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『殉死』 司馬遼太郎

2006年04月27日 | 歴史

司馬遼太郎氏の作品は『竜馬がゆく』『坂の上の雲』『翔ぶが如く』など、数多くの長編歴史小説がありますが、本書はわずか170ページほどの作品です。しかし人物評伝としてはきわめて優れた作品だと思います。

乃木希典-日露戦争の英雄、『軍神』とされた将軍で、学習院院長、明治天皇の崩御に殉じ妻とともに自殺。当時、日本人の鏡とされ、本書は日本中の国民が涙したといわれるその英雄の死を描いているのですが、そこに至る一人の人間の歪んだ美意識、将軍としての無能ぶりを痛烈に暴いた評伝です。

『坂の上の雲』の秋山兄弟が、主人公であるにもかかわらず、小説の後半で非常に影が薄くなるのは、その戦争ではどうしても乃木を描かなければならず、更にその勝利へとあらすじを展開するためには、軍神・乃木の影に実は真の英雄、別の天才(児玉源太郎など)の活躍があったことを描写しなければつじつまが合わなくなってしまう、その結果ともいえないでしょうか。

そこでもまだ書ききれていない乃木に関する部分を書き直したのが本書です。司馬氏は一冊の小説を書くのにトラック一台分の資料を調べ上げるといわれます。読み進めるにつれて、その膨大な研究量に裏打ちされた壮大なる想像、構想力に引き込まれていかざるをえません。

本書においては極力虚構を廃し、与えられた事実の範囲内で思考を確かめていくという手法をとっています。氏も本書の中で“小説というより筆者のおぼえがき”と述べています。歴史小説家が素材を入念に調べ上げ、作品にしていく過程が読者にも分かるような気にさせてくれる非常に興味深い一作です。

乃木将軍に対しては日本人ばかりか従軍記者も含む海外からも多くの賞賛が集まっているにもかかわらず、また司馬氏は本書の中で自分は中立といっているにもかかわらず、ところどころに辛らつな表現があります。それは、その後司馬氏自身がその愚かな軍部、政府によって戦争にかり出された経験があるためなのか、また幼少のころ乃木将軍の賛歌を歌わされていた氏の教育界に対する批判、警告なのか?

憂国の士である司馬氏にとって“乃木希典=英雄”という歴史的清算だけは許せない。調べていけばいくほど、どれほど彼のために犠牲になった命が多いことか明らかになる。戦争史上最悪の犠牲者を出しながら、世界中から、強国ロシアを破った将軍ということで賞賛を浴びていたことに我慢ならなかったのでしょうか。

私の祖母はもう二十年ほど前に亡くなっておりますが、実際にいつも乃木将軍を崇めていたのを記憶しております。本書を読んだら悲しむでしょう。また、今は逆に、映画『203高地』や、司馬氏の影響力が強すぎて乃木=無能という考え方が定着しつつあり、そのことに対する反論もありますね。

いずれにせよ、このように丹念で鋭敏な観察眼で第二次世界大戦や昭和天皇についても考察して欲しかったと思います。

http://tokkun.net/jump.htm
殉死

文藝春秋

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13 コメント

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TBありがとうございます。 (hit)
2006-04-27 23:59:09
司馬遼太郎氏が歴史小説を書き始めた理由は、

果たして第二次世界大戦がいかに日本にとって

おろかな選択だったのかを、歴史的見地から

実証しようと試みたことにあったとの記述を

読んだことがあります。

確かに、殉死を読んでいても、大日本帝国思想に

つながっていく日本という国のおろかさを

まじまじと見せ付けられます。



こういった時代が二度と日本に起きないように、

今一度、司馬遼太郎氏が訴えた警鐘を、

今の時代の人々ももっと真剣に考えるとき

時代に差し掛かっているのではないかと私は感じております。
夫のかわりに、 (tiakujo)
2006-04-28 00:11:57
夫は司馬遼の大ファンでした。崇拝者と言ったほうが正しいかも。でも脳梗塞でたおれてから、本を読めなくなりました。持久力がないのです。

それでも私よりずーっと詳しいから、昔読んだ内容は、いろいろ教えてくれます。

このVIVAさんの記事が読めたとしたら、きっと大はしゃぎすることでしょう。

174頁で410円なら、私でも買って読めそうだから早速に・・・

私も「殉死」お薦めと思います (モモタ)
2006-04-28 12:02:47
私の世代ですと乃木大将のことを誇大評価して教え込まれたようなことはありませんので、本書の書き方は抵抗感なく受け入れられました。



私が司馬さんの著作から学んだことは「明治の人たちは頑張っていたんだな」ということです。

結果、明治時代に日本が独立を保ちえたことに後世の私たちとしても誇りをもっていいと思います。

ただし、同じく司馬さんの言うように、昭和期に入っておかしな方向に進んでしまったのは大変残念だと思います。
Unknown (tiakujo)
2006-04-29 01:21:49
読書感想でないけれど、VIVAさまからコメントがもらえてうれしくて、また書いてしまいました。

夫は、脳梗塞で本が読めなくなったけど、リハビリの散歩と称して、早速買ってきてくれました。

私はまだ30頁しか読んでません。でも乃木大将が共通の話題となって、夫はご機嫌です。

ラストに、司馬遼太郎記念館がのってて、二人でいってみようかね、と言ったら、大阪だったので笑い話で終わってしまいました。
初めまして ()
2006-04-29 10:24:23
TBありがとうございました。

私の記事には直接司馬作品について言及しているわけではないのですが、よろしかったでしょうか。

私の記事にもあるとおり、司馬遼太郎氏の作品が好きなのは私の母で、私は中学時代にちょっと読んで挫折したクチだったりします。

ですがこの『殉死』という作品は良いんですね。

短い物語の中にたくさんのエキスが詰まっていそうな作品とお見受けしました。

司馬氏の作品から遠ざかってから5年以上の月日が経ちました。私のおつむも少々成長しているみたいなので、また司馬氏の作品を手にとってみようかと思います。

初めまして (ryouma)
2006-04-30 23:57:53
TBありがとうございます。

司馬遼太郎初心者ですが、竜馬がゆくと燃えよ剣とか翔ぶが如くとかメジャーどころしか読んでいませんが、司馬遼太郎の熱意のこもった人物研究に基づいた本当に生きているかのような登場人物たちにはいつも感激して読んでいます。

『殉死』も読みたくなりました。他にも色んな作品に触れていきたいと思います。
コメント恐縮です (VIVA)
2006-05-01 14:54:14
記事にも書いたのですが、本当に坂の上の雲と殉死における乃木将軍はあわれです。私も複雑な思いですが、歴史の事実を拾い上げてゆくとこうなるのでしょうね。司馬氏は中心にいる人よりも、少しずれたところの影のヒーローを好むのではないでしょうか?

長くなりそうなので、このあたりでやめて起きましょう。また、一つ一つのコメント心より感謝しております。まとめたような返信になってしまい申し訳ございません。皆様のブログにおじゃましてお礼申し上げます。
乃木希典のこと (お絵かきじいさん)
2006-09-08 11:46:15
VIVAさん、今日は、

トラックバックさせていただきました。

この本は読んでいませんが、司馬遼太郎は、戦争中の戦車隊での経験から、日本軍の精神主義に対する怨恨があるのですね。私は長州に縁があるのですが、司馬遼太郎は大阪住まいだったがもとは薩摩なので・・・ということを山口県の人がいっていました。薩摩vs.長州です。

皆さん、福田和也の乃木希典も読んでご覧ください。
最近は、乃木将軍の再評価が進んでいます (cse_ri2)
2006-09-08 13:39:33
VIVAさん、はじめまして。いつも、このブログを楽しく読ませてもらっています。



司馬遼太郎は私もハマッた一人ですが、VIVAさんが触れているように『殉死』は、それまで軍神とされていた乃木希典を再評価するという目的があってのことかと思われます。



しかし最近では、日露戦争に対する軍事的側面からの研究が進み、本当に乃木将軍は愚将だったのかという点で疑問がもたれるようになりました。



『「坂の上の雲」では分からない旅順攻防戦―乃木司令部は無能ではなかった』

 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4890631690



結論から言うと、乃木将軍は有能でも無能でもない、平均的な将軍だったということです。

しかし、ヨーロッパでも前例のない近代要塞の攻略を命じられて、多数の死傷者を出してしまいました。

しかし、後の第一次世界大戦においては、イギリスやドイツの将軍が機関銃と塹壕で防備した戦線に、乃木将軍と同じ白兵突撃を敢行し、同じく大損害を出しています。



最近は、NHKの『歴史が動いた』でも、乃木将軍の戦術はそんなに悪く書かれていません。



軍神乃木を批判する意味でこの本は大変重要ですが、軍神でも愚将でもない乃木将軍の姿を認識すべき時代になったのではないかと、考えています。

お絵かきじいさんさん (VIVA)
2006-09-08 14:33:05
こんにちは、ご紹介いただいた本は、新聞の確か広告で見まして、気になっていたところです。↑の記事にも書きましたが、祖母の件がありましたので、あまりにも哀れに感じていたのです。



司馬氏が、軍人の死を悼み、指導部に反感を抱くのは、理解できますが、薩摩VS長州とは気付きませんでしたね。今、たまたま長州の人間が横におりましたので(笑)聞いてみたら、“薩摩より会津です”と言う答えでした。(日本史を教えている者です)



お絵かきじいさんが薦められるのであれば、まずチェックしなければなりませんね。
cse_ri2さん (VIVA)
2006-09-08 14:42:19
はじめまして、VIVAでございます。拙ブログをご覧いただいているとのこと、大変恐縮です。また、貴重なコメントとリンクありがとうございます。





司馬氏の影響力が強すぎるためか、やはり乃木将軍は無能というのが定着してしまいましたね。昨年亡くなった、大原一三氏が、若い人は、司馬史観に毒されてしまっていると著作の中で嘆いていました。



昔は、軍神の評判がすごかっただけに、激しい揺り戻しが起こり、今度は、それが強すぎて、振り子がもとに戻るようなものでしょうか。



こう考えますと、起こったことは一つだとしても、それぞれの見解があり、歴史というのは、なかなか難しいと感じます。また勉強したいと思いますので、どうぞ気軽に、コメントなどをいただければ幸いです。
お絵かきじいさんのある日 (お絵かき爺)
2006-12-08 13:23:33
VIVAさん、
今日は、
久しぶりにお邪魔します。
この頃、司馬遼太郎は、ちょっと、という感じがしております。
TBをさせていただきました。
今後ともよろしく。
お絵かきじいさん (VIVA)
2006-12-08 17:53:10
ごぶさたばかりですみません。TBにコメントありがとうございます。記事拝見しました。よくもあれだけまとめられました。

司馬遼太郎の紀行文は読んだことがありませんが、韓国に関するものだけでも読んでみたいと思いました。

これからもどうぞいろいろTBなりコメントなりしていただき、いろいろ教えていただけるとうれしいです。


ところで…、
いつも美しい絵を拝見しております。とてもコメントできるほどの知識はありませんが、素人なりに、楽しんでおります。

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