萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

第85話 春鎮 act.30 another,side story「陽はまた昇る」

2017-04-23 22:26:06 | 陽はまた昇るanother,side story
And often is his gold complexion dimm'd;
harushizume―周太24歳3月下旬


第85話 春鎮 act.30 another,side story「陽はまた昇る」

かたん、

引戸そっと押し開けて、アルコール甘く頬かすめる。
明るい談笑ふりむいて、その中心が自分を呼んだ。

「湯原くん、そうなの?」

可愛い声が呼んでくれる。
明るい、そのくせ途惑うような視線の前に腰下した。

「ん…どうしたの美代さん?」
「今ね?湯原くんのお母さんからお電話いただいたの、今夜は湯原くん帰らないの?」

尋ねてくれる瞳が大きい、いつもより。
瞠る黒目あざやかで、すこし潤んだ視線に隣が笑った。

「だからゴメンって小嶌さん?前から泊まりで吞む約束なんだってば、」

あれ、そんな約束してたっけ?

―僕そんなこと言ったかな、あ?

これは察して、話合わせてくれている?
そんな明敏がチタンフレームごし笑いかけた。

「俺らもさ、ずっと楽しみにしてた約束なんだ、なあ周太?」

そうだよ、って言えよ?

そう眼鏡の視線が笑ってくれる。
きっと察してくれた眼ざしに、途惑い吞みくだし肯いた。

「うん、」
「な?帰りコンビニ寄ってこ、」

闊達な眼ざし笑ってくれる。
そんな友達にグラスの先、大きな瞳ちょっと眇んだ。

「なんかいいなあ、男同士って、」

うらやましい、そして寂しい。
大きな瞳の感情まっすぐで、逸らせなくて口開いた。

「ごめんね美代さん、あの…ちゃんとしないと失礼だと思うんだ美代さんにもご家族にも、」

ひと息、言葉押しだして口渇く。

「…、」

グラス掴んで、ひとくち飲みくだす。
こくり喉かすかに軋んで、息ひとつ吐いて言った。

「ご、両親に進学の説得しないといけないよね?おとこととまったなんてじじつ無いほうが納得してくれやすいと思うんだ、」

娘の外泊、しかも家出同然の状況を両親はどう考えるだろう?

『美代ちゃんは結婚も適齢期のお嬢さんなの、本人も周りもいろいろ考えるのがあたりまえ、ね?』

5分前、母が指摘してくれたこと。
あの電話に気づかされた「相関」を言った。

「進学を納得してもらうには美代さんの行動を信頼してもらうことだよ、これでも僕は男だから線引きすることでご両親の信頼を得られると思う、」

行動が信頼を築く、信頼が納得させる。
その納得がなくては説得も難しい、そんな相関に拍手ひとつ響いた。

「やるなあ周太くん、あっははっ」

朗々、笑い声おおらかに響く。
低いクセよく透る声は鳶色の瞳にやり笑った。

「まあったくなあ、コンナ男は天然記念物モンだ?小嶌君は男の趣味バツグンだな、俺も娘が独身だったら嫁がせてるぞ?」

からん、グラス響いた氷に光はじく。
まぶしくて、それ以上に言葉が頬を照りかえる。

「あ、の田嶋先生からかわないでください僕そういうのなれてません…」
「からかってなんかいないぞ周太くん、なあ?」

視線おおらかに笑いかけてくる。
陽気はずむ眼ざしは愉しげに言った。

「マジメで奥手なクセに女心ふわっと掴むんだよなあ、まあったく馨さんソックリだぞ?周太くんモテるだろ、」

そっくりだ、

このひとに言われると嬉しい、だって信じられる。
きっと誰より父の素顔を見た瞳、その視線に面映ゆくて嬉しい。

でも、あああでもこれはちょっと気恥ずかしすぎる。

「だ、から田嶋先生そういうのぼくなれてませんこまります…」

ほら声すぼむ縮こまる、額まで熱い。
こんなに赤くなってアルコールよけい回りそう?

「だったら慣れてけよ?こんなカワイイ顔して元警官の東大生とかなあ、女子学生の憧れターゲットだぞ?華奢なくせイイカラダしてるしな、」

鳶色の瞳からり笑ってくれる、その言葉あああほんとう困るんだけど?

「い、からだとかいわないでくださいみたことないじゃないですか?」
「なあに服着てたって解るモンさ、女の子抱えてダッシュするもんなあ周太くん?」

日焼あざやかに涼しく笑う、ほら鳶色の眼すごく愉しげだ?
こんなふうに父とも会話したのだろうか?

―お父さんもこんなふう照れたの、かな?

そっくりだ、

そう笑ってくれる瞳に自分が映る。
この眼は父を映していた、きっと他の誰も知らない父の素顔。
そんなふう想えるのは今、こんなに揶揄われても恥ずかしくても、それでも温かい鳶色の瞳。

―もっと話してほしいお父さんのこと…でも、

でも、今ちょっと恥ずかしすぎるな?
もう真っ赤だろう自分の隣、闊達な声ぱっと挙手した。

「はいはーい田嶋先生ストップお願いします、小嶌さんが話あるそうです、」

ああたすかった、

―ありがとう賢弥…あとでお礼しなくちゃ、

心裡そっと安堵ため息、鳶色の瞳が笑ってくる。
また続き話そうな?そんな視線に困りながらも尋ねた。

「美代さん、話ってご両親の説得?」
「うん、そうなんだけどメールがさっきね?」

スマートフォンの画面、ちいさな手が差しだしてくれる。
示される電子文字たどって、きれいな大きな瞳が困惑した。

「これ…うちのお父さんどういうつもりかなあって、」

(to be continued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet 18」】

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