「あ?やめとけ、やめとけ。そもそもお前は恋の何たるかが分かってないんだから。」
時間あるか?無いなら作れ、と先輩から電話があり、六本木交差点近くの古い喫茶店にいた。何故か、というより、そうだ先輩が言ったんだった。「最近恋してるか?」と。
「自分で聞いたんじゃないですか?『恋してるか?』って」
僕は正直に優美の事を話したのに、鼻から否定されて少しムカついた。
「あのな、本当に恋をしてたらな、『いや、そうですね、今は、うーん』とか言って誤魔化すもんなんだよ。そんないけしゃぁしゃぁと、好きな人が居ます、なんてのは恋じゃねぇんだよ。」
「いや、まぁ勝手な片思いかもしれないっすけど、でも好きな気持ちに嘘は無いですよ。」
若干僕もムキになって答えていた。
「じゃ、その片思い、どうすんだよ?ずっと片思いし続けるのか?」
実際、次はどうしよう?等と考えた事はなかった。もしかしたら、このまえ会って話した事で、どこか満足してしまっているような気さえしていた。でも、このまま会わない、というのは自分の中でも諦めがつかなかった。というより、会いたい。
「連絡しますよ。それで、また会って、食事して、とか。」
「あのな、」先輩は僕の言葉に被せるように言った。
「月っていうのはな、遠くで見るから綺麗なんだよ。近づいて着陸でもしてみろ、クレーターでボコボコじゃねぇか。」
「はい?なんで月?つーか、そんなことはないでしょ。そういう外見の話じゃなくて」
「同じだよ。月の昼と夜の温度差なんて何度あると思ってる?女の心なんてそんなもんだよ。お前は月で生きていけるか?宇宙服持ってんのか?」
僕はやけ気味に、
「じゃ、先輩は何で女性と付き合うんですか?」
と聞いていた。
「俺はNASAで訓練を受けた。でも何度月面着陸に失敗したことか。ヒューストンとの交信回数はダントツだったな。」
呆れて物が言えない、と思ったが、そもそもそれが先輩であった。そして、そうと知りつついつも話してしまうのが僕なわけで、僕こそ呆れてものが言えない対象だった。
「まぁ、いいや。ところで、その子のどこか好きなの?」
一瞬色んな彼女の素晴らしい点が過った。でも、どうせ結局は「おっぱいはデカイのか?」等という低俗な話題に変換されるのは火を見るより明らかだった。少し悩んだ末、一つ決定的な魅力を思い出した。
「彼女、超能力が使えるんですよ。」
自分でもバカだと思いながらも、先輩にバカにされるのを待っている自分を僕は嫌いじゃなかった。しかし、先輩は意外にも笑いもバカにもしなかった。
「マジか?おい、今度会わせろよ。」
「え?まさか信じるんですか?」
「お前は信じない。しかし、彼女が超能力者だという事は信じる。」
一瞬哲学的な表現に感じたが、ただの気のせいだった。
その後はまた他愛の無い話を続けたが、別れ際に先輩は「車買えよ」ではなく、
「おい、ちゃんと会わせろよ。ユリ・ゲラー以来の超能力者に。」
と言っていた。
(つづく)
時間あるか?無いなら作れ、と先輩から電話があり、六本木交差点近くの古い喫茶店にいた。何故か、というより、そうだ先輩が言ったんだった。「最近恋してるか?」と。
「自分で聞いたんじゃないですか?『恋してるか?』って」
僕は正直に優美の事を話したのに、鼻から否定されて少しムカついた。
「あのな、本当に恋をしてたらな、『いや、そうですね、今は、うーん』とか言って誤魔化すもんなんだよ。そんないけしゃぁしゃぁと、好きな人が居ます、なんてのは恋じゃねぇんだよ。」
「いや、まぁ勝手な片思いかもしれないっすけど、でも好きな気持ちに嘘は無いですよ。」
若干僕もムキになって答えていた。
「じゃ、その片思い、どうすんだよ?ずっと片思いし続けるのか?」
実際、次はどうしよう?等と考えた事はなかった。もしかしたら、このまえ会って話した事で、どこか満足してしまっているような気さえしていた。でも、このまま会わない、というのは自分の中でも諦めがつかなかった。というより、会いたい。
「連絡しますよ。それで、また会って、食事して、とか。」
「あのな、」先輩は僕の言葉に被せるように言った。
「月っていうのはな、遠くで見るから綺麗なんだよ。近づいて着陸でもしてみろ、クレーターでボコボコじゃねぇか。」
「はい?なんで月?つーか、そんなことはないでしょ。そういう外見の話じゃなくて」
「同じだよ。月の昼と夜の温度差なんて何度あると思ってる?女の心なんてそんなもんだよ。お前は月で生きていけるか?宇宙服持ってんのか?」
僕はやけ気味に、
「じゃ、先輩は何で女性と付き合うんですか?」
と聞いていた。
「俺はNASAで訓練を受けた。でも何度月面着陸に失敗したことか。ヒューストンとの交信回数はダントツだったな。」
呆れて物が言えない、と思ったが、そもそもそれが先輩であった。そして、そうと知りつついつも話してしまうのが僕なわけで、僕こそ呆れてものが言えない対象だった。
「まぁ、いいや。ところで、その子のどこか好きなの?」
一瞬色んな彼女の素晴らしい点が過った。でも、どうせ結局は「おっぱいはデカイのか?」等という低俗な話題に変換されるのは火を見るより明らかだった。少し悩んだ末、一つ決定的な魅力を思い出した。
「彼女、超能力が使えるんですよ。」
自分でもバカだと思いながらも、先輩にバカにされるのを待っている自分を僕は嫌いじゃなかった。しかし、先輩は意外にも笑いもバカにもしなかった。
「マジか?おい、今度会わせろよ。」
「え?まさか信じるんですか?」
「お前は信じない。しかし、彼女が超能力者だという事は信じる。」
一瞬哲学的な表現に感じたが、ただの気のせいだった。
その後はまた他愛の無い話を続けたが、別れ際に先輩は「車買えよ」ではなく、
「おい、ちゃんと会わせろよ。ユリ・ゲラー以来の超能力者に。」
と言っていた。
(つづく)