萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk62 時計act.13 ―dead of night

2018-01-18 22:25:04 | dead of night 陽はまた昇る
零時から君に、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk62 時計act.13 ―dead of night

つかんだ指、君がふるえる。

「…ぁ」

ためいき、それとも驚き?

そんな声は君だろうか、俺だろうか?
ただ伝えたい想い手を伸ばして掴んだ、それだけ。
それだけのこと、でも想像できなかった瞬間に英二は唇ひらいた。

「解らないからって湯原が謝ることないだろ、小さいころに登った山なら忘れるくらいよくあるよ?」

唇がうごく、声が喉あふれてくれる。
こんなふう自分は饒舌だ、それだけ狡知だったはずなのに君の指にふるえる。

―湯原の指をつかんでる、俺の手が、

右の掌くるんだ指は大きくない、男としては小さい指。
それだけ小柄な白シャツ姿はデスクライト立ち竦んで、その黒目がちの瞳が自分を映す。

「宮田…ありがとう、でも」

君の唇うごく、黒目がちの瞳かすかに揺れる。
すこし厚い唇はふるえそうで、それでも穏やかな声が言った。

「でもぼ、おれは…忘れすぎているから」

穏やかな声が静かに告げる、その言葉に知りたい。
どうして話してくれるのだろう?引きよせたくて微笑んだ。

「ぜんぶ忘れてるわけじゃないだろ湯原、お父さんの背中で下山したこと、山岳訓練のとき話してくれたし?」

父とこうして山を降りたんだ。

そんなふう君が話してくれたから、あの山岳訓練で選んでしまった。
この背に君の体温はやさしくて、耳もと声は穏やかで、あの瞬間ほしくて君といる。
この狭い寮室ちいさな空間に近づいて、ふたり深夜のはざまに黒目がちの瞳ゆっくり瞬いた。

「あのときまで忘れていたんだ、いちばん…たいせつなことなのに」

長い睫にデスクライト揺れる、瞳ゆっくり自分を映す。
揺れそうな眼ざし見つめ返して、右掌に指そっと握りしめた。

「湯原、おいで?」

右手に君の指くるんだまま立ちあがる。
デスクライト見あげてくれる瞳に微笑んで、デスクの写真とった。

「ゆっくり見よう?一緒に、」

ちいさな指と写真、そのままベッドに腰おろす。
右手つながれた指かすかに震えて、黒髪やわらかな頭かしげた。

「あの…ベッドに座るなんていいのか?」

遠慮してくれる、こういうところ本当に育ちがいい。
いつもながら奥ゆかしい隣人に笑いかけた。

「いつも俺こそ湯原のベッドに座るだろ、あれ本当は嫌だった?」
「ちがう、」

即答すぐ首振ってくれる。
こんなに本当は素直だ、そんな素顔ただ見ていたくて笑った。

「じゃあ俺のベッドにも遠慮するなよ、それとも俺のベッドに座るの気持ち悪い?」

ずきり、鼓動が疼く。
自分で言ったこと、けれど図星みたいで痛い。

“気持ち悪い”

そう君が想うかもしれない、自分の本音を知ったなら。
今どんな感情を欲望を君に想うのか?そんな全ての隣、ぱさり、細い腰が座った。

―座ってくれた、俺の隣に湯原が、

コットンパンツ細い腰、ふれそうに近い。
シャツの波紋ゆるやかなベッドの上、長い睫が見あげた。

「あのさ…いつまでゆ」

言いかけて、でも唇が止まる。
続ける言葉が続かない、ただ吐息そっとオレンジ甘い。
何を言おうとしたのか?すぐわかって、けれど微笑んだ。

「この写真、谷川岳を見あげる角度だろ?西側の天神峠のほうから撮ってると思う、」

写真に惹きこんで言葉を逸らす。
だって君が言いかけたこと逸らしたい、今はこのままで。

「ロープウェイで天神峠まで登れるから、湯原が小さいころに登ったコースじゃないかな?」

語りかけながら右掌そっと握りしめる。
くるみこんだ指かすかに動く、この温もり離したくない。

※校正中
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零下、氷の造形

2018-01-18 11:39:02 | 写真:山岳点景
冬、山は零下に凍てつきます。
冬山装備×カメラで氷に雪に歩くと、つい惹かれる造形に足止めされます。


零下に凍てついた枝などに水が付着して凍る、雨氷という現象です。


雨氷に被われる渓、氷渓は天然の冷凍庫。
登山靴じゃないと爪先かじかむ零下です。


流線形あざやかな雨氷、強風×冷厳つむぐ造形です。


冬山の低温は平地の常識外、山の零下に水分なにもかも凍ります。
たとえば氷の花、植物に含まれる水分も凍って破裂して咲きます。


枯枝つなぐ氷の鎖、蜘蛛の糸に大気中の水分が付着し凍ったものです。


頭上は樹々も刻々と凍りだす、正午過ぎの冬山リアルは樹氷の育ちはじめ。


滝も凍結して氷瀑に、滝壺も氷と雪に凍ります。


滝の上部、渓流も激しい水紋そのまま氷化。


湖面も凍てつき、ときおり割れて氷の紋様。


岩奔る清水、滴るごと氷柱に変わる蒼い零下。
第72回 ☆私の趣味はコレです!☆ブログトーナメント

冬山シーズンの今だけど時間調整が難しい今日この頃、なんとか行きたいとこです、笑
撮影地:埼玉県、東京都、栃木県、山梨県

※冬山は初心者だけでは絶対に行かないでください※
必ず経験者に同行+安易な装備と予定で踏み込まないでくださいね?
山は自助・自分自身で行動の責任をとる技術と知識装備が必要です、初心者も「自助」リーダー頼みは遭難死します。
よく学生パーティーの遭難事故が起きていますけど、
●リーダー頼みすぎ=一人の判断ミスですぐ遭難。
●レベルを考えない登山計画=訓練だから無理させる、って名目ですけどその結果に低体温症や疲労凍死が頻発しています。
●まったくの初心者にいきなり高難度で遭難=百名山や高難度登山に「憧れて」入部するのは良いですけど、その憧れに伴う技術ナシで登るから事故ります。
というようなことは学生に限らず、登山ツアーでもよくある遭難事故例です。
リーダーやツアコンに頼るのではなく、自分自身ちゃんとした責任ある登山してくださいね?
なにより・冬山は平地の常識が通用しない世界です。

○冬期閉鎖しない道路も山間部は凍ります、冬タイヤ・チェーン×運転技術が必須です。
○山は斜面方角により気温が異なります、北斜面にカーブしたらいきなり凍結も当り前・実際よくスピンや突っ込んだ跡を見ます。
○ハイキング的コースでも運動靴NG、登山靴×ゲイターで足の保温しないと爪先から凍えて行動不能にすぐ陥ります。
○滑止め防止にアイゼン必携、6本爪以上・コースによっては本格的なアイゼン無いと転滑落で死亡事故になります。
○ストック必携、雪で見えない崖や穴に落ちないようストックで足場たしかめながら行動してください。
○登山ウェアも冬装備で・雪や風に耐え放湿もいい素材、ゴアテックスなどちゃんとしたモン着てください。
(※特に足先と指先が凍えると人間は行動不能に陥ります、その先は低体温症→凍死です)
○手袋は2枚重ね、冬用アウトグローブとインナーグローブで指先の凍傷を防ぎます。手首を防寒するとより効果的です。
○冬山は吹雪など天候悪化・転倒による受傷など緊急事態もあり得ます、ビバークできる装備は必携です。防寒着・貼るカイロ・靴下など着替えも。
○ヘッドライト必携、吹雪でもすぐ暗くなるので照明器具がないと道迷い→疲労凍死になります。
○温かい飲み物は必携、コッヘルで湯を沸かせると体内から温まり低体温症×凍傷を防げます。
○カメラ機体は冬山だとビックリするほど冷たいです、良い手袋×手の休憩で凍傷しないでくださいね?
○凍えだしたら「首」足首・手首・首を集中的に温める+肩や股関節を動かし血流を回復させます、尾てい骨あたりにカイロを貼ると骨伝導で全身に熱が回ります。

まだ冬山いろいろ注意点あるんですけど、専門書ちゃんと読んで準備万端お出かけくださいね?笑

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