冨田敬士の翻訳ノート

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“no/not later than 10 days”, “within 10 days of”

2017-12-04 22:42:07 | 情報

英文の正式文書,中でも法律文書には期限の表現がひんぱんに登場する。権利や義務の発生,消滅に関わることなので意味や用法を正確に理解しておきたい。表題のidiomは最近扱った英文に出ていたものだが,英語圏のサイト上でも質疑応答の対象になっているくらいで,実際の運用面でははっきりしない部分もある。

1.“no/not later than 10 days”

“no later than”と“not later than”の違い
一般英語ではnoとnotの品詞が違うので同じではないという意見もあるが,実用文では意味の違いはほとんどない。

“no later than”
(1) I’ll be back no later than 6 o’clock.(遅くとも6時までに)
(2) We'll need to know your decision no later than next week. (遅くとも来週中に)
(3) Republicans say they are going to vote no later than January 6th or 7th.(遅くとも1月6日または7日までに)

“not later than”
(1) Not later than December 31, 2013, a health plan shall file a statement with the Secretary’s office, certifying that the data and information systems for such plan comply with all standards. (遅くとも2013年12月31日までに)
(2) Not later than four months after entry of this Final Judgment, Microsoft shall submit to the Court and the Plaintiffs a proposed plan of divestiture.(この最終判決の登録後遅くとも4か月以内に)
(3) Not later than the 15th day of every month, Distributor shall provide Company with a three (3) month rolling forecast of orders showing Products requested.(毎月遅くとも15日までに)

以上の例でも明らかなように,“no later than”は日常な文書に使われる表現で,これに対して“not later than”はもっぱらフォーマルな文書で使用される。法律,規則,契約書,論文などでは“not later than”が好まれるようだ。形式張った文章には「強調」のnotが向いているということかもしれない。
ただ,法律文でも“no later than”を使用した例はかなりある。例えば,
Payment of royalties shall be made to Licensor no later than the thirtieth (30th) day after the end of the period to which the payment relates.
このように,使い分けに明瞭な線引きがあるわけではなく,正式文書でも“no later than”を使って問題はないようだ。
なお,以上のことは”no/not more than”でも同じことが言える。


2.“within 10 days of”(“within x number of days of a certain date”)

このidiomは次のように使用される。
(1) The other Party shall, within thirty (30) days of the service on it of a Conciliation Notice, give a written response to........(送達を受けてから30日以内に)
(2) within one business day of the time of notice thereof.(通知があったときから1営業日以内に)
(3) within ninety (90) days of the establishment the Subsidiary.(子会社の設立から90日以内に)

“within 10 days of (a certain date)”は2つの意味に解釈できる。一つは「特定日の前の10日以内,つまりwithin 10 days before」,もう一つは「特定日の後の10日以内,つまりwithin 10 days after」。その理由はofにある。ofはもともとoffと同じ「離れる」が原義なので,beforeでもafterでもどちらにも解釈できる。どちらの意味で使われているかは前後の意味を調べ,常識的に判断することになる。なお,米国政府機関では通常,”of the date”を”after the date”の意味で使用するという。
実務の英文を書くときは曖昧にならないよう注意したい。基本的には“within 10 days of”が英語の発想とされているが,もし誤解が生じるようであればofに代えてbefore,after, prior to, followingといった前置詞を使用するのがよい。内容によっては“no (not) later than”を使って書き替えることもできるが,文体としては“within 10 days”が好まれるようだ。

主な参考文献
Merriam Webster(サイト)
A Dictionary of Modern Legal Usage (Second Edition)

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“For Beautiful Human Life”は問題ありません

2017-06-02 22:41:32 | 情報
「モットー」としての英語

 ネット上で調べ物をしていたら”For Beautiful Human Life”という英語が目に入った。検索してみたら,まだ多くのサイトでこの言い回しを話題にしているのに驚いた。しかも,ほとんどがこの英語の間違いを指摘するサイトばかりで,これも驚きだった。
 この英語は昔,日本の大手化粧品会社がTVコマーシャルの中で使い始めたキャッチフレーズで,当時話題になった。ところが,日本在住のネイティブスピーカーの間から英語が間違っているという指摘が出始め,それが理由かどうかはよくわからないが,いつの間にか使用されなくなった。当時,この英語のどこに間違いがあるのか興味があったので雑誌記事などをいくつか調べてみたが,ネイティブによって意見が必ずしも一様ではなかった。lifeにbeautifulを付けるのはおかしいとか,human lifeは「人命」だからナンセンスだとか,はっきりした理由がわからないままに,ほとんど忘れかけていた。
 その後,今から15年ほど前,日本で英語を教えている米国人の先生方と交流する機会があったときに,”For Beautiful Human Life”を思い出し,どこが間違っているかを聞いてみた。一人だけ,30年も日本に住んでいるという人は「特におかしいとは思わないけれども」という返事だったが,ほかの人は,おかしいと言う。しかし,どこがどう間違いなのかそのときも明確な答えは得られなかった。ネイティブの間では元々こういう言い方はしないのだろうという程度の認識に終わり,疑問の解消には至らなかった。
 ちょうどそのころ,都内のある会社から商談の通訳を頼まれたことがあった。相手が米国東部のインテリ社長と聞いて,これはよい機会と考え,個人的にこの問題を聞いてみることにした。質問をしてたちどころに答えが返ってきた。「この英語はまったく問題ありません」という。「これはスローガンやモットーなので,どんな言葉を並べてもよい。何の問題もない」。同行して来たもう一人の幹部も同じ意見だった。思いも寄らない目から鱗のような回答に霧は晴れた。

造語としての日本語

 しかし,これですべてが解決したわけではない。英語として間違っているという指摘をどう考えるかだが,そもそも英語を基準に判断していたところに問題があったのではないだろうか。このコピーは英語ではなくむしろ日本語として理解すべきだろう。英語をベースに造られた日本人向けの造語なのだ。こうした造語は,もう一つの外国語である漢語の世界ではいくらでもある。日本では近代に入ってから西洋文化を移入するときに言葉の翻訳の必要から,漢語を使って造語することが盛んに行われた。中国はまだ近代化していなかったため,中国の漢語を拝借することができず,漢字を組み合わせて言葉を造った。現在,日本や中国で使われている学術用語や実務用語の多くは日本で造られたものだ。英語は漢語に比べると日本に持ち込まれてからはるかに日が浅いので,まだほとんど消化されていない状態だが,将来,もしかしたら"beautiful human life" が英語圏に移入されて日常的に使用されるようになるかもしれない。
 ”For Beautiful Human Life”は日本語であればこそ日本語の語調とも調和し,そのエレガントなイメージと共に女性の心を捉えたのではないだろうか。


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翻訳は英語力

2017-05-31 23:17:03 | エッセイ
 実務翻訳の検定試験で採点を依頼された。英文和訳の答案が30件ぐらいあったが,誤訳が多かった。誤訳を見つけるのは比較的やさしい。文章がうまく書けているようでも話の辻褄が合わない部分はたいてい誤訳と考えてよい。翻訳の勉強を始めてしばらくの間は,自分の訳文がうまく書けているかどうか気になるものだが,実務翻訳の目的が主に情報伝達にあることを考えると,文章の善し悪しよりもまず原文の内容が正確に理解できているかどうかに注意を向けたい。
 原文が正確に読み取れない原因は主に,内容に対する知識不足と英語力の不足にあると思われる。このうち,知識不足はそれほど大きな問題とは思えない。多少時間はかかるかもしれないが,市販の参考書やネットなどを利用すれば誰でも相当な知識が得られる。それに,専門知識が必要になるのはそれほど多いわけではなく,大部分は一般的な知識と想像力で理解できるような内容が多い。たとえ文章が複雑であっても,論理の展開を丹念にたどっていけば原作者の意図はおおよその見当がつく。これに対し,英語力が不足すると,いくら知識があっても論理の道筋が正確にたどれず,結果的に不正確な訳をしてしまう。

英語力の強化法

 翻訳に必要な英語力は英文の構造が正確に把握できること。内容がわかるかどうかは二の次である。私たちが日本語を読むとき,内容がわからなくても文の構造は即座に把握できるのではないだろうか。英語でもそれと同じようなことができれば英語力は十分ということになる。
 英語力を強化するには基本的に英文をたくさん読むことが必要だ。英文の種類はさまざまだが,英語の検定試験に出るようなコミュニケーション英語ばかりでは全く不十分である。翻訳では論理的な読解が中心になるため,多少むずかしい英文にあたり,内容や文の構造を隅々まで理解するような気骨の折れる努力も欠かせない。
 英語力の強化には読むことのほかに,英作文や英訳の練習が有効なことも強調しておきたい。英語を書くことよって英語の仕組みがよく見えてくるので,英語力は確実に向上する。実務翻訳には和文英訳という仕事もある。英語が書けると仕事の範囲も格段に広くなる。

 参考までに,採点した試験問題の中で特に誤訳の多かった部分を一つだけ紹介し,問題点を指摘しておきたい。
This Agreement does not establish or constitute Spansion as AMD's representative or agent for any purpose other than the marketing, sales and customer support of Products in furtherance of AMD's rights and responsibilities under the Distribution Agreement.
 これは米国の代理店契約の一節で,名詞中心の典型的な法律文である。簡潔でわかりやすい日本語に訳すのはそう簡単ではないが,英語自体はむずかしいところはほとんどない。契約書の前文に記述された契約締結の経緯は,大まかに次のようになっていた。
 「これまでAMD社とスパンション社は販売代理店契約を締結し,AMD社がスパンション社の製品を代理店として販売してきたが,こんど代理店契約を解消することにした。そこで,AMD社が行っていた代理店業務を担当従業員も含めてすべてスパンション社に移行し,スパンション社が引き継ぐ。ただし,AMD社は,移行期間中まだ従来の顧客に対して製品納入など一定の義務があるので,移行期間中,今度はスパンション社がAMD社の代理人としてそれらの義務の一部を継続して実施することにした。そのためには,両社の権利と義務をどのように分担するかを取り決める必要があるのでこの契約を締結する」
 以上のような前提を理解した上で上記の英文を見ると,ほぼ次のように訳せる。
 「本契約は,いかなる目的においてもスパンション社をAMD社の代表者又は代理人に指定又は指名するものではない。ただし,販売代理店契約に基づくAMD社の権利と義務を実行するために本製品のマーケティング,販売及びカスタマー・サポートを行うときは,この限りでない」。
 受験者がつまずいたのはin furtherance of AMD's rights and responsibilities以下のかかり受け。この部分を述語動詞のestablish or constituteに引っかけて訳してしまったことである。
 英文がよく理解できないときは,一般に意味と文法の2面からアプローチする。in furtherance of以下を述語動詞に引っかけて解釈しても意味をなさないので,述語動詞を修飾していないことは明らかである。では文法的にはどうか。述語動詞を修飾していると解釈するのは文法的にはおかしくないが,前置詞句は形容詞としての働きもする。直前のmarketing, sales and customer support of Productsを修飾していると解釈すると,全体の意味がすっきりと通じる。この部分を理解するには,in furtherance ofの前に例えばmadeを補い,分詞句として考えるとわかりやすい。
 文の構造にも注目したい。法律文では誤解の余地をなくすため,修飾語と被修飾語を極端に離れた位置に置くことはめったにない。文の構造がどうなっているかも文意を理解するときの重要な手がかりとなる。
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title(権原)とは何か?

2016-11-08 23:10:23 | エッセイ
 文化が違うと未知の概念に遭遇し,その意味を理解するのに苦労することがある。英米法のtitle(権原)などまさにその一つではないかと思う。titleは英文の法律文書や契約書の中によく出てくる用語で,簡単な使用例は次のとおり。
all rights, title and interests in and to the Software
titleの訳を用語辞典で見ると「権原」であったり「所有権」であったり,必ずしも一定しない。「所有権」ならownershipを使った方がわかりやすいと思うのだが,なぜtitleなのか。日本の用語辞典は一般に解説が難しく,英米の用語辞典は簡単すぎる傾向があって,素人には手に負えないところがある。
 日本の民法にも「権原」という用語が使われているが,こちらは「一定の法律行為、または事実行為をすることを正当化する法律上の原因」と解釈されている。これに対し,英米法のtitleはもともと不動産法の古い用語で,その背景には歴史的,実証的な意味がありそうだ。英米のサイトや参考書を調べてみるとほぼ次のようなことがわかる。
 その昔,英国ではありとあらゆるものが国王(monarch)のものと考えられていた。そして,家臣には役務(service)と引き換えに土地が封土(fee)として与えられ,家臣はその土地を初めて使用する権利を得た。それがあらゆる権利の発生するそもそもの大本であり,titleと呼ばれるものらしい。この辺は日本の封建社会の「知行」とよく似たところがある。titleは,通常は資格や権利を意味する言葉だが,ここでは国王の「お墨付きの権利」と考えるとわかりやすい。本来,titleの対象は不動産だが,それ以外に登録の必要な財産も対象となる。コモンロー国の一部では自動車の購入の際にcertificate of title(所有権譲渡証書)の登録が求められるという。titleは我々にとっては不可解な概念であっても,英語圏の人たちの間では日常的に使われている。
 英米法の土地には大陸法のような絶対的所有権(absolute ownership)は存在しないようだ。かつて国王が家臣に与えたのは領地の「保有権」(hold)であって,「絶対的所有権」ではなかった。英国では今でも土地は国家(State)のものという考え方をしている。相続人がいないか,一定の保有条件が満たされるとその土地は国家に復帰する(reversion)。不動産権(real estate)には保有期間に応じて2つの種類がある。その一つは保有期間に定めのないfreehold(自由保有権)であり,もう一つは保有期間が確定しているか確定可能なleasehold(賃借権)である。
 このうち,freeholdはさらに4つに区分されているが,その一つが,未来永劫に保有,相続,処分できるfee simple(単純封土権,土地所有権)である。大陸法の「所有権」に一番近い。売買取引の対象となるのは原則としてfee simpleの付いた不動産だ。今日,titleと言えば通常fee simpleを指しているので,実務上は日本法の所有権と同じように考えてよいだろう。
 ではownershipとは何か。普段は「所有権」と訳されるためtitleと混同しやすいが,土地に関してはtitleと同列に扱うことはできない。接尾語の-shipは「資格」や「状態」。法的権利としての明確な定義や厳密な用法は見当たらない。例えば,前記の自由保有権や賃借権のことをfreehold ownership,leasehold ownershipと言ったり,譲渡証書を使って譲渡される所有権のことをtitled ownershipと言ったりで,titleとownershipが互換的に使えるわけではない。
 参考までに,米国のあるサイトではtitleを次のように定義している。
a comprehensive term referring to the legal basis of the ownership of property encompassing real and personal property and intangible and tangible interests therein
(一般に財産の所有権を正当化する法的根拠のことで,その範囲は不動産及び動産,そしてそれぞれに存する有形無形の権利に及ぶ)
 こうした大雑把な定義ではまた振り出しに戻ってしまうのだが,はるか昔,国王に遡る「お墨付きの権利」が事の始まりであったことを考えると,何となくこの語のイメージが湧いてくる気がする。「権原」という訳語は適切なのか。カタカナ訳の方が原語のイメージは伝えやすいと思うのだが。

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trust(信託)の仕組みと用語

2016-11-03 21:04:22 | 情報
 信託関連の文書を訳すときは,「信託」の基本的な仕組みと用語の意味を理解しておきたい。
 英米法の信託は,個人(individual)が他人を受益者(beneficiary)として,受託者(trustee)との間で設定(create)する契約上の制度。この制度が成立するためには次の4つの要素(elements)が必要になる。settlor(委託者),trustee(受託者),beneficiary(受益者),そしてsubject matter(目的物)で,例えば次のような信託が考えられる。
 親が何らかの理由で自己保有の株式を子供のために他人に管理してもらうことにする。そこで,銀行と契約し,株式を銀行に譲渡して管理を委託する。信託契約の中で,子供が21歳になるまで株式の配当金を毎年子供に渡すよう指示し,子供が21歳になった時に株式の所有権が子供に移転するように定めておく。この場合は親がsettlor,銀行がtrustee,子供がbeneficiary,株式が目的物ということになる。
 信託はこうした三者関係が原則だが,中には変則的なものもある。例えば,米国の一般委任状(general power of attorney)には通常,次のような条文が盛り込まれている。
To transfer any interest I may have in property, whether real or personal, tangible or intangible, to the trustee of any trust that I have created for my benefit.
 この条項は「委託者」である「私」が「代理人」に与える権利の一つを規定したもので,その趣旨は「私の財産権を,私が自分を受益者として設定した信託の受託者に移転する」というもの。委託者と受益者が同一人物というところに不可解な点がある。
 調べてみると,信託の本家である英米法国の個人信託(private trust)にはさまざまな形態が見られる。受益者となるのは,信託を設定する本人でもよい。そのほか,残される配偶者(surviving spouse),未成年の子(minor children),慈善団体など誰でもよい。信託財産の譲渡は,遺言の中で書き残しておくこともできる。
 目的物の法律関係はどうなっているか。委託者が目的物を受託者に譲渡すると,受託者には目的物のコモンロー上の権原が移転し,受益者にはエクイティ上の権原が移転する。委託者には目的物に対する権利は一切残らない。
 英米法国の信託には「自己信託」という制度もある。これは委託者が自らを受託者として信託を設定するというもので,委託者が受託者と同一人物となるため,信託財産の権原を受託者に移転する必要がない。通常の信託のように信託宣言(declaration of trust)によって設定が可能であり,欧米では以前から広く行われているという。日本では欧米とのバランスをとるために,ようやく法律が制定され運用が可能になった。自己信託では,委託者が受託者の立場で受益者のために目的物を自由に管理運用できるという利点がある。


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