ときにん Book Review

読んだ本とその感想

「『毒親』の子どもたちへ」斎藤学

2015-04-19 02:31:30 | Non-Fiction
「『毒親』の子どもたちへ」斎藤学著 メタモル出版 2015年

現在の自分の身に起こっている問題や悩みの根本的な原因が親との因果関係にあり、子どもの人生を支配して子どもに害悪を及ぼし、子どもの心身を蝕む親という「毒親」という概念が最近のメンタルヘルス系でブームのようで書店にも数多く見かける。その中でも本書は一般に流布した「毒親論」を一面的であるとし、その背景や認識の誤りなどを平易な文章で丁寧に解説している。

著者はアルコール依存症や摂食障害などが専門で、アメリカで生まれたアダルト・チルドレンの概念を日本に導入した精神科医。自身のクリニックで接した様々な症例も上げられていて、臨床で培った長年の経験に裏打ちされたわかりやすく丁寧な解説は、読者自身の客観視を促すカウンセリングの効果もあると思う。

アダルト・チルドレンにしても毒親にしても、認識するのは成長のひとつの出発点としてであって、決してダメである原因にする「着地点」ではないと説く。

「毒親論」は本質的に宿命論のため、上手くいっていないと本人が思う現状からどうやって抜け出すか、という点に考えを向けることが重要と重ねて述べてあり、過去がどうこうだったから今こうだ、という直線的な原因結果論に異議を唱えている。

一方で、親の過干渉や必要以上の期待などが重圧に…、などというありきたりな毒親被害者ではなく、性的被害や日常的な暴力に晒されるなど、深刻な悪影響をもたらす重大な「毒親」をもった子どもはその後、成長(あるいは生き残る)ことに専念している人が少なくないという。振り返ってしまうと血が噴き出す悲惨な過去を持つ人と、回想できる範囲内にとどまる程度の人との違いであろうか。親のせいに出来るうちはましなのかもしれない。

要するに、現状で上手くいかないのを親のせいにしている依存対象への甘えであるというのが「毒親論」の背景としている。

本書ではその「認知のゆがみ」をどう修正していくかを具体例をあげてアドバイスしてあり自分自身も読んで浄化されたような気持ちになった。
クドクド考えることを止めるのは、本書のオビに内田春菊が寄せている文言の中にあるように「人生と時間の大いなる節約」であることを気づかせてもらった。

確かにダメな自分を親のせいにするのは簡単である。自分自身の責任じゃないから。けれどもその考え方は問題が発生するたびに不可逆的な事象(毒親体験)を心の中でグルグル永遠に反芻し続ける無意味な苦行を自分自身に課すことになる。

人生は大なり小なり問題があるのが常だから、これは辛いままだし何の解決にもならない。じゃあこれからどう問題に対峙すればいいのか。本書は最終章で夏目漱石の「明暗」の分析を通して読者へ一つの打開策を示している。
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