萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

水無月十七日、白集真藍― Hydrangea

2017-06-17 23:20:38 | 創作短篇:日花物語
星霜ふる日、
6月17の誕生花


水無月十七日、白集真藍―Hydrangea

木洩陽ゆれる、白い光。

かすかなブルー白い花、緑ふかい底きらめく。
この花ずっと咲いている、来る夏いくつ香ったろう?
かすかな甘い、甘酸っぱい青っぽい香り朝陽くゆらす。

この香が咲くたび想いだす、幼かった日の視界。

『おまえん家が引越してきた理由って』

幼い声、でも残酷だった。
この記憶に知っている、ある意味で理想は幻想だ。

「…子どもが天使、とかって嘘だよなあ、」

つぶやいて微笑める、今。
それは「子ども」じゃない大人の今だから。
だから知っている、無知と無垢はまったく違う別物だ。

そして思う、彼らは「知っていた」ら残酷じゃなかったろうか?

「あ…おはよ、ございます?」

朝の声に引き戻される、この今に。
胡坐の縁側から見あげて、今ある幸せに微笑んだ。

「おはよう…よく眠れた?」
「うんっ、」

笑顔ほころんで隣、腰下そうとしてくれる。
その動きそっと止めて、立ちあがり籐椅子を引いた。

「床に座るより椅子がいいよ…おなか圧迫したらダメって言われてたろ?」

笑いかけた真中、寝起きの頬そっと明るむ。
ゆるやかな部屋着姿やわらかに笑って、ちいさな手そっと腹をだいた。

「うん…ね、なんだか不思議なかんじ、ね?」

ちいさな手しずかにフレアー撫でる、そのウエストまだ膨らみ淡い。
華奢かぼそい優しい姿、その数ヶ月後に微笑んだ。

「僕も不思議だな…でも七ヵ月後、ふしぎは解けるよ?」

七ヵ月、その時を無事に迎えたい。
そんな願い見つめる真中、籐椅子から見あげてくれた。

「あのね、私もうひとつ不思議なことあるんだけど…聴いてもいい?」
「うん、なに?」

問いかけに微笑んで椅子、腰かけ差し向かう。
朝陽やわらかな雨上がり、昨日より円やかな瞳が訊いた。

「あのね…どうして助けてあげたの?」

瑞々しい光、澄んだ声すこし遠慮がち。
それでも真直ぐ訊いてくれる。

「いじわるしてきた人なんでしょう、昨日の男の人…ずいぶん悲しいこと言った人だって、お祖母さまに聴いたの、」

あまずっぱい朝の風、声しずかに透る。
こんなふう訊いてくれる瞳に微笑んだ。

「助けたら超えられるからだよ?」

あの残酷を超えられたら?
そんな願い育んできた今、想い笑った。

「意地悪に悪意を返したらね、悪意しか返ってこないだろ?だから意地悪なヤツこそ善意に笑わせるといいかなって、僕は思うんだ、」

あの頃は想えなかった、でも今は想える。
それだけ自分も幼かった、幼くて無知で、それでも成長した今に笑った。

「今日は梅雨の晴れ間だね、蒲団も洗濯物も僕が干すよ?」

今いちばん大事だ、それが。
願いごと笑った前、大きな瞳ふわり笑ってくれた。

「そういうとこ好きだよ、あ?」

笑って瞳、むこうを見る。
追いかけた視線の先、雨ふりのこす七彩の橋。


In the soothing thoughts that spring 
Out of human suffering; 
In the faith that looks through death, 
In years that bring the philosophic mind. 

あふれだす癒しの想いは
人の苦しみから顕われる。
運命の涯を見つめる約束に、
理知の精神を歳月たちが連れてくる。


【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」抜粋自訳】
白集真藍:白アジサイ、花言葉「寛容、辛抱強さ」学名「Hydrangea=水の器」

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