萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

第29話 小春―another,side story「陽はまた昇る」

2011-12-19 23:56:40 | 陽はまた昇るanother,side story
その想いのままに、




第29話 小春―another,side story「陽はまた昇る」

鎧戸を開くと、よく晴れた冬の青空が温かい。
掃除日和だな。うれしくて周太は微笑んで、部屋へと振り向いた。
白い漆喰塗の壁と天井、無垢材の床と窓枠、木製の家具たち。白と木肌の空間は小春日和に温かく佇んでいる。
周太は壁際に置かれた頑丈な木箱を、天窓の下へ置くとハタキをかけた。
そして全体の天井から壁を廻って、書棚から全部の埃を落としていく。

「…こほっ」

ちいさく咽て周太は、胸ポケットからオレンジのパッケージを取出した。
一粒、オレンジ色の飴を取出し口に含むと、胸ポケットのiPodからイヤホンをセットしてスイッチを押した。

‘I'll be your dream I'll be your wish I'll be your fantasy 
 I'll be your hope I'll be your love Be everything that you need.…‘

iPodのイヤホンから穏やかな曲が流れだした。英二専用の携帯着信音も、この曲になっている。
なんだかこの曲の歌詞は、あの隣を想いださせる。たぶんきっと歌詞にこもる意味が、あの隣と似ているから。

‘僕は君が見ている夢になろう 僕は君の抱く祈りになろう 君が諦めた願いにも僕はなれる
 僕は君の希望になる、僕は君の愛になっていく 君が必要とするもの、全てに僕はなる’

「…ん、ほんとに、そう」

歌詞に微笑んで、周太は拭き掃除を始めた。
ぞうきんを絞るバケツの水が冷たい、時はもう冬を迎えている。
そんな今朝の奥多摩は雪がまた降った、その写メールを今朝も早い時間に英二は送ってくれている。
きっと今頃は日勤の駐在所で、雪の森と御岳山を眺めながら登山計画書を整理しているだろう。

‘cause I am counting on A new beginning A reason for living A deeper meaning
 I want to stand with you on a mountain’

‘君への想いはきっと、新しい始まり、生きる理由、より深い意味 そう充たす引き金となる
 君と一緒に、山の上に立ちたい’

この歌詞は英二、そんなふうに想えてしまう。
あの雲取山に登ったとき、この歌にこめて英二は想いを告げてくれた。
そしてこの歌詞はきっと、英二がいま自分に伝えたい「想い」でもある。
だってもう、ほんとうは気がついている。毎日を繋いでくれる電話とメールに「想い」はあふれて届くから。

その「想い」はきっと、―A reason for living  I want to stand with you on a mountain

おしまいに窓ガラスの空拭をすると、周太は掃除道具を片付けた。
これで今日は家じゅうの掃除が出来た、うれしくて周太は微笑んだ。

「ん、よかった」

この年の瀬は警邏の任務続きで周太は実家に戻れない。だから週休の今日を大掃除にしようと朝早くに帰ってきた。
おかげでまだ午前11時、外の陽も高く温かい。こんどは庭へ出ると周太は、剪定ばさみと梯子を持ち出した。
軍手をはめながら見上げる梢はいくらか伸びている。

「あの枝と、…こっち、かな?」

つぶやいて梯子をセットすると、かるく庭木の剪定を始めた。
30分程度ですぐ済んで用具をしまうと、落とした枝をきちんと縛って置き場所にまとめ置いた。
軍手を外しながら庭を見渡して、満足して周太は微笑んだ。これでもう家は庭も中も整っている。

この正月は当番勤務と警邏で周太は帰れない、だから母は1人で年越しになってしまう。
その母のためにも家をきれいにしておきたかった、母が1人の正月に寂しい想いをしないで済むように。
それに3日後には、英二が帰ってくる。
3日後は12月25日クリスマス、英二はこの家に父の合鍵と一緒に帰ってくる。

「…やっと、逢えるね。英二」

ちいさく呟いて周太は微笑んだ。
この家に英二が父の合鍵と帰るのは、こんどが初めてになる。
そのことはきっと母にも大切な意味がある、だからこそ母は英二に父の遺品の鍵を贈った。

―宮田くん、明日は行ってらっしゃい。そして今度、またここへ帰って来て―

そう言って周太の誕生日の午後、母は旅行へと出かけてしまった。その母の顔は晴れやかに楽しげだった。
そして翌日もどった母の瞳には、微笑みが明るくきれいだった。
そんな母はクリスマスもまた、午後から温泉に出かけていく。
こんどはどんな瞳になって、母は帰ってきてくれるのだろう?

「…ん、きっと良い顔になってくる、ね」

こういうことは本当にうれしい、周太は微笑んだ。
こんなふうに母を自由に外泊させられること、それが良かったと思える。
元々は母は旅行が好きだった、けれど周太が生まれてからは家族旅行ばかりだった。
そして周太も10歳になるからと久しぶりに友人と旅行にいく、その直前の夜に父は拳銃に斃れ殉職した。

―13年前の約束の旅行だったのよ

周太の誕生日の翌朝、帰ってきた母はそう告げて微笑んだ。
その友人と母はクリスマスにまた温泉へ行く。
きっと楽しんでくるだろう、その母の顔をまた見られる事が周太は楽しみだった。

さっとシャワーを浴びて着替えると、周太は掃除用の服とエプロンもまとめて洗濯機をまわした。
時計は12時になる、台所に立つと昼食の支度を周太は始めた。
今日は久しぶりに射撃特練の練習も無い、おかげで早く実家に帰って家事が出来ている。
こんなふうに警察の世界から離れて、一日を家事に遣うのは久しぶりのこと。なんだか幸せで周太は微笑んだ。

「…こういうの、いいな」

そっと呟きながら根菜入れの木箱から取出した南瓜を、器用に周太は切っていく。
今日は冬至だから南瓜を食べたいな。そんなメールを母は今朝くれた。だから南瓜の献立を考えてある。
周太は切り分けた半分を鍋にいれると、かるく塩をふって蓋をした。これは夕食用にあとで煮物にする。
こうして塩をふって出る水分で煮ると、ほっくりとした食感が出やすい。
残りは煮つぶしてマッシュ状にしていく、これは昼食のサラダとパスタソースに使う。
フォークに押されて滑らかになっていく南瓜の、オレンジの色合いが温かい。

「ん、きれいだな」

こういう手仕事は好きだ。
元々は父の死で働きに出た母の、手助けをしたくて周太は家事を身につけた。
もう周太には母しか居なかった、だから母の負担を少しでも減らして母には元気でいてほしい。
そんな想いで一生懸命に周太は、家事の本を読みながら1つずつ覚えた。おかげで今は何でも出来るようになっている。
そしてそんな周太の手料理を英二は「世界でいちばん好き」と言ってくれる。ふっと周太は幸せに微笑んだ。

「ん、…うれしかったよ、英二?」

そう、ほんとうに嬉しかった。
あの大好きな笑顔が「世界でいちばん好きだ」と言って笑ってくれた。
その笑顔を見た瞬間、いままでの自分の痛みも孤独も全て、温かい想いに変えられた。

周太の家事その一つずつは、周太の孤独と痛みの記憶が伴ってしまう。
それは周太が家事を覚えたきっかけが、父の殉職から生まれた孤独の賜物でいる為だった。
父の殉職で母は、専業主婦からキャリアウーマンに復職した。
それからはいつも、学校から帰った家はしんと静かで寂しかった。
父の生前はいつも母が迎えてくれた、けれどその温もりはもう2度と戻らない。
そんな哀しみが日々、周太の孤独を深めていった。
そしてそれ以上は孤独になりたくなくて、唯一人の家族である母を守りたいと思った。
だから周太は家事を覚えて母の負担を減らすことにした。そして帰ってきた母と話す時間を作りたかった。

父の殉職で周太は、学校でも近所でも居場所を消してしまった。
オリンピック射撃代表で有能な警察官だった父、そのことを周囲は誰もが知っていた。
だから父の殉職も誰もが知っていた、そして周太に誰もが訊きたがり慰めたがった。
「お父様、残念だったわね」「父さん銃で撃たれたんだろ?」「お母さん寂しいわね、再婚もいいことよ?」
そんなふうに寄せられる無神経な善意が、いつも苛々と苦しくて哀しくて。
そして傷ついてく心が悲鳴をあげて毎晩ひとり吐いて泣いて苦しんで。それでも頼れるのは自分だけしかいなかった。

そんな自分の我慢が切れたらきっと、酷く周りを傷つけてしまう。そんな自分の弱さも哀しくて。
だからもう誰も寄せつけたくなかった、そんな想いに周太は父の蔵書をランドセルに入れた。
そして学校の休み時間でもずっと、父の本の影に埋もれて過ごすようになった。
そうして話しかける人は誰もいなくなった。

だから周太にとって話せる相手も、母しかいなくなった。
そして父が亡くなった周太には、血縁者も母しかいなかった。
周太の両親どちらも一人っ子で、祖父母は周太が生まれる前に亡くなっていたから。
だから周太には、本当にもう母しかいなかった。そんな孤独が周太を家事の習得に向かわせた。

そんな哀しみから身に付けた家事すらも、ただ喜んで微笑んでくれる、あのひと。
そして自分のそんな手仕事に、幸せだと心から笑って「ありがとう」と言ってくれる、あの隣。

―今まで食った中で、周太の肉じゃがが一番うまい

ありあわせの材料で作った惣菜だった。それでも英二は幸せそうに食べてくれる。
そうしてご飯をいっぱい食べて、元気に微笑んで周太を抱きしめてくれた。
そんなふうに抱きしめられて幸せで、向けられる笑顔が幸せで。ほんとうに英二を好きだと想ってしまった。
だから雲取山に登る前夜も何か作りたくて、出来る限りだけれど簡単な夕食を仕度した。

―周太が作ったものがさ、俺、いちばん好きだから。だから嬉しい、ほんとだよ
 俺ね、今、すごい幸せだ

あんな簡単な料理でも、それでも英二は幸せに笑ってくれた。
そして周太を大切に抱きしめて、宝物のように求めて甘やかし眠りに沈めてくれた。
そんなひとつずつが本当にうれしくて、どの瞬間もいつも幸せが温かくて。
だから自分は心から感謝出来てしまう「家事が身についていて良かった」そんな感謝が今は心に温かい。
そうして13年間の孤独すら、この幸せの為だったと認められる。

だからもう、自分はきっと孤独には戻らない。
そしてもう信じている、この幸せに佇む唯ひとり愛する人は、きっとずっと共に生きていく。
だから自分の心には今、ひとつ勇気を抱いて温められている。あの初雪の夜に結ばれた「絶対の約束」その想いの為に。
そんな想いは温かい、幸せに周太は微笑んでガスの火を止めた。

「ん、これでいい、かな」

食事の準備も済ませると、周太は父の書斎の扉を開けた。
さっき掃除したばかりの、ダークブラウン落着く部屋は窓の風に清らかだった。
静かに窓を閉めると周太は、書棚の前に立って背表紙を見つめていく。そして目当ての本を見つけて周太は微笑んだ。

「…ん、これ、」

そっと本を取出すと書斎の扉を開いて、自室へと周太は戻った。
穏やかな小春日和に温かい屋根裏の、ちいさな部屋のロッキングチェアーに周太は座りこんだ。
きっ、と微かな軋みが漆喰の壁に響いて、ゆったり揺らいで椅子は周太を受けとめてくれる。

この椅子は父が若い頃に作ったもの、頑丈でけれど繊細なラインがきれいな椅子。
幼い頃からこうして座るのが周太は好きだった。
こんなに好きな椅子なのに、13年間を座らないで過ごしてきた。
その時間の分だけこれから、この椅子を大切に出来たら良い。

「…大切にするね、お父さん?」

微笑んで周太はiPodをセットすると、携帯をポケットから取り出した。
そっと開いて受信メールボックスから、1通のメールを探し出す。

From  :宮田英二
Subject:東京の最高峰から
添 付 :雲取山の雪景色と夜明けの空、遠望する新宿の灯
本 文 :おはよう周太、ここは新雪が積もってる。
     今、新宿が見えるよ。東京の最高峰からね、周太を見つめてる、そして周太のこと想ってる。
     最高峰から告げるよ?ずっと俺は、周太を愛してる。

1週間前、田中の四十九日を英二は国村と雲取山から送りだした。
それは奥多摩の雪ふる真白な夜だった、そして翌朝は新雪の山頂に英二は初めて佇んだ。
その新雪の山頂から夜明けに、英二が送ってくれた写メール。
うす赤くそまる白銀の新雪と、その向こうに新宿の夜明けが曙光に浮かんでいる。
その山頂から告げられた想いと一緒に、きれいだなと見惚れてしまう。

「きれいだね、英二」

小春日和の陽だまりで、揺椅子から周太は微笑んだ。
ほんとうに微笑んでしまう、だってこのメールには英二の「想い」が籠められているから。
ほんとうは逢って話そうと英二は想ってくれていること、けれど自分には解ってしまう。
そんな想いに微笑みながら周太は、メール本文をそっと声にした。

「…最高峰からね、見つめてる、そして想ってる…最高峰から告げるよ?ずっと俺は、愛してる」

‘cause I am counting on A new beginning A reason for living A deeper meaning
 I want to stand with you on a mountain’

‘君への想いはきっと、新しい始まり、生きる理由、より深い意味 そう充たす引き金となる
 君と一緒に、山の上に立ちたい’

いま聴いている歌詞と重なっていく英二のメール。
この歌詞がうたいあげる愛する想い、そして英二が自分によせてくれる愛する想い。
それが伝えてくれること、そして英二が逢って話したい大切な「想い」その意味。
ほんとうはもう自分は気づいている、だって自分はずっと英二を見つめて生きているから。
いつも英二が繋いでくれる想い、刻々と見つめ続ける想いに抱かれている自分。そんな自分には解ってしまう。

その「想い」はきっと ―A reason for living I want to stand with you on a mountain

そしてこのフレーズに加わるべき単語がある。
その単語はこの英二のメールにもう書いてある。
だから解ってしまうよ、英二?―そんな想いに微笑んで、周太は唇を開いた

「the highest peak…だね、英二?」

― 最高峰から見つめてる、そして想ってる 最高峰から告げるよ?ずっと

そんなふうに英二は生きる意味を見つけた。
たぶんきっと、その最高峰へ誘ったのは「最高峰に登る運命の人」― あの国村が誘った。
だって国村は英二をアイザイレンパートナーに選んでいる、それはきっと最高峰へ登るときだって同じこと。
そして国村は自分が望んだ以上、必ず英二をパートナーとして生涯ずっと掴み続けるだろう。

―湯原くんと俺はさ、宮田のことでもライバルになっちゃうかもよ?

田中の四十九日の夜、国村はそんなふうに電話で告げてくれた。
それはたぶん「山ヤの生涯をずっと、宮田と共にするからね?」そういう意味だった。
そんなふうに国村は、そっと周太に覚悟を促してくれた。

国村と英二は相似形、よく似ていてけれど対になっている。
そして共通する性質は「直情的で思ったことしか言わない出来ない、欲しいものは絶対掴んで離さない」
だからもう国村は英二を、アイザイレンパートナーとして生涯ずっと離さない。
そしてきっと。その求めに英二も応じて、自ら望んで国村と立つ生涯を選んでいる。

そう。きっともう、ふたりは決めている。

― 生涯アイザイレンパートナーとして共に世界中の最高峰に立つ

たぶんそう誓って、ふたりは決めてしまった。
だからこそ田中の四十九日を2人は、東京の、奥多摩の最高峰に立ったのだろう。
その田中は2人が山ヤとして敬愛する先輩で師、そして田中も山ヤとしてトップクライマーの夢を抱いていた。
その田中を送るとき2人は最高峰から誓っただろう、2人で共に最高峰を踏破して田中の夢をもかなえると。
だから国村は英二を雲取山へ連れて行った、そして英二も望んで共に山頂に立った。奥多摩最高峰の山頂に。

「ね、英二…そう、決めているね?」

そうだよ英二?自分には解ってしまう。
だって英二が帰ってくる隣は自分、いちばん近くで見つめているのは自分。だから解ってしまう。
そして警察学校の日々が自分にはある、その日々にいつも資料室で英二が見つめていた写真を覚えているから。

白銀の世界に立つスカイブルーのウィンドブレーカー。
警視庁青梅署山岳救助隊の遭難救助の現場写真、そんな山ヤの警察官の背中は、誇らかな自由がまぶしかった。
それから、
日本の雪山と世界の雪山、そして世界中の最高峰たちの美しい姿の写真たち。
その最高峰に立つトップクライマーの、誇り高い自由と頼もしい背中。

そうした写真をいつも英二は見つめていた。見つめる時いつも切長い目は輝いて美しくて。
そんなふうに見つめながら、隣から覗きこむ自分に笑いかけてくれた。
真直ぐ自分の瞳を見つめて言っていた「自分もこうなりたい、できるかな?」そんなふうに笑って教えてくれた。
その笑顔がきれいで見惚れて。だから自分は答えてしまった「きっとね、できるよ」そう微笑んでしまった。
そして英二は卒業配置の第一希望に奥多摩地域「青梅警察署」と記した。

けれど奥多摩は警視庁管内で最も厳しい配属先になる。だから山岳経験者のみが配属される地域だった。
そして卒業配置でストレートに配属されることは難しく稀な配属先だった、それでも英二は望んだ。
その望みのまま諦めずに努力を重ねて、山岳救助隊実務に関わる科目で高成績を納め、検定も高得点で合格した。
そんなふうに遠野教官の信頼を勝ち取って、英二は不可能に思えた奥多摩配属を掴んだ。

こんなふうに英二はいつも、欲しいものは絶対に掴んでいく。そんな努力とそれだけの能力を英二は持っている。
そして掴んでしまったらもう2度と離さない、そんな性質はきっと国村も全く同じでいる。
だから2人で決めた望み「想い」なら、必ず2人は叶えていくのだろう。

そしてその「想い」を告げるため、英二は3日後にこの部屋を訪れる。
そんな覚悟も抱いて今日は、この家の全てを整えた。
だってきっと英二は、この家で「想い」を告げてくれるだろう、この家は周太の父が「想い」を遺す場所だから。
そのことだって自分は解る、穏やかに微笑んで周太はささやいた。

「…ん、俺にはね、わかるんだよ、英二?…それにね、信じてる」

信じている、唯ひとつの想いに。
だって約束を必ず守ってくれる、愛するあの人は。
だからきっと最高峰からだって、英二は必ず自分の隣に帰ってきてくれる。

 どんな時どんな場所からも、絶対に周太の隣に帰ること
 いつか絶対に一緒に暮らすこと、ずっと毎日を一緒に見つめること

そんな2つの「絶対の約束」を自分は全てを懸けて英二と結んだ。
英二は必ず約束を守る、だから「絶対の約束」があればきっと無事に帰って来る。
そうして帰る生命の無事を祈りたくて、この想いごと心も体も全てを懸けて約束を結んだ。
あの初雪の夜に、その翌夜新宿の街路樹に、心ごと繋いで結んだ約束。
だから自分は信じている、そのための勇気をもう自分は抱いている。

最高峰に立つこと、それは世界最高の危険地帯に立つこと。
それでも英二は必ず帰ってくる、あの隣には山が想いをかけてくれるから。
あの隣のアイザイレンパートナーは、最高峰に生を受けた山の申し子。
その山の申し子に選ばれた英二なら、峻厳な山の掟すらきっと愛して生かしてくれる。

それに自分は知っている、あの隣が山ではどんなに輝くか。
共に過ごした雲取山で見た英二は、山ヤの誇り高らかな自由と頼もしさが眩しかった。
それは素直なままの英二の姿だった、そしてその姿を見たいと自分こそが願っていた。

あなたの真実の姿、実直で温かい、やさしい穏やかな静謐。
あなたの真実の姿、そのままで、生きていて?
そのままの姿で、率直に素直に生きるなら。あなたなら、きっと見つめられる、見つけられる。
生きる意味、生きる誇り。それからあなたに、必要な全て。

ずっとそう願ってきた。
そしていま英二が見つめはじめた「想い」はその願い叶えられること。
その予感と期待がうれしい、そして英二が輝く姿を隣から見つめたい

それでも、ほんとうは怖い、
あの隣、愛する人が世界最高の危険地帯に立つことは。
いま自分たちが生きる警察官の危険、それより遥かに厳然とした危険に立つことだから。

それでも自分は信じる。
だから愛する人の想いのままに、自分は信じて微笑めばいい。
だってもう自分だって決めている、愛する人の為に自分が生きていくこと。
だから信じて待っている。この愛する人を守る、その一つの為になら自分は勇気が持てるから。

ここに今あることが、誇らしい。
この隣を英二を愛する自分が誇らしい。
そしてこの想いの為になら、どんな事も出来る勇気が誇らしい
だからもう、自分は信じて待つことが出来る。

そして「想い」を話してくれることを待っている。
そして願っている。自分が受入れると、英二が信じてくれることを。



【歌詞引用:savage garden「Truly, madly, deeply」】


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