例によって老媼が川で洗濯をしていると流れ来るものがあった。
川辺に引き寄せ引き揚げると、大きな箱である。
例によって媼嫗、箱を持ち帰り、翁が柴刈から戻るのを待った。
さて、翁が戻ると箱を俎板に乗せて思案した。
仮に箱の中から、桃太郎のごとく箱太郎が出てきたとしよう。
なんらかの超自然的な成長を遂げて、なんらかの家来とともに、なんらかの敵を討って、めでたしめでたしという結末を迎えるのではないか。
仮に箱の中から、かぐや姫のごとく箱入り娘が出てきたとしよう。
なんらかの超自然的な成長を遂げ、なんらかの求婚をことわり、なんらかの出生地に帰って、悲しい結末を迎えるのではないか。
いやいや、箱と言えば玉手箱、これがなんらかの玉手箱だとすれば、もともとの翁と媼嫗が白煙を浴びると、どうなってしまうのか。
箱と言えばツヅラ、なんらかのお宿の土産だとすれば、小判の詰まった小さなほうだろうか魑魅魍魎の詰まった大きなほうだろうか。
さらに万が一、大判小判が入っていたとするなら、これを模倣してなんらかの意地悪翁媼嫗がなんらかの懲らしめを受けるのではないか。
もしや中に猫がいるのでは。その猫は生きているのか、死んでいるのか、それとも重なり合った状態なのか。
翁と媼嫗は考える。
箱があるから、期待してしまうのだ。希望を抱いてしまうのだ。
箱があるから、心配してしまうのだ。不安を抱いてしまうのだ。
箱には未来がある。希望と不安、善と悪、表裏一体の未来である。
はたして未来は必要なのか。
翁は日々、柴を刈り柴を売り生業としてきた。
媼嫗は日々、川で洗濯をし生活を賄ってきた。
明日も、またその明日も、昨日までと同じ一日を繰り返せばこと足りるのではないか。
箱を開けて昔話を成立させるか。
箱を開けずに日常をとり戻すか。
とりあえず箱をそのままに置いて、明日に結論を先送りすることに決めた。
決めた瞬間、昨日までとは違う新しい日常が生まれてしまった。
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ある時とない時では、天国と地獄の差ですからねー(笑)
これはぜひ開けて見るべきですね。
こういう作品を落語調で読めると良いのですが、
スッゴク難しそうですね。(^^ゞ
知りませんでした。
そう言えば豚まん・・・
最後に食ったのは何年前だろう・・・
いや~開けてみたくなりました。
昔々あるところに・・・なんて決まり文句もなければ、
おじいさんおばあさんの会話も一切ない文体で書いてみました。
たぶん人生で一度も宝くじを買わないであろうボクは、箱を開けない派だと自負しています。
「ミッション8ミニッツ」を観ました。
観終わったのは、もう夜中近くで、
それでも、小1時間、この映画について
あーだこーだと話し合いました。
それから、この作品を読んだから、
少し得した気分っす。
実にイギリス的なシリアス難解SF映画でゾクゾクしましたねぇ。
記憶が曖昧なんですけど、あの映画の8分間の前提って死ぬ人間の意識を8分間遡ることができるっていうことだったですよね。もし助かってしまうとしたら死なない人間の意識の8分前にどうして入り込めたのかって・・・あそこは矛盾してたような気もしなくないなぁ。
レンタルでもう一度見直してみようかな。
そういう時間が、人間にとっていちばん楽しいのかもしれません。
そっかぁ、さっさと開けられる人と、考え込んで開けられない人とがいるんですねぇ。
ボクは開けられないタイプのヤツです(泣)
何やら哲学的なお話ですね。
普通は箱を開けて物語が始まるのですが、箱を開けないことで新たなる物語が始まるのですね。
私はこんな想像をしました。
箱が開かれないので、猫はそのうち死んでしまった。重ね合わせは、時間と共に収束するのだ。
やがて箱には埃が積もり、部屋の隅に置かれたまま気にも留められなくなった。
老媼は時々ふと思うのだ。あの時箱を開けていれば、どんな世界が待っていたのだろうかと。
箱の中には所々ページのくっ付いた本が何冊か入っていた。それは、処分に困った翁が、箱に詰めて川にそっと流したものだった。
老媼には思いもよらないことであった。
時の流れの彼方から、若い日の恥ずかしい本の数々が流れてきたらイヤですねぇ。
いや~面目ない、とか言って頭を搔くしかないっす。
いや~面目ない。