1月21日から始まったポーラ美術館の企画展だが、印象派の「行方」と称するだけに、ルノワールやモネが印象派展を離脱した、1880年以降の動きに着目したのが珍しい。
点描のスーラにポスト印象派のゴッホ、色彩が強烈な「フォービズム(野獣派)」のヴラマンクらが台頭する一方、堅固な印象派を保持するセザンヌ、印象派後期作品に影響を受けたマティスやボナール、ルノワールの裸婦画を買っていたピカソら、印象派と関わり活躍した画家たちも。
柔らかな印象派が、理論派・前衛的作風に押されていく。その中で回帰や継承という形で、印象派の流れが後世へ繋がる。こうした動向が、絵の比較や画家同士の関わりをもとに解説された、ちょっと珍しい意匠の印象派絵画展だった。
鑑賞後にはレストラン「アレイ」で、企画展限定のコースメニューによる懇親会が催された。ルノワールら印象派にゆかりがある品が並び、メインの鶏のローストは、ルノワールの妻アリーヌの得意料理。静岡産の若鶏が皮はパリッ、身のふっくら優しい柔らかさが、家庭料理ならではの慈愛にあふれる。
上にかかるクリームソースはシェリー風味で、チーズとの重奏な酸味が肉の味を膨らませる。食材個々が際立たないのに味が立体的なのは、輪郭をはっきりさせずに風合いを出す、印象派の真骨頂らしい趣がある。
スープはルノワールが晩年過ごしたプロヴァンスの名物、ブイヤベース。南仏の太陽をたっぷり浴びたトマトの際立つ酸味に、エビ、ムール貝、鯛など海鮮のダシが加わったスープは、ルノワールとセザンヌが連れだって、料理店「エクスバン・プロヴァンス」に習いに行ったエピソードもあるとか。
具材の煮え加減が絶妙で、魚介それぞれに合った熱の加え方が考えられている。こちらは点描や輪郭の明確化といった、理論派絵画的な味わいか。
20世紀に入ってから印象派は置き去られたのか。それとも今もなお、形を変えて継承されているのだろうか。独特な印象派企画展の結論は何とも言えないが、同時代の南仏の食文化がしっかり継承された答えは、この皿にきちんとあり、だ。