萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

第9章 Aither 天上の光 act.3-Aesculapius 杜嶺の医神

2017-01-04 23:45:31 | Aesculapius 杜嶺の医神
In the soothing thoughts that spring 憩う安穏
雅樹28歳・光一13歳9月



第9章 Aither 天上の光 act.3-Aesculapius 杜嶺の医神

残暑の夜、それでも食卓に温まる。

「は…、」

吐息ほっと味噌あまく香る。
くゆらす芳香やわらかに馴染む、この香この味なつかしい。

「雅樹さん、今夜の味噌汁はどうかね?」
「おいしいよ、いい茄子だけど光一が作ってるやつ?」

笑いかけた唇に出汁が香る、茄子が甘い。
こんな日常ただ嬉しい食卓、少年の瞳ぱっと笑った。

「うんっ、御岳から持ってきた鉢のだよ?ベランダで元気に実ったねっ、」
「よくこんな立派に育ったね、御岳と気候けっこう違うのに?すごいね光一、」

感心と笑いかけて少年の瞳きらめく。
まっすぐな無垢ほころんで、雪白の頬やわらかな薄紅が笑った。

「雅樹さんに美味いもん食べてほしくて丹精してるねっ、おかわりいかがかね?」

底抜けに明るい瞳が笑ってくれる、澄んで明るい綺麗な瞳。
雪白やわらかな頬も透けるよう明るくて、まぶしい幸せに微笑んだ。

「ありがとう光一、今夜もごきげんだね?」

この笑顔いつも癒されるな?
朗らかなテーブル、澄んだ瞳が笑ってくれた。

「うんっ、雅樹さんがいるからね、」

ああほんと、まっすぐツボ突いてくれる。

「そういうの…うれしいけど照れるよ?」

喉せりあげる温度がくすぐる、ほら首すじ熱い。
こんなこと毎度くりかえして、それでも幸福感に恥ずかしくなる。

それにほら、きっとまた言うんだろう?

「照れてるカオも別嬪だねっ、大好き雅樹さん、」

ほら、言われた。

―ああこんなの誰かに聞かれたらどうしよう、でも僕ほんと幸せで、

澄んだ声の言葉にノックされる、のぼせる熱まっすぐ頬そめる。
うかされる優しい熱ごと箸うごかして、頬ばった南瓜に焼かれた。

「熱っ、」

うっかりした、こんなことで。
迂闊に困りながら押さえた口元、華奢な手がコップさしのべた。

「氷水だよ雅樹さんっ、口のなか冷やしてよ?」
「う…ありがとこういち、」

微笑んで頬の粘膜ちりり痛い。
焼かれた痛覚に氷のんで、ほっと息ついた。

「もう大丈夫だよ、心配かけてごめんね?」
「俺こそ熱くしすぎてごめんね、ほんと大丈夫かね?」
「ほんと大丈夫だよ、ご飯食べよう?」

笑いかけて箸はこんで、醤油わずかに沁みる。
その痛み夕方の感覚と似ていて、その電話ふっと掠めた。

『あの読書感想文が学校代表になると、吉村先生のご迷惑になるでしょうか?』

熱い苦い、痛みどこか呑みこんだ電話。
あんなふう電話を架けられる現実の真中、底抜けに明るい瞳が笑った。

「ね、雅樹さん?明日からは熱いモンが美味いトコにいるねっ、」

明日から、自分たちはどこにいるのか?
もう近い未来ただ嬉しくて、けれど小さな不安もある。
それでもこの笑顔となら幸せだろう、想い素直に笑いかけた。

「そうだね…明日は味噌鍋しようね、光一?」
「うんっ、一緒にしようねっ、」

笑ってくれる瞳どこまでも明るい、この瞳、あの場所をどんなふう映すのだろう?

―…まさきさんっ、まさきさあんっ!

記憶の風雪、幼い声が呼ぶ。
吹雪にも響いた透る声、あの声で自分は今、生きている。

「でも雅樹さん、今日も忙しかったんでしょ?ホントに今夜出てダイジョウブかね?」

今も呼んでくれる、気遣ってくれる。
この声あのときのまま透って響いて、応え笑った。

「大丈夫だよ、深夜のほうが道路空いてて楽だし、昼休み少し寝られたからね?」


(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】

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