夏目漱石の記事に、生徒を含め、思った以上に多くの方からコメントいただけましたので、せっかくですから、急きょ予定変更しまして、もう一つ続けましょう。生徒に、文学作品に興味を持ってもらうために…。
こちらも日本文学の代表的な一冊、何と言っても、ノーベル文学賞を受賞した大作家で、本書も、歴史に残る名作ですね。
とりわけ名文として知られる、その書き出し
『 国境(くにざかえ)の長いトンネルを抜けると雪国であった 』の一節。
“こっきょう” と読んでしまっては、名文のリズムが生きないそうです。へぇ~そうですかね、難しいですね。
ところで、この文には主語がありません。国境を通り抜けたのは、人のようでもでもあり、列車でもあり、時間、空間でもあり、主客合一というか、それを超越した形で対象を描くのが川端氏の特徴だと、何かで読みました。
さて、この一文だけとっても、日本人でもよく説明できないような芸術性を、外国人がどうして理解し、ノーベル賞を与えたのでしょうか。当然、英語に翻訳されていますが、この名文は、以下のように訳されています。
“ The train came out of the long tunnel into the snow country. ”
直訳してしまうと 「その列車はその長いトンネルを出て、その雪国へ入っていった」 と急に小学生レベルの日本語になりますが、上の英文と川端康成の名文とをよく見比べて下さい。
この英文、もとの川端の日本語には主語がなかったのに、 The train を“勝手に” 付け足してますよ、みんな! それだけでなく、逆に、日本文の重要なポイントであったはずの “国境の” の部分を、何と、何と大胆にも無視しているではありませんか!受験生では、絶対できない英作文ですね。確実に怒られます。でもこれが名訳なんですね。
これを翻訳したのは、エドワード・サイデンステッカーという人物。戦後24歳の若き外交官として来日し、アメリカきっての日本文学通で、古典を含め、数多くの日本文学を英訳しています。短歌などの英訳なんかもすごいんです。
川端康成がノーベル文学賞を取ることができたのは、サイデンステッカーの格調高い英訳があったからだとも言われています。
生徒諸君へ。本の楽しみ方はいろいろあります。もちろん合う、合わないもあります。先生は英語が専門なので、雪国について書くとこうなります(笑)。いずれにせよ、なんでこれが名文なのか、なんでこの本が(自分ではちっともおもしろくなくても) ずっと読まれ続けるのか、そんなことに関心を向けてくれたらうれしい。
夏休みも後半です。たまたま見たこのブログから、何か一冊でも、気になる本を見つけて、休み中に読んでいてくれたら最高。そして、なるべくなら、信頼できる国語の先生にも意見を聞くと良いですね。
http://tokkun.net/jump.htm
『雪国』 川端康成
新潮社:208P:380円
P.S. 小論文を書く人には一つ注意。このブログで、先生は、【 ! 】や【 ? 】などを頻繁に使っていますが、論文の試験では決して使ってはいけません。【!!!】
いいかい。【???】 英語とは違いますから、注意。本当ですよ。
雪国新潮社詳細 |
■■ たまにはランキングの経過報告です。■■
ところで仲間が、夏休み中にもかかわらず、わざわざ 『毎日ちゃんと押してますよ!』とメールで連絡をくれました。ちゃんと『読んでますよ』 じゃないんだ(笑)。まぁ、ありがたいことです。
おかげさまでずっと1位にさせていただいております。が、ちょっと危ないかも。お力を。
今日は6位で、過去最高5位です。まだパワー不足です。努力いたします。
気分転換で…。
D・キーンの本は文庫本などでも簡単に入手できますが、何故かエドワード・D・サイデンステッカーの本は見掛ません。青空文庫で調べたいと思います。
小生は
「湯島の宿にて」サイデンステッカー安西徹雄訳蝸牛社刊のエッセー集を一冊持っているだけです。時々読み返して大切にしています。<「源氏」を完訳し、川端康成のノーベル文学賞の立役者である著者が、日本人の微妙な心情まで鋭く洞察した友情溢れるエッセー集>と本の帯に書かれています。「雪国」の『国境』を無視なされた点のご指摘。さすがV先生です。因みにこの本では、「川端康成の死」については書かれていますが、雪国の英訳についてはふれていません。
ご指摘に肯きながら、英訳は英文和訳より難しいんだなぁと思いました。
また、こっきょう と くにざかい の論争があることも存じておりましたが…。
とりあえず、みなさんがこのコメントをお読みいただけると良いのですが…。
かなり前ですが、サイデンステッカーの自伝『流れゆく日々』を読みました。いつか取り上げたいと思います。また、TBいただいた真島先生のご著書もすぐにアップする予定でおります。確かに名著でした。ありがとうございます。
その方が「長い」にきれいに繋がる感じがしますし、一文目の冒頭から炳然と言葉を意識できます。
何処かでルビは振られていないのですかね。
特に『雪国』は書いてみるとその文章の美しさがより際立ちます。
ところで、今後の世代は古典を率先して読んでくれるかもしれません
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM&PG=STORY&NGID=soci&NWID=2006081801003506
ずっと1位だなんて尊敬しちゃいます。1位ということ以前に「ずっと」という継続性に感服。
雪国はきれいな小説ですよね。
長いトンネルを抜けると…っていう描写が圧巻です
興味深く記事を読まさせていただきましたm(_ _)m
何気にちょこちょこ覗かせてもらっえます♪
と、コメントしたときはポチッと応援させてもらってます。
私も上位目指して頑張りたいものです(^д^)
TBを覗いてしまいました。
小生は英語はまったく判りませんが、
<「夜の底が白くなつた」をどう英語にしたかのほうが興味があります。>に共感を覚えました。
10年ぐらい前、グループの落書き広報誌「□□瓦版」に、英語の副題を入れようと思って、英語の先生に瓦版をなんと訳すか相談したことがあります。「Tile block~」と訳してくれましたが気に入らず、詩人であり、フランス語堪能の畏友の仏訳で納得しました。なんと訳したか、いま散逸して見つかりません。直訳でなく、そんなセンスを盛り込んだ仏語だったことは確かです。
国境は〝くにざかひ〟なので、現代語では"くにざかい"だっぺと思います。
旧仮名に固執する作家も尠くなりました。
英語ならまだしも、雪国を『書く』というようなことは、私なんぞでは、到底思いつきません。新聞記事のことも全く知りませんでした。これからも折に触れて、ご指導下さい。