情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

匿名発表~米国事情(毎日新聞)

2006-01-31 07:27:17 | 匿名発表問題(警察→メディア)
不定期で毎日新聞に火曜日に掲載されている海外の匿名発表・実名発表報告は,メディア関係者だけでなく,市民も必見。今回は,米国。【徹底した情報公開法を持つ米国では事件・事故の報道に関して、加害者と同様、一部の例外を除いて被害者も実名にするのが大原則となっている。しかし、日本と同じように、被害者のプライバシーやメディアスクラム(集団的過熱取材)による報道被害が問題となり、警察当局が被害者の氏名を匿名で発表するケースも増え始め、メディアと警察の対立は日常の風景となりつつある】(毎日新聞特集)という。

米国は,基本的に表現の自由を重視する国であり,【犯罪被害者についての米国の情報提供システムは連邦政府、各州政府で異なり、複雑だ。大原則は、米憲法修正第1条の中の「連邦議会は、言論もしくは出版の自由の権利を制限する法律を制定してはならない」という記述だ。このため機密指定の情報を除き「公的情報は公開される」という前提のもとで公的記録の情報公開を定め、被害者情報に関しても性犯罪被害者や児童虐待被害者などを例外として、原則公表している場合が多】く,【ジャーナリスト支援団体「報道の自由のための記者委員会」のまとめによると、米国では少なくとも15州で独自の情報公開法を制定している。他の州もほとんどが通常の法律の中で情報公開に関する項目を設けるなどして、警察情報の公開の原則を確認している。】という。

しかし,【警察側の恣意(しい)的な基準や被害者の意向で実名が公表されないこともあり、メディアが情報公開を求めて訴訟を起こすケースも多い。】という。日本では,警察情報を開示する法的根拠は明らかではなく,訴訟を起こすこと自体困難だ。

毎日は具体例を紹介している。

【97年4月24日深夜、ロサンゼルス郊外。車内で銃の暴発事件があり、当時24歳の女性が背中に銃弾を受けた。銃を暴発させたのは後部座席にいた非番の警察官。もう一人の非番警察官が車を運転していた。
 女性は事件発生直後、警察を相手に実名と捜査情報の公表の差し止めを求める訴訟を起こした。「プライバシーの重要性は国民の知る権利に勝る。名前の特定が公共の利益を果たすことはない」という理由だった。
 裁判所が女性の訴えを認めたため、今度は地元のプレス・エンタープライズ紙が警察に対して公式に被害者氏名の開示を要求。警察がこれに応じなかったため、カリフォルニア州内の公的機関に公文書の開示を義務付けた州公文書法を根拠に訴訟を起こした。】

話は簡単ではなかった。
【ところが、訴訟が進行中の同年6月3日、女性が名乗り出た。詳しい理由は不明だ。弁護士は「状況が変わった」とだけ説明する。後遺症でひざから下が動かず、車椅子生活を余儀なくされていた。実名公表後、父親が取材に応じ、事件の詳細な経緯が初めて明らかになった。
 同紙によると、女性は運転した警察官と前からの知り合いで、たまたまレストランで顔を合わせた。銃を暴発させた警察官はその警察官と一緒で、泥酔していた。女性は車で送ってもらうことになり、助手席に乗ったが、後部座席に座った警察官が銃の入ったバッグに手を入れ、財布をつかもうとして銃の引き金を引いてしまったという。女性側は「偶然で引き金を引くなどあり得ない」と主張した。
 実名公表の10日後、検察は「銃の引き金を故意に引いたという立証ができない」との理由で警察官を不起訴にした。父親は「検事は警察官を守ろうとしたとしか思えない」とコメントした。
 実名が公表されなければ、事件の詳細は闇に葬り去られる恐れもあった。プライバシーと真実のせめぎ合いを象徴する事件だった。】

一般論としては,ニューヨーク・タイムズ紙のウィリアム・ボーダーズ主任編集長は,【「ニューヨークの場合、(性犯罪を除き)警察は常に被害者の名を公表する。警察が情報を公開しない時は警察官が事実を隠したい時だ。米国には情報公開法がある。警察が被害者名を開示しない場合、我々は要求する。『警察は名前を出す義務があるんだ』と。それでも出さなければ訴訟を起こす。米国の報道の自由は深く社会に根付いている」】と語り,【日本が昨年末、被害者の実名・匿名発表の判断を警察に委ねるという閣議決定をしたことについて「日本の決定は驚きだし、恐ろしい。警察にそんな判断を委ねること自体、危険なことだ」と付け加えた。】というのがメーンストリームだろう。

しかし,報道の自由を謳歌(おうか)する米メディアを取り巻く事情も、地域によって違った顔を見せており,【アラバマ州の「アラバマ犯罪司法情報センター委員会」は今月19日、すべての警察記録の被害者名、住所、電話番号、さらに事件・事故の発生場所などの情報を非開示とすることを決めた。】という。

【警察署長が被害者名や一定の事件情報をメディアに提供する裁量権を持つが、地元メディアは被害者情報が得られなくなるとして猛反発している。
 同委員会が警察情報の提供のあり方を検討していた。非開示の理由は(1)二次犯罪から被害者を守る(2)加害者や友人からの嫌がらせを防ぐ(3)メディアの取材攻勢から被害者を守る--などだ。
 委員会で最大の問題となったのがメディアスクラムだった。委員会に所属する犯罪被害者救済団体メンバーが、被害者が事件直後のメディア取材でプライバシーを侵害された状況を報告し、「娘を殺害された数時間後にメディアが押しかけ、身内で悲しむこともできなかった」と訴えた。】

この制度は6月4日に実施されるというが,果たして,本当に実施されるのか,それとも,メディア側が巻き返すのか?

ぜひ,毎日にはフォローしてほしい。





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