萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

弥生七日、二輪草―Tender Windflower

2017-03-07 13:59:10 | 創作短篇:日花物語
春風あさく、
3月7日の誕生花



弥生七日、二輪草―Tender Windflower

指先まだ冷たい、それでも花は咲く。

落葉つもる森の底、けれど緑あさく一叢しげる。
あそこへ行けば咲くだろうか?つないだ掌そっとひいた。

「ほら、あそこ、」

笑いかけて黒い瞳が見つめる。
すこし困ったような、そのくせ期待かくすような眼ざしが訊いた。

「でも…お習字のよりみちダメよって、言われたばかりだよ?」

だって少し遠いでしょう?
そんな視線うかがう瞳、でも隠せない光に笑った。

「おまえさ、そんなこと言ったって見たくて仕方ないんだろ?でなきゃソンナ話ナンカださないじゃん、」

そうでなければ、そんな話なんかしない。
15分前の会話に笑った隣、赤いマフラーを笑顔こぼれた。

「うんっ、でも怒られちゃうかもだよ?」
「いつものことだろ、母さんたちも慣れっこだし、」

笑顔つないだ手をひいて、ダッフルコート姿がついてくる。
夕暮まだ冷える三月の森、肌ふれあう掌が笑った。

「ね、なんべん一緒に怒られたかな?」
「うん?なんどだろうなあ、」

訊かれて数えかけて、ほら数えきれない。
それくらい一緒にいるポニーテールさらさら、木洩陽に光る。

「おまえ髪ずいぶん伸びたよなあ、七五三とっくに5年だぞ?」

髪長くする、その理由たしかそうだった。
あれから5年の艶たなびく耳もと、ふわり赤らんだ。

「…終わったけど、伸ばしたいんだもん、」
「ふうん?」

なんとなく相槌して、でもなんだろう?
つないだ掌そっと握って、肌ふれる温もり笑った。

「ホント時々、ワケわかんないよな?」

まだ時々、その時だんだん多くなる。
幼稚園の頃はこんなじゃなかった、そんな女の子が首かしげこむ。

「ん…わけわかんないって、私のこと?」
「だよ、」

短く笑って隣、黒い瞳が見つめてくる。
でも何を言えばいいのだろう?わからない足もと落葉が香る。

さく、さくりっさく、

積もる落葉にコンバース埋まる、かすかに甘い香ちいさくほろ苦い。
苦くて、そのくせ甘い馥郁みずみずしくふれる。
この香なんだったろう?

―あ、ふきのとうか?

どこか生えているのだろう?
視線つい探しだして、でも声にならない。

―なんでだろ、ふきのとうって言えば喜ぶのにさ?

蕗の薹、その春に隣はきっと喜ぶ。
それなのに今なんとなく言えない、ただ鼓動の底くすぐられる。
こんなこと「ワケわからない」な?そんな静寂ふる木洩陽ふたり、手をつないで歩く。

さくり落葉ふむ音、からりから梢の声、緑あわい葉ずれの香。
ときおり囀る小鳥、羽ばたきの気配、唇かすめる樹林の涼風。
まだ冷たい森の道、それでも見つけた春を隣が呼んだ。

「あ、ふきのとう、」

ほら、同じところ探していた。

「あははっ、」

ほら笑ってしまう、だって同じだ?
あんなに「ワケわからない」でも変わらないソプラノが呼ぶ。

「ね、ふきのとう嬉しいねっ、」

ほら無邪気だ、ワケわからないくせ変わらない。
昔のまんま澄んだ笑顔に笑いかけた。

「だな、今は他のモン探してるけどな?」
「あ、そうだったね?」

黒目くるり大きな瞳が笑う。
その華奢な肩は黒髪ゆるやかに長くて、それでも変わらない。
ただ馴染んだ空気ほっとゆるんで、その視線に純白ゆれた。

「お、あれそうじゃないか?」

つないだ掌ひいて足が早まる。
さくさく踏みわける落葉を緑のぞく、もう枯葉のもと春がいる。
だからあの白きっとそうだ?願い辿らせる森の底、一叢の緑にソプラノ咲いた。

「あった、にりんそう…」

澄んだ声に純白ゆれる。
まだ枯葉いろ緑あさい森、燈される花に笑った。

「よりみち、正解だったな?」
「うんっ…すごくかわいいね?」

大きな黒目ほころぶ、やわらかな頬ふわり明るむ。
午後おそい木洩陽ポニーテール梳いて、きらめく艶に春がふる。

―きれいだよなあ、

鼓動そっと想いふれる、素直な感想に途惑わされる。
こんなふう見たこと去年はない、それでも変わらない笑顔に笑った。

「春休みはモットよりみちしような?花もっと咲くしさ、」

こんな約束も去年と同じ、変わらない。
けれど黒目がちの瞳ゆっくり瞬いた。

「ん…春休みが終わったら?」

その先は、どうするの?

そんな声を瞳が訊く、大きな黒目が自分を映す。
こんな質問は今までないな?初めての貌に首かしげた。

「したけりゃするだろ、よりみちナンて気分だしさ?」
「その気分って、ずっとなるの?」

すぐ訊き返してくる瞳、ただ自分を映して問いかける。
風かすかに甘い森の底、掌つないだ温もりに笑った。

「なるんじゃね?春はまた来るし、」


二輪草:ニリンソウ、学名 Anemone flaccida、英名 Soft windflower、
花言葉「友情、協力、ずっと離れない、予断・予測」

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