情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

一億総密告社会にしてよいのか!パート11~密告と内部告発との違い

2007-01-28 06:17:25 | ゲートキーパー(一億総密告社会)制度
犯罪収益移転防止法(ゲートキーパー法)が成立すると一億総密告社会になるって批判しているが、犯罪を防ぐための密告は必要ではないか…こういう反論がありそうだ。現にある自民党議員はそう言い放った。

確かに、行政や企業などの違法行為を告発する者を保護する必要はある…。ところが、犯罪収益移転防止法は「個人」の違法行為について通報を義務づけるものだからレベルが違うように思う。

そもそも、密告と内部告発の違いは何か?それは、密告は市民が市民の(違法)行為を通報することであるのに対し、内部告発は市民が大きな組織の違法行為を通報することであるという点だ。(ここでいう密告は犯罪収益移転防止法を前提にし、内部告発は公益通報者保護法を前提にしています)

つまり、密告はどちらかというと密告をしたからといって密告者に不利益が生じることはないのに対し、内部告発はそれを行うことで解雇されたり、いじめられたりするなどの不利益を被ることがある。
そのうえ、告発の必要性は、個人の違法行為を対象とする密告よりも組織の違法行為を対象とする内部告発の方が大きいはず…。

ということは、法律上、内部告発に対する保護は、密告に対する保護よりも充実していないといけないことになる。


ところが、公益通報者保護法による保護を受けるためには、通報先に応じて保護要件が設定されており、

① 事業者内部への通報は:1)不正の目的でないこと
に過ぎないのに、

② 行政機関への通報は:1)のほか、2)真実相当性を有すること
というように要件が加わり

③ 事業者外部への通報は:1)及び2)のほか、3)一定の要件(内部通報では証
拠隠滅のおそれがあること、書面による内部通報後20日以内に調査を行う旨の通知がないこと、人の生命・身体への危害が発生する急迫した危険があることな
ど)を満たすこと
というような厳しい要件が付されている。(ここ←参照)。

つまり、人の生命・身体への危害が発生する急迫した危険がない限りは、原則として行政機関以外の外部への通報は保護されないのだ。

だとしたら、犯罪収益移転防止法においても、密告の前に「あなたがしている行為は犯罪収益の収受に当たりうるから、きちんと対応をするべきだ」という助言をする機会を設けるべきだと思うが、そのような制度設計にはなっていない。

明らかに、内部告発については、告発をさせない方向で制度設計されており、密告については密告しないとペナルティを受ける規定を設け、密告を奨励させる方向で制度設計されている。

行政・大企業の違法行為はできるだけ隠蔽し、市民の違法行為はそのおそれがあるだけでどしどし密告させる…こんな社会にしてよいのでしょうか?!

イラストはこちら(←クリック)よりお借りしました。赤字部分はヤメ蚊。






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1 コメント

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Unknown (冥王星)
2007-01-30 12:47:09
久しく出入りしておりませんでしたが、公益通報者保護法のネタがあるので、不詳ながらコメントを
基本的に「内部通報者保護法」は公益性という判断事由の難しさの局面と告発先の不在という部分でまだまだ未成熟な部分があります。記事の指摘にあり、内部告発と密告の差異には異論がありますが、そこは放置しておきます。
法学者の間からは、内部告発を制約するという意味で批判のあった同法ですが、施行後の実態では、内部告発件数が逓増したという観測もあります。問題はその受け皿になる第三者機関がそもそも数が少ないことと保護規定の拘束性についても不明瞭であることもあります。しかし、致命的な問題は、法的な保護があっても一般社会が内部告発と密告とを混同したまま嫌悪する土壌があることではないでしょうか?
雪印の食肉表示偽装問題で内部告発(厳密にはちょっと違うのだが)した「神戸冷蔵」はその後復活したとは言え、暫定的な保護規定がないため、2年ほど冷や飯を食わされたことはメディアでも報道されているわけです。
社会の帰属意識が会社の不当行為を看過することもしばしばありますが、これは一般社会のモラルの問題として日本人として留意するべきでしょう。(そういうう意味では、司法取引などが内部告発の環境整備で必要だと思っていますが・・・)共謀罪というレベルではなく、まずは、内部告発のレベルから日本の社会浄化理念の整備付けが必要なのですが・・・
っていうか、公益の概念そのものから考えるべき問題であって、密告レベルの法理はどうやっても立法化できても行政運用できるとは思えないのだが・・・・そういう意味でも、人権擁護法案のように運用局面の難しさを含めて立法化されても行政措置が簡単にできないことから自分は危惧してはない。というよりも、国際法的な課題として共謀罪が必要である、という議論もしないまま、論じている共謀罪の論理も・・・違うとは思うのだが・・・・国内法的な取り扱いだけで見るべきではないとだけ注釈しておきたい