萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

第9章 Aither 天上の光 act.5-Aesculapius 杜嶺の医神

2017-01-25 22:15:14 | Aesculapius 杜嶺の医神
I here the Echoes through the mountains throng, 山嶺の聲
雅樹28歳・光一13歳9月



第9章 Aither 天上の光 act.5-Aesculapius 杜嶺の医神

霧たち昇る、雲になる。

「見て雅樹さんっ、銀の森が金の火を噴くよ?」

少年の声に森きらめく、銀の森が黄金あらわす。
黄葉まばゆく朝に燃える、銀の雫を燃やして霧を噴く、白紗ゆるやかに山馳せる。
白く青く昇らす尾根から八雲立つ、雲上はるか誇らかな青、あの白と青に明日は立っている。

「ほんと雲の谷だね雅樹さん、霜ぐんぐん溶けてるってコトだね?」

声ほがらかに透きとおる、笑顔まばゆく朝陽あおぐ。
青いウェア姿あざやかに金色はじいて、底抜けに明るい瞳が愛しい。
この眼にこんな瞬間たくさん見せられたなら?祈る願いに笑いかけた。

「そうだよ、光一は言葉がきれいだね?」
「ん?ドレが今そうだったね?」

澄んだ瞳が見あげてくれる、その真んなか光燈す。
朝陽のかけら映すような?そんな瞳に微笑んだ。

「金の火を噴くって言ったろ、霧が太陽に光るとき本当そうだなって思って、」

本当そうだと、いつもそう想う。

核心まっすぐ言葉に変える、こんなところ父親譲りだろう。
あの視線の言葉いつもそうだった、つい懐かしい形見に少年が笑った。

「想ったまんま言ってみたね、ねっ、ほんと黄葉イイみたいだねっ?」

登山靴また歩きだす、軽やかな足どり愉快に弾む。
いま楽しくて仕方ない、そんな山っ子についてゆく。

「そうだね、すこし足場ぬかるむから気をつけて?」
「うんっ、あ!」

うなずいて澄んだ瞳ぱっと明るむ。
何か見つけた、そんな横顔に訊かれた。

「雅樹さん、あの赤い屋根がヒュッテかね?」

尾根ゆく道、雲ゆるやかに山肌ほのめかす。
流れる白紗のはざま、あらわれた赤に微笑んだ。

「そうだよ、あと一息だけど慎重にね?」
「はーい、」

元気いっぱい頷いて、少年の脚かろやかに登る。
初めてのルートも息乱れない、その笑顔まばゆい雪白に黄金きらめく。
岳樺あざやかな光に息が白い、唇かすめる冷たさ鼓動から時間を呼び覚ます。

ほら、雲も晴れる。

「雅樹さんっ、あれが北鎌だねっ?」

澄んだテノールが呼ぶ、登山グローブ青い指まっすぐ示す。
指先に連れらえて視線、あおいだブルーに息が止まる。

「…」

仰ぐ稜線ひきよせる、あの時もそうだった。
あれから五年が過ぎて、あれから自分も時間も変わった。
さまざま変わってしまった五年間、その一瞬を踏みしめる。

『まさきっ、この馬鹿野郎っ!』

聲よみがえる、なつかしい声が叫ぶ。
叫びに稜線が白銀そまる、流れる雲に風雪きらめく。
黄金と雲そびえる岩峰はるか、五年の再会そっと笑った。

「うん、…北鎌尾根だよ、光一、」

帰ってきた、この場所に。


(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】


第9章 天上の光act.4
[岳樺:ダケカンバ]


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