萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

第9章 Aither 天上の光 act.20-Aesculapius 杜嶺の医神

2017-05-18 17:31:00 | Aesculapius 杜嶺の医神
Do take a sober colouring from an eye 謹厳なる視線、
雅樹28歳・光一13歳9月


第9章 Aither 天上の光 act.20-Aesculapius 杜嶺の医神

手術室、レントゲン画像ずらり貼られる。

「57歳男性、背後から発砲を受け右肩、ふりむきざま右膝。なんとか自力下山後に痛みが強まり歩行困難、全身状態は良好で循環障害は認められません、」

落ち着いた説明の声、若い未熟はない。
マスクのぞく眼も皺が淡い、その声に老医師が見つめる。

「肩は骨いっとらんな、脂肪組織内を貫通したか、」
「はい、膝関節部が問題です、」

答えて滅菌グローブの指先、ふれずに画像を指す。
おそらく50代だろう術衣姿に老医師がうなずく。

「大腿骨穎部は貫通か、脛骨外側の前面が弾丸だろう。膝関節内にナンやら飛び散っとるな、」

マスクごしでも肚響く声、診る鋭い瞳。
緻密な視線は鎮まっている、もう幾つも知る眼だ。

-戦争のとき何度も診たんだ、葛城先生は、

銃創、

医学用語では射創 GunShot Wound、鋭器損傷の一種。
着弾した瞬間に潰れた弾丸が高速で人体を通過、被弾1/1000秒間に空洞現象を生みだす独特な創傷。
空洞現象で起きる外気吸引でとりこまれた雑菌が繁殖、火薬やガスによる損傷、弾丸の成分による鉛中毒も起こす。
通過する弾丸は内臓を剪断し骨を砕く、その骨片が飛散して離れた臓器や神経や血管にもダメージを与えることもある。
また発砲の運動エネルギーが大きいため被弾部位の損傷レベルは大きく、こうした独自性は通常の外科手術と違う。

そして日本では銃刀法規制があるため症例は少ない、そのため医師も対処が解らず後手になる。
けれど目の前に立つ瞳は老練に笑う。

「さあて吉村、この射創は血管造影が要るか?」

煽ってくる、またいつもの癖だ?

『おまえさんは猟銃持ちの医者だ、ナンも出来んとは言わせんぞ?』

ついさっき、手術室の前で言われたばかり。
こんなふう精神力を駆らせる先達に答えた。

「擁骨動脈や足背動脈の拍動は良好です、血管造影は必要ないと判断します、」
「よし、これからの処置を言ってみろ、」

鋭いくせ鎮まる眼が問いかける。
今夏ずっと向き合った眼ざしへ応えた。

「右膝は異物の摘出後、関節内を洗浄します。他はデブリドマンと創縫合、後は抗生剤を投与して感染を予防します、」

自分なり学んでいる、でも経験がない。
未経験の不安の前、老練の眼はにやり笑った。

「よし、吉村が右膝を執刀しろ、」

(to be continued)

※校正中

【参考文献:中村聡ほか『多発性貫通銃創骨折の1例』仙台市立病院医誌】
【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】
第9章 天上の光act.19← 
※豊科日赤=豊科赤十字病院、現・安曇野赤十字病院(名称変更2006年)/医科歯科=東京医科歯科大学の略称

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