萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

第9章 Aither 天上の光 act.10-Aesculapius 杜嶺の医神

2017-02-22 23:30:30 | Aesculapius 杜嶺の医神
In the primal sympathy 理性を響き、  
雅樹28歳・光一13歳9月



第9章 Aither 天上の光 act.10-Aesculapius 杜嶺の医神

午前三時、山は目覚めだす。

「ほい吉村くん、湯を詰めといたよ、」

ランプの下、大きな手がテルモス2つ渡してくれる。
受けとって、厚意と深い瞳に笑いかけた。

「ありがとうございます、お世話になりました、」
「うん、帰りも声かけてくれな?」

大らかな声すこし低めて笑う。
その言葉に微笑んだ背中、澄んだ声が呼んだ。

「雅樹さん、ちっといいかね?」

低めても小屋の外から透る、そのトーンに微笑んだ。

「ご主人、光一は大丈夫みたいです、」
「お?」

どういう意味かな?
そう問いかける眼に口開いた。

「さっき僕らしい判断って仰いましたよね?あのことです、」

笑いかけ戸口へ歩きだす。
小屋主も共に来て、踏みだした夜に少年が言った。

「雅樹さん、北鎌は延期で東鎌尾根ピストンにしないかね?ズイブン冷えこんじまって山が凍ってるもん、今の俺じゃ難しいでしょ?」

ほら、ちゃんと判断できる。

―よかった、ちゃんとレベル判断ができてる、

あの山っ子なら気づく、そうして自律できる。
そんな信頼に夜空の横顔まぶしい、ただ嬉しくて笑いかけた。

「そうだね、適確な判断だと思うよ?」

今の君に必要なこと、その一段ごと丁寧にむきあいたい。
願い笑いかけた隣、大らかな声が笑った。

「光一くんは観天望気ちゃんとできるのか、その齢で大したもんだ、」

低い声はるか星が響く。
まだ満天きらめく夜、稜線の雲に少年が笑った。

「山育ちだからね?それに師匠が雅樹さんだもん、」
「そうだなあ、吉村くんの一番弟子だもんな?」

星灯り深い瞳が笑いかける。
その大きな手ぽん、少年の肩ひとつ敲いて言った。

「ピストンでルートしっかり憶えてこい、帰りは氷河公園や穂高も見えていいぞ?北鎌尾根もだ、」

北鎌尾根、その名に厳つい口もと微笑む。
深い瞳まっすぐ少年を見て、穏やかに笑った。

「北鎌のルートもよく見えるぞ、ちゃんと記憶するといい。君の親父さんも何度も歩いたんだ、」

何度も歩いた、本当にあの人はそうだ?
見つめる俤の道に小屋主は言った。

「アキさんは本当に何度も歩いてたよ、でも記録や意地じゃない。ただ山を愛してたんだ、その結果がファイナリストだったというだけだ、」

焦るな、
そう告げる声は低いくせ徹って響く。
このトーンどこか似ていて、想うまんなか少年が笑った。

「オジサンはオヤジのこと、よく見てくれてたんだね?ありがと、」

星の夜、雪白の笑顔が頭下げる。
青いヘルメットきらり光って、その肩しなやかに勁い。
まだ13歳、瑞々しい逞しさに山ヤは笑ってくれた。

「こちらこそだ、俺が口だす必要もなかったかな?」
「ううん、ありがとねオジサン、」

笑って瞳が底抜けに明るい。
かろやかな笑顔に瞳ほそめて、小屋主は言った。

「帰りも顔出してくれな、待ってるよ?」

帰りも、その一言が温かい。
なにげない言葉、その込められた祈りに笑いかけた。

「また光一と寄らせてもらいますね、いってきます、」

歩きだして登山靴、さくり霜柱くだける。
くるみだす零度は霜、唇かすめる嶺風に秋が深い。
この道を再び歩きだす、その蘇る鼓動に笑いかけた。

「光一、慎重に行こう?」
「うんっ、よろしくね雅樹さん、」

ヘッドライトうなずいてくれる、かしいだ光に瞳が笑う。
この眼ざしと歩ける温もりに微笑んだ。

「夜明けはきれいだよ、寒いけどね?」

この道を再び歩く、その鼓動ふたたび蘇る。
あの日に抱いていた想い、面影、その隣で。

(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」」/Pierre de Ronsard「Les Amours de Cassandre」】


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