Tomotubby’s Travel Blog

Tomotubby と Pet の奇妙な旅 Blog。
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「アンダルシアの犬」のダブルイメージ

2006-12-28 | 映画・ロケ地訪問
ダリは、ひとつの絵の中に二つ(二つ以上の場合もある)のものが見える、所謂「ダブルイメージ」を描くことが多く、「アンダルシアの犬」の中にも多用されています。冒頭のシーンでは、月を横切る雲が、眼球を切り裂く剃刀とダブります(もっともこの部分はブニュエルのアイデアのようですが)。切り裂かれて水晶体が流れ出る眼球は家畜のもののようです。このシーンの印象はあまりに強烈で、一度見ると生涯忘れられないのではないか。と思います。



今回、感心したのは次のシーン。ダブルイメージが連なる贅沢なこのシーン。
男性が自分の右手の中を覗いています。
女性が気になって覗き込むと掌には蟻が「蝟集」しています。




蟻の「蝟集」した掌が、横たわる女性の腋に「蝟集」した体毛にダブりながら変わり、さらに毛は、棘の「蝟集」したウニにダブりながら変わっていきます。この「蝟集」という言葉は、確か大江健三郎の小説に出ていたので憶えた言葉ですが、まさにこのシーンのためにあるような気がします。

ウニの画像は、穴から下界を俯瞰したような映像に変わります。下界では短髪の女性が男性の切断された右手首を棒で突いています。手首の主は彼女の恋人だったのでしょうか? デヴィッド・リンチの映画にも出てきそうなシーンです。この女性は、警官が手首を入れた箱を首にぶら下げたまま道路に突っ立っているところを、車に撥ねられてしまいます。

窓の外の惨劇を見ていて昂奮した男性が、服の上から女性の胸を触ります。この白目剥いて涎垂らしながらの恍惚とした男性の表情、題名が思い出せないのですがイタリア映画に出てきた盲人の表情ともよく似ています(後で思い出しました。パゾリーニの「アポロンの地獄」でした)。


ダリにとって皮膜を隔てた向こうにある柔らかいものとは、官能の根源なのかもしれません。乳房と臀のダブルイメージ。乳房であっても臀であっても。空気頭であっても。

このあと、この映画の紹介によく使われるシーンが登場。掌に蟻が這っていた男性がメロン、僧侶、ロバの死体の載せられたピアノを引きずりながら女性に迫るのですが拒絶されてしまいます。ダブルイメージというより、デペイズマンの手法です。これらは、成就しない恋愛、というか性愛を表わしているような気がしました。その後、二人の男性同士の諍いと惨劇があって、再び蟻の男性が女性と対峙する謎だらけのシーンがあります。


壁にとまった蛾の背中には、髑髏に見える紋様が見えます。これは「羊たちの沈黙」の原点なのかもしれません。そういえばダリは男女の裸体を組み合わせて髑髏に見えるようにした写真も撮っています。

後の「サイコ」、アンソニー・パーキンス演じるノーマン・ベイツのように手で口を押さえた男性が、その手をのけると、なんと口がなくなってしまっています。これは意味なく怖いです。ルネ・マグリットの絵にそういうのがあったかもしれません。

驚いた女性は対抗手段?で自分の唇に口紅を塗りたくります。そうすると、あら不思議。男性の口の部分に黒い毛が生えだします。(白黒なのでよく判らないんですが、これは口紅なのかもしれないです)

女性は自分の腋の毛を確かめて、非常に悔しがります。(毛が剃られているようにも残っているようにも見えます。冒頭の剃刀を暗示しているのかも) 彼女は、あっかんベーを何度も繰り返して、ドアを閉めてしまいます。エロティックな意味があるのかもしれません。ドアの向こうは海岸。彼女は好青年と仲良くなり、二人で海岸を散歩します。ゴミが打ち揚げられた海岸。

恋人たちの成れの果て。海岸で土に埋もれて野ざらしになった屍体。ミレーの晩鐘にも似ています。
前にも思ったんですが、題名が「アンダルシアの犬」なのに犬はどこにも出てきません。


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3 コメント

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今日見ました (ふる)
2006-12-28 20:33:51
ともたびさんの記事事前に読んでいなかったら、たぶん見逃していたと思います。感謝。

>再び蟻の男性が女性と対峙する謎だらけのシーンがあります。

まさに謎だらけでした。
何を言おうとしているのか、考えることをやめさせようとしているのか、
それとも何かがあるのか?
なんてことを思いましたが。
理解できたかというと、できてないと思います(苦笑)
貴重な映画 (tomotubby)
2006-12-28 20:48:37
ブニュエルの映画は好きでいろいろ観ましたが、この映画は毛色が違うのはダリの関わった部分が大きいからなんだろうと思います。
ダリの分だけ「やらしい」内容になったのだと思います。
なんだか他人の見ている夢を、傍から覗き見しているような気分です。
が、そこがまたいいのかも。
貴重な映画です。
こんばんは! (猫姫少佐現品限り)
2007-01-23 21:28:31
コメ、ありがとうございました!
そうでしたか、、、ネットは狭いですね。いぁ、失礼しました。
はっきり言って、Tomotubby さまだけです、ここまでレビューされているの。あたしも、他の皆様同様、完全お手上げです、、、
いぁでも、見た!ということが重要だったんですよね。ほんと、久々でした。しかし瞳にカミソリは、永遠に、鮮明に、記憶に残っています。
展覧会自体は、大きいのが無くて、残念でした。
立体視、あたしは見ましたyo!これには感動しました。
よかったら、TBくださ~い!偏執狂的収集家なんで、、、あはは、、
またよろしくお願いしますね。

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