萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

葉月二十日、万寿菊―predict

2017-08-20 23:35:35 | 創作短篇:日花物語
終焉の明日は、
8月20日の誕生花


葉月二十日、万寿菊―predict

足音が階段を降りてゆく、君だ。

もうじき階下、玄関ホール、ほら扉を開ける。
ほら響く高い鋭い音、革靴の踵の音、もう行ってしまう。

「…っ、」

がたん、僕の手にドアノブ響く。
掌に硬い冷たい金属、押し開けて香一陣ふれる。
深い苦い、そのくせ懐かしい香くちづけて、その軌跡すぐ足が動く。

追いかけてしまう、残り香ひきずられる。

「あ、」

窓のむこう、君だ。
あの背中まちがえられない、このガラスを超えたい今。

「っ、」

がちり、指先に錠前はじける。
押して古木ぎしり疼く、軋む窓ふわり熱くゆる。
炎天なぶる頬の風、光ゆらす緑に君が透けて、行ってしまう背中に叫んだ。

「がんばれ…っ」

叫んで背中すこし止まる、でも振りかえらない。
止まった一瞬、それでも君は歩きだす、もう止まることなんてない。
その背中すこしでも近づきたくて窓を蹴る、素足うずまる緑あまく熱がたつ。

「あ…」

熱い素肌、その足もと咲く黄金に微笑んだ。

「…僕みたいだ、」

黄金の花とまる蝶、その白ふるえている。
こんなふう君に僕は見えていた、だから今日まで君は。
そんなこと今さら気づかされる、もう何度もなんども君の眼は言っていたのに?
こんなになるまで気づけなかった自分、それでも気づいた今に顔をあげ叫んだ。

「ずっとありがとうっ、がんばれ…っ」

願い叫んで喉が熱い、緑ふる光まばゆく滲みだす。
滲んで揺れて君が見えない、もう見えない、瞳あふれる熱に灼かれてしまう。
灼かれる鼓動が疼いて軋んで、痛い熱い想い悶えて、それでも涙の底から叫ぶ。

「ありがとう…っがんばれっ、」

どうか君、

どうか叶えて、君の願い。
ここを出ていくのなら、僕と離れても叶えたいのなら。

「がんばれ…っ、」

どうか君のすべて叶うように、僕が嫉妬に灼きつくされる君の夢。


万寿菊:マンジュギク、英名「Marigold」聖母マリアの黄金の花。花言葉「嫉妬、絶望、悲嘆」濃黄色「予言」
マリーゴールドの花名は花期が長いため年に複数ある聖母マリアの祭日にいつも咲いていることから

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