、効率を考えて
あくまでラジオ向きなものにしようかと思います。
放送できないけど、個人的にすごく好きなものもあるんです。
ヴァッキーノが選ぶ矢菱ベスト10とかをやると、ボクの偏った嗜好が露呈されそうで、面白いですね(笑)
「ことわざハードボイルド」早速太字にしておきます。
自分の書き散らした文章に丁寧にコメントいただいた上に、それを覚えていただいて、選んでまでいただいて・・・
ブログ始めてエガッタ、
エガッタですうううっ
矢菱虎犇は幸せ者であります(号泣)