ローカルごはんには、その土地のありのままの姿が描かれている。最も色濃く見られるのが、鍋。地産の山海の食材がオールインワンで、調味の背景には当地の生活や食文化が透けて見える。いわば、土地の魅力をまとめて煮詰めた、小さな世界。そこへいざなわれ、つつき、即「土地の人」気分になれることこそ、鍋の本領である。
自身の故郷や居所から、自慢の鍋を挙げられれば、恵みある地で暮らした証。まして二つも出てくれば、かなり幸せなことだ。アンコウ鍋に奥久慈しゃも鍋と、ご当地鍋が即座に挙がる茨城県は、水産も畜産も全国屈指という、豊かな土地柄を示しているようでもある。
奥久慈しゃもは大子町を中心とする奥久慈地域で生産され、「山のとり肉」なる愛称のあるローカルミート。低脂肪で適度に脂がのり、引き締まって歯ごたえがしっかりした肉質は、鍋の具にもってこいの力強さだ。ガラから出るスープのボディもしっかりしているから、県産の野菜にもじっとり味が染みてうまいこと。県を代表する銘柄鶏の実力を、余すところなく堪能し切れる鍋である。
寒暖の差が激しい八溝山麓の気候の下、平飼いで飼育すること。野外でしっかりと運動をさせ、穀類や青草も与えること。県北の山間部の風土や飼育農家の手間隙こそが、奥久慈しゃものうまさの源、と思えば、茨城県のローカル鍋の味の奥行きも、ひとしお深いものがある。
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