『21世紀への伝説史 王貞治』プロデューサーが語る製作秘話

『21世紀への伝説史 王貞治(DVD2枚組&愛蔵本)』のプロデューサーが語る、王貞治の知られざる素顔とその魅力。

証言 藤田元司氏が語る王貞治の真実(3)

2006-05-07 22:25:51 | 製作秘話
王貞治氏の監督時代だけを振り返るならば、長く不遇の時代が続きました。巨人軍監督時代は、日本一V逸の責任をフロントから問われ退団、そして、ダイエー移ってからも就任後4年間はBクラスで、ファンからは心無い仕打ちを受けつづけました。スター街道を進んできた王貞治氏にとっては今まで味わった事のないほどの耐え難き屈辱を受け続けた時代が、約20年も続いたことになります。

藤田さんは、その20年を振りかえって「王くんも、よくここまで耐えたなぁと思う」と、しみじみと語ってくれました。

 話題は、1996年の俗にいう「生卵事件」に及びました。「生卵事件」とは、ダイエーホークスが1996年5月9日の近鉄戦で大敗した後、日生球場から出てくる王監督にホークスのファンが生卵を投げつけた事件のことです。
 作品の製作にあたって、この事件の映像をテレビ局から取り寄せ編集作業をしましたが、とにかくファンの行為は余りにもひどいものでした。スタンドには、「お前ら、プロか?」「王解任」「その采配が、王まちがい」などの横断幕が一面に掲げられて、試合後は、グランドに火炎瓶が投げ入れられました。映像本編には、そういったシーンの一部を挿入していますが、余りにもひどい映像のいくつかはカットせざるを得ませんでした。特に、王監督が卵をぶつけられたシーンは、日本人として恥ずかしいので私の判断でカットしました。

 そして、こういった時の心境を藤田氏はこう語ります。
「味方のファンからやじられたり、罵声を浴びたりすると、監督は、その場ですぐにユニフォームを脱ぎたくなるものです。ましてや、卵をぶつけるなんていう非道な行為をされたら、こんな悲しいことはありません。」「ただ、ただ、王くん、耐えてくれよ、という想い」と、その一方で、「本当にこのまま監督を辞めてしまうのではないかという気持ちで、気が気ではなかった」そうです。

「生卵事件」翌日のインタビューで、王監督が、「俺は辞めない。勝てばファンも拍手で迎えてくれる」と発言しているのを聞いて藤田監督も、「我慢することも人生の修行のうちだから、これを糧にがんばれよ、王くんならきっと耐えられる」 と王監督にエールを送っていたそうです。

 そしてまた、藤田さんは、王監督が子どもたちのために推進していた世界野球財団(WCBF)についても、「王監督が忙しい間だけ」という条件で、その活動を引き継ぎ、王監督の活動をずっと支え続けてこられました。

 冒頭、野球関係者約60名の取材を通じて、最も印象に残った一人が藤田元司さんだったと記述しました。それは、藤田さんほど王監督のことを暖かく見守っていた方はいないと思うからのです。“いつも自分を捨てて周囲のために尽くす。そして、苦しいときほど力を発揮する”そんな精神で歩んできた藤田さんの野球人生が、わずかな3時間ほどのインタビューでしたが、十分に感じることができました。

藤田元司さん、ありがとうございました。安らかにお休みください。



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1 コメント

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思わず (a-yk)
2006-05-09 00:42:02
今回で藤田さんの回は終了ですね。

「生卵事件」のつらさを思い出したのもありますが、藤田さんが亡くなられていることもあって記事を読んで涙ぐんでしまいました。

あらためてご冥福をお祈りいたします。

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