零時から君に、
secret talk62 時計act.13 ―dead of night
つかんだ指、君がふるえる。
「…ぁ」
ためいき、それとも驚き?
そんな声は君だろうか、俺だろうか?
ただ伝えたい想い手を伸ばして掴んだ、それだけ。
それだけのこと、でも想像できなかった瞬間に英二は唇ひらいた。
「解らないからって湯原が謝ることないだろ、小さいころに登った山なら忘れるくらいよくあるよ?」
唇がうごく、声が喉あふれてくれる。
こんなふう自分は饒舌だ、それだけ狡知だったはずなのに君の指にふるえる。
―湯原の指をつかんでる、俺の手が、
右の掌くるんだ指は大きくない、男としては小さい指。
それだけ小柄な白シャツ姿はデスクライト立ち竦んで、その黒目がちの瞳が自分を映す。
「宮田…ありがとう、でも」
君の唇うごく、黒目がちの瞳かすかに揺れる。
すこし厚い唇はふるえそうで、それでも穏やかな声が言った。
「でもぼ、おれは…忘れすぎているから」
穏やかな声が静かに告げる、その言葉に知りたい。
どうして話してくれるのだろう?引きよせたくて微笑んだ。
「ぜんぶ忘れてるわけじゃないだろ湯原、お父さんの背中で下山したこと、山岳訓練のとき話してくれたし?」
父とこうして山を降りたんだ。
そんなふう君が話してくれたから、あの山岳訓練で選んでしまった。
この背に君の体温はやさしくて、耳もと声は穏やかで、あの瞬間ほしくて君といる。
この狭い寮室ちいさな空間に近づいて、ふたり深夜のはざまに黒目がちの瞳ゆっくり瞬いた。
「あのときまで忘れていたんだ、いちばん…たいせつなことなのに」
長い睫にデスクライト揺れる、瞳ゆっくり自分を映す。
揺れそうな眼ざし見つめ返して、右掌に指そっと握りしめた。
「湯原、おいで?」
右手に君の指くるんだまま立ちあがる。
デスクライト見あげてくれる瞳に微笑んで、デスクの写真とった。
「ゆっくり見よう?一緒に、」
ちいさな指と写真、そのままベッドに腰おろす。
右手つながれた指かすかに震えて、黒髪やわらかな頭かしげた。
「あの…ベッドに座るなんていいのか?」
遠慮してくれる、こういうところ本当に育ちがいい。
いつもながら奥ゆかしい隣人に笑いかけた。
「いつも俺こそ湯原のベッドに座るだろ、あれ本当は嫌だった?」
「ちがう、」
即答すぐ首振ってくれる。
こんなに本当は素直だ、そんな素顔ただ見ていたくて笑った。
「じゃあ俺のベッドにも遠慮するなよ、それとも俺のベッドに座るの気持ち悪い?」
ずきり、鼓動が疼く。
自分で言ったこと、けれど図星みたいで痛い。
“気持ち悪い”
そう君が想うかもしれない、自分の本音を知ったなら。
今どんな感情を欲望を君に想うのか?そんな全ての隣、ぱさり、細い腰が座った。
―座ってくれた、俺の隣に湯原が、
コットンパンツ細い腰、ふれそうに近い。
シャツの波紋ゆるやかなベッドの上、長い睫が見あげた。
「あのさ…いつまでゆ」
言いかけて、でも唇が止まる。
続ける言葉が続かない、ただ吐息そっとオレンジ甘い。
何を言おうとしたのか?すぐわかって、けれど微笑んだ。
「この写真、谷川岳を見あげる角度だろ?西側の天神峠のほうから撮ってると思う、」
写真に惹きこんで言葉を逸らす。
だって君が言いかけたこと逸らしたい、今はこのままで。
「ロープウェイで天神峠まで登れるから、湯原が小さいころに登ったコースじゃないかな?」
語りかけながら右掌そっと握りしめる。
くるみこんだ指かすかに動く、この温もり離したくない。
※校正中
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英二side story追伸@第5話 道刻
secret talk62 時計act.13 ―dead of night
つかんだ指、君がふるえる。
「…ぁ」
ためいき、それとも驚き?
そんな声は君だろうか、俺だろうか?
ただ伝えたい想い手を伸ばして掴んだ、それだけ。
それだけのこと、でも想像できなかった瞬間に英二は唇ひらいた。
「解らないからって湯原が謝ることないだろ、小さいころに登った山なら忘れるくらいよくあるよ?」
唇がうごく、声が喉あふれてくれる。
こんなふう自分は饒舌だ、それだけ狡知だったはずなのに君の指にふるえる。
―湯原の指をつかんでる、俺の手が、
右の掌くるんだ指は大きくない、男としては小さい指。
それだけ小柄な白シャツ姿はデスクライト立ち竦んで、その黒目がちの瞳が自分を映す。
「宮田…ありがとう、でも」
君の唇うごく、黒目がちの瞳かすかに揺れる。
すこし厚い唇はふるえそうで、それでも穏やかな声が言った。
「でもぼ、おれは…忘れすぎているから」
穏やかな声が静かに告げる、その言葉に知りたい。
どうして話してくれるのだろう?引きよせたくて微笑んだ。
「ぜんぶ忘れてるわけじゃないだろ湯原、お父さんの背中で下山したこと、山岳訓練のとき話してくれたし?」
父とこうして山を降りたんだ。
そんなふう君が話してくれたから、あの山岳訓練で選んでしまった。
この背に君の体温はやさしくて、耳もと声は穏やかで、あの瞬間ほしくて君といる。
この狭い寮室ちいさな空間に近づいて、ふたり深夜のはざまに黒目がちの瞳ゆっくり瞬いた。
「あのときまで忘れていたんだ、いちばん…たいせつなことなのに」
長い睫にデスクライト揺れる、瞳ゆっくり自分を映す。
揺れそうな眼ざし見つめ返して、右掌に指そっと握りしめた。
「湯原、おいで?」
右手に君の指くるんだまま立ちあがる。
デスクライト見あげてくれる瞳に微笑んで、デスクの写真とった。
「ゆっくり見よう?一緒に、」
ちいさな指と写真、そのままベッドに腰おろす。
右手つながれた指かすかに震えて、黒髪やわらかな頭かしげた。
「あの…ベッドに座るなんていいのか?」
遠慮してくれる、こういうところ本当に育ちがいい。
いつもながら奥ゆかしい隣人に笑いかけた。
「いつも俺こそ湯原のベッドに座るだろ、あれ本当は嫌だった?」
「ちがう、」
即答すぐ首振ってくれる。
こんなに本当は素直だ、そんな素顔ただ見ていたくて笑った。
「じゃあ俺のベッドにも遠慮するなよ、それとも俺のベッドに座るの気持ち悪い?」
ずきり、鼓動が疼く。
自分で言ったこと、けれど図星みたいで痛い。
“気持ち悪い”
そう君が想うかもしれない、自分の本音を知ったなら。
今どんな感情を欲望を君に想うのか?そんな全ての隣、ぱさり、細い腰が座った。
―座ってくれた、俺の隣に湯原が、
コットンパンツ細い腰、ふれそうに近い。
シャツの波紋ゆるやかなベッドの上、長い睫が見あげた。
「あのさ…いつまでゆ」
言いかけて、でも唇が止まる。
続ける言葉が続かない、ただ吐息そっとオレンジ甘い。
何を言おうとしたのか?すぐわかって、けれど微笑んだ。
「この写真、谷川岳を見あげる角度だろ?西側の天神峠のほうから撮ってると思う、」
写真に惹きこんで言葉を逸らす。
だって君が言いかけたこと逸らしたい、今はこのままで。
「ロープウェイで天神峠まで登れるから、湯原が小さいころに登ったコースじゃないかな?」
語りかけながら右掌そっと握りしめる。
くるみこんだ指かすかに動く、この温もり離したくない。
※校正中
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