萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

第85話 暮春 act.23-side story「陽はまた昇る」

2017-06-13 00:13:00 | 陽はまた昇るside story
They see idolatrous lovers weep and mourn,
英二24歳3月下旬


第85話 暮春 act.23-side story「陽はまた昇る」

あの眼が似てる、誰かと。

背中の空気もだ、エプロン姿も涼しい長身。
色白おだやかな端正、栗色なめらかな髪たばねる凛々。
こんな貌の女は他に知らない、それでも「似ている」揺すられる。

「よろしかったら、どうぞ?」

ことん、

片隅のテーブル、ガラスのティーカップ香る。
あまやかな湯気くゆらす朝陽、花あふれる透明な空間。
磨かれたウィンドーの外はコート姿、その此岸で英二は微笑んだ。

「ありがとう、」

笑いかけて馥郁が甘い。
佳い紅茶を使っている、そんな香に尋ねた。

「心配なのは俺だって言いましたよね、どういう意味ですか?」

琥珀色やわらかな湯気、問いかけに香が甘い。
紅茶の香、花々の香、その中心で静かな瞳そっと笑った。

「紅茶、お嫌いですか?」

はぐらかされた、

「ものによります、」

答えながら花のテーブル、琥珀色ゆるやかな香あまい。
あまい香、美しい花々、穏やかな空間、でもそれだけじゃない眼ざし。

「これはお好みに合うかしら、冷めないうちにどうぞ?」

涼やかな瞳ほがらかに笑う、長い睫やわらかな微笑。
ティーカップのガラス映る指は白い、繊細で、そのくせ荒れている逞しさ。

―働き者の手とか言うんだよな、こういうの?

ゆるやかな香に彼女が微笑む、微笑んだ唇が紅茶すする。
その横顔は穏やかに静かで、カップの荒れた指先も美しい。
色白やさしい気品の面差、艶やかな栗色たばねる髪、その俤に笑いかけた。

「似ていますね、誰かと?」

はぐらかされる、それなら会話を変えればいい。
ただ思ったまま言った先、涼やかな瞳こちら見た。

「誰でしょう?あなたも似ているわ、」

また予想外だ?

「俺も、似ているんですか?」
「すこしだけ、ですけど。」

応えてくれる声、やわらかに澄んで深い。
あまい芳香くゆらす花の店、端正なエプロン姿そっと笑った。

「ほんとはね、似ているって思いたかっただけです。話すと似ていないもの?」

ことん、

置かれたガラスのカップ、光る底に琥珀ゆれる。
ひるがえる馥郁の眼ざしに問いかけた。

「あなたは似ています、おだやかなのに有無を言わさない感じが誰か思いださせて、」

穏やかな静かな空気、笑うと優しい明るさ清々しい。
けれど揺るがない柱がある、どうやっても崩れない折られない強靭。
この空気どこかで?

―誰だろう?光一と少し似てるけど違うな、

山っ子、そう呼ばれるアンザイレンパートナーの眼は底抜けに明るい。
あの眼すこし似ている、でも違う瞳が微笑んだ。

「マイペースとはよく言われます、」
「ぶれないってことでしょう?店をやっていく適正かもしれませんね、」

応えながらも考えている、どうしたら口開く?

―いっそぶちまけてみるか、正直に?

探って、けれど逸らされる。
それでも知りたくて声にした。

「彼を探しています、逢いたいから、」

ただ、それだけ。

「今すぐ逢いたいから、彼が好きな場所を歩きまわっています。だからここにも来たんです、」

逢いたい、君に。
それだけのために正直になる、不本意でも。
こんなこと今までない、君にすら嘘吐けるのに?

「彼が花を買うならここです、昨日ここでの様子を聴きたくて来ました。あなたになら何か話したと思ったので、」

手の内さらけだす、この相手に。
たいして知らない顔見知り、しかも女だ。
たった10分前まで見くびっていた相手、その眼ざしが自分を映す。

「さっき心配なのは俺だって言われましたけど、俺も自分で自分が不安で怖いですよ?」

こんな本音、どうして言わなくちゃいけない?
そんな自嘲かたすみ微笑んだ。

「このまま逢えなくなったら俺、壊れるって…不安で怖いんだ、」

こんな弱音、どうしてこんな女に?
そう想いながらも声にした前、澄んだアルトが言った。

「尋ね人を探すなら、そのひとが帰る場所、」

紅茶の香、やわらかな声が響く。
静かな穏やかな瞳が自分を映す、その声が訊いた。

「あなたが帰る場所は、あるの?」

(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】


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