明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1072)福島原発事故と人々の健康と気づき(トルコ講演用原稿2)

2015年04月12日 08時30分00秒 | 明日に向けて(1001~1100)

守田です。(20150412 08:30トルコ時間)

今日からはじまるシノップ、サムソン、イスタンブールでの講演用原稿の後半をお届けします!

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福島原発事故と人々の健康、気づき

守田敏也

4、ウクライナ政府報告書とウクライナ危機の持つ意味

この点で非常に大きな位置を持った報告書が提出されました。「ウクライナ政府報告書」です。(Twenty-five Years after Chernobyl Accident: Safety for the Future Ministry of Ukraine of Emergencies )

チェルノブイリ原発事故の被災者約250万人を追跡したデータです。重要なのは被曝によると考えられる病が多様に列挙されていることです。また原発周辺の高汚染地域からの避難民のうち、慢性疾患を持った人の割合が、1988年には31.5%だったものが2008年には78.5%に増えていることも指摘されています。なんと8割が慢性疾患です。

NHKがウクライナ政府報告書と、国際機関の一つ、国連科学委員会の見解が大きく異なっていることを示しています。ウクライナでは放射線による害とされている「心筋梗塞」「狭心症」「脳血管障害」「気管支炎」などを国際機関は認めていないのです。

汚染地で生まれた第2世代の影響も甚大です。慢性疾患を持つものの割合が1992年21.1%から2008年78.2%に激増しています。子どもの8割が病気です。このためウクライナでは子どもたちの学校の授業を短縮しています。学年試験の多くも廃止しています。

この報告書の画期的な位置性は、核政策の推進派であるICRPなどの国際機関への徹底批判になっていることです。これを認めればすべての放射線防護体系が崩れます。

しかし今、ウクライナ社会は混迷し内戦状態です。これにはチェルノブイリ原発事故の後遺症が関係していると思われます。甚大な被害のため社会が疲弊し分裂したのです。

ウクライナは原発の危機も抱えています。昨年11月末にヨーロッパ最大のザポリージャ原発が緊急停止しました。配線のショートのためでしたが一週間で再稼働しました。きちんとした点検が行われたとは考えにくい。内戦状態で電力事情がひっ迫していたからです。

さらに恐ろしいのはウクライナの原発はロシア製のため、核燃料が入りにくくなったことに対しアメリカ製核燃料が売り込まれたことです。親欧米政権の2005年から2009年にウクライナ南原発にこれが使われましたが、燃料棒が深刻に破損しました。親ロシアの前政権はこの燃料の使用を禁止しましたが、昨年2014年2月に親欧米派がクーデタを起こすと禁止が解除されてしまいました。ロシアは大事故を起こす可能性を指摘しています。

そればかりかロシアはすぐさまクリミアを軍事占領し、欧米と軍事対立しましたが、この核兵器の使用準備も行っていました。ウクライナは核をめぐる大変な危機の最中です。

 

5、放射線被曝影響の過小評価の仕組み

なぜ放射線被曝は過小評価されてきたのでしょうか。放射線と人間の関係が調べられたのは原爆投下の後です。アメリカはなぜ二つ落としたのか。広島がウラン型、長崎がプルトニウム型だったからでした。人間を使った核実験だったのです。そしてその後にアメリカが排他的に被災者調査に入りました。目的は原爆の威力を知ることと、被害を軽く見せることでした。このため放射線の影響が過小評価されました。

その仕組みを少し述べます。被曝を考えるとき、放射性物質と放射線を分けなくてはいけません。ライトで言えばライト本体が放射性物質、光が放射線です。このため被曝の仕方は二つあります。ライトに外からあたる外部被曝が一つ。ライトに相当する放射性物質を飲み込んで身体の内側からあたる内部被曝です。この時大事なのはあたる放射線は主にα、β、γ線ですが、α、β線はあまり飛ばないことです。空気中では4㎝と1m。細胞内では1000分の4㎜と1cmです。このため外部被曝では主にγ線にあたります。内部被曝では全部に当たるため放射性物質を飲み込んで生じる内部被曝の方が打撃力が高いのです。

ところが内部被曝では身体のごく一部が被曝するので、現実には測りようがないのです。これをアメリカは外部被曝に換算して数えることにしてしまいました。換算などできないにもかかわらずです。そのため被曝がとても軽く扱われました。

例えば心臓で考えると、アメリカの主張では同じ力であたった放射線はどこに当たろうとも同じ害をもたらすことになります。ところが実際には同じ力でも当たり所によってぜんぜん意味が違ってくる。心臓なら洞結節といって心臓の鼓動の電気信号を出すところがあります。ここが傷ついたら大変なピンチなのです。他のところとぜんぜん危険度が違います。あるいは針でつつくことを被曝と考えてみましょう。同じ力でついたのは同じ力だと言うのがアメリカの立場です。しかし同じ力でもほっぺたをつつかれるのと目の玉をつつかれるのではまったく打撃が違います。この被曝の具体性を無視し、内部被曝の特有な危険性を隠してしまったのが、アメリカが作り、国際機関に受け継がれた体系です。

なぜアメリカは内部被曝の影響を隠したのか。一つには人間の臓器に破壊的影響をもたらし、さまざまな病気を起こすからです。もう一つは内部被曝は測りようがないので管理ができないからです。しかしそれでは核戦略が維持できないので、アメリカはこの点を隠し、核大国がこれを認めたのです。このためにさまざまな病が被曝のせいではないと強引に言われています。このあり方を覆さなければなりません。

 

6、国際連帯で核の時代を終わらせよう!

そのために必要なのは国際連帯です。すでに強められてきています。昨年10月にも国際会議に参加しました。ポーランドで行われたもので、今日、一緒にいるプナールさん、アンゲリカさん、アルパーさんも一緒でした。「チェルノブイリとフクシマの後の未来のために」と題したもので、ベラルーシやウクライナからもたくさんの人が招かれていました。

主催してくれたのはドイツの団体でした。ドイツはチェルノブイリ被災者にとても深い支援を続けています。その理由の一つに、かつてベラルーシやウクライナが、ナチスドイツが攻め込んだ戦場だということがあります。そのお詫びもかねてドイツは1000以上の市民グループが支援をしているそうです。とても感動しました。

会議の中ではアメリカのマイケル・シュナイダーさんが講演し、世界的に原発がどんどん減っていることが示されました。世界でも横ばい、ヨーロッパは減っている、そのため原発はどんどん老いていて、産業的に行き詰っています。さらに日本の原発がすべて止まったためにウランの国際価格が暴落して、原子力産業がますます後退しています。このために強引になされようとしているのが原発輸出です。

ドイツの主催団体の代表は「われわれの運動は成功しつつある運動だ」と述べました。ここにはチェルノブイリ事故のときに命がけで収集作業を行った「リクビダートル(回収人)」の方たちも多数招かれていました。僕も発言してトルコのみなさんと私たち日本人の連携でシノップ原発建設を止めようとしていることを紹介しました。発言を終えたときに真っ先にかけつけてくれたのはウクライナの男性でした。「トルコ人、日本人、頑張れ。応援している」と語ってくれました。旧ソ連の核実験で被害を受け続けたカザフスタン政府の方たちとも同じヒバクシャの国として固い握手を交わすことができました。 

核の問題は世界の問題です。私たちは今、核の事故をなくし、核のない未来を目指す共通の目的を持っています。この固い国際連帯の中でこそ、地球上から核を無くせます。そのために必要なのは私たちの団結です。団結して私たちが力を得ることです。そのために僕もこれからも何度でもトルコに来て、わが故郷、シノップを守ります。

最後にこの言葉をみなさんに送ります。Power to the people!


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